シンポジウムS4
「実験動物福祉への取り組み」−イヌの馴化とエンリッチメント−
白幡 春菜、柏山 浩、末田 輝子、笠井 憲雪(東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設)
動物福祉の基本概念の一つとして,世界獣医学協会(WVA)は動物行動学的知見に基づき,1)飢えおよび渇きからの開放,
2)肉体的不快感および苦痛の開放,3)傷害および疾病からの開放,4)恐怖および精神的苦痛からの開放,5)本来の行動様式に従う自由の5項目
(5freedom)を提示している。しかし,実験動物ではこれらの5項目が制限されることは避けられず,実験動物は,実際の実験にいたるまでの長い期間
を飼育管理の状況下に置かれていることを考えると,「実験動物の福祉」を実現するには,飼育管理者の果たすべき役割はとても大きい。「サルの福祉」
の取り組みは,2003年の秋田で行われた勉強会で報告した。今回演者は,ペット動物でもあるイヌ(ビーグル)の福祉の実践について,東北大学の
取り組みを紹介する。
イヌは私達にとって,とても身近な動物である。また,昨今は,単なるペットでは無く,伴侶動物(コンパニオンアニマル)
という言葉も生まれ,その代表的な存在となっている。しかし,実験動物として向き合ったときに,どのように接し,どのような規準で飼育管理をし,
どのようにしてイヌの福祉を考えたらいいのか具体的な手引き書は見あたらない。
当施設では2006年3月から,勤務時間終了後に全職員が交替でイヌのハンドリングを行うことにした。この様な取り組み
を始めた理由は,ペット動物の代表であるイヌの一番の幸福は,人間にかまって貰うことだと思ったからである。日常の飼育管理業務時間内だけでは,
十分なスキンシップが出来ないからである。イヌのハンドリングの項目は,「優しく声をかける」,「ケージから取り出す」,「ブラッシングを行う」,
「爪を切る」,「遊ばせる」等である。これらのハンドリングを行うことにより,馴化に要する時間を短縮することができ,実験の際の保定も容易になる。
また,必要に応じてイヌの体温を計ったり,脈拍を計ったり,傷口の消毒を行ったりして術後管理に役立てることもしている。これらの取り組みは,
イヌの習性,個性を利用したイヌならではの動物福祉の実践であると考える。発表では,イヌの馴化の風景や,職員によるハンドリングの風景を紹介し,
実験動物としてのイヌの福祉について考察する。