寄生虫と、ヒトと、動物と、動物実験と実験動物
ーエキノコックス症を中心にー
長内 理大(弘前大学・医学部・寄生虫学講座)
寄生虫はその名のとおり何かに寄生しないと生物として存続できない。ヒトに寄生するもの、イヌに寄生するもの、
ハエに寄生するもの、ジャガイモに寄生するものなどこの世の中には多くの種類の寄生虫が存在する。その中で、医学的に重要なものはヒトに寄生
する寄生虫である。
エキノコックスはサナダムシの仲間で、そのうち多包条虫(Echinococcus
multilocularis)は日本でも北海道に分布している。この虫の成虫はキツネの小腸に住み、そこで生まれた卵はキツネの糞とともに
外界にばらまかれそれを中間宿主であるネズミが食べるとネズミの中で幼虫となる。そのネズミをキツネが食べると再び成虫となって卵を産む、というサイクルで生き
延びている。ヒトは、ネズミと同じ中間宿主でありキツネとの接触あるいは湧き水に紛れ込んだ虫卵を食べることによって感染し、主に肝臓で病巣を形成する。この病巣は
10年程度をかけて少しずつ大きくなりやがては肝臓の大部分を占めるまでに成長し、ひどい場合にはヒトを死に追いやることもある。最近では、この寄生虫が本州上陸か?
とも噂されておりこの虫の日本国内での重要度はますます高くなっている。
それでは、エキノコックスの薬を作ろう!と思ったとき、われわれはエキノコックスについて生物学的な研究を行わなければならない。
しかし、エキノコックスに限らず寄生虫研究の難しさのひとつは寄生虫が寄生しなければ生きられないため例えば試験管で大腸菌を培養するみたいな簡単な方法では
虫体を得られない、ということである。そこで、非常に大切になってくるのが実験動物である。エキノコックスは幸い(?)にもネズミがヒトと同じ中間宿主であるため、
ネズミを感染のモデルとしてさまざまな研究ができるほか、ネズミの中で虫体を増殖させて実験に用いることもできる。
本発表では、エキノコックスの研究に実験動物がいかに利用されているか?、エキノコックスについてどのような動物実験ができるか?を中心に、
実際に感染している野生動物の疫学的な研究や青森県で報告のあるブタのエキノコックス症などの話題もあわせて紹介したい。