福島県立医科大学における動物実験に関する機関内規程

片平清昭(福島県立医科大学実験動物研究施設)

 平成18年6月1日に告示された「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」(文部科学省、以下「基本指針」という) では、学長の責務として機関内(学内)規程の策定、動物実験委員会の設置等が求められている。これまでのような動物実験指針ではなく、動物実験に関する規程(親規程) の制定が必要となる。“動物実験指針”と“動物実験規程”とでは何がどう違うのか。手元の広辞苑や国語大辞典によれば、 “指針”とは物事を進める方針、政策の指針、指導目標、などを意味するもの、いわば、めやすである。一方、“規程”は法令、一定の目的のために定められた一連の 条項の総体、官公署などの内部の組織・事務執行の準則、等を意味するものと解される。すなわち、規程には法令の意味合いがあり、それに反する行為は、規程違反や 内規違反として処理されることもありえる。機関内規程の制定は、大学において自主規制のもとに動物実験を実施する上で重要な意味を有するわけである。

 以上のように、動物実験規程は、動物実験指針とはその意味するニュアンスが異なることとなり、研究機関としての責任や関係者自身の 責任が求められる。これは、米国NIHポリシーで強調されているResponsibility(責任)を求めているもの、と私は理解している(「21世紀の実験動物界に望む、4つ目の “R”」の題で日動協会報,No.85に紹介してある)。この点に動物実験実施者や実験動物の飼養保管者は十分に留意する必要があるし、大学としての社会的責任の意味も大 きいといえよう。大学や研究者の信頼性を維持していく観点からも、自己規制のもとに適切な動物実験を実施するという趣旨は重要である。このように考えると、 基本指針でいう動物実験規程の策定や動物実験委員会の設置も理解できよう。

 ところで、機関内規程を各大学で制定しようとした場合、現実問題として、学内におけるさまざまな構成員間で動物実験に対する認識の差があり、 具体的にどのように進めるべきか議論の多いところである。ハード面で整備が比較的進んでいる医歯薬系の大学でさえ、専任教職員の配置にもみられるように、 大学間で状況にかなりの差がある。また、動物実験施設があっても、すべての動物実験が施設内で実施されているわけではなく、講座や研究室の実験室でも行わざるを得ない 場合もあるし、学生実習のように実習室で実施しなければならないこともある。すべて学長の責任の下に、とされているが、果たしてどの程度周知、理解されるのかが疑問である。 文部科学省担当部局では地方ごとに全国で計7回の説明会をこれまでに開催し、基本指針等の趣旨説明とその周知に努めてきた。

 医科系の大学では、ほとんどの場合、専任の教職員が配置されており、動物実験や実験動物関係の情報が入手しやすい状況にあることから 比較的円滑に対応できるであろう。今回の場合、国立大学法人動物実験施設協議会(国動協)や公私立大学実験動物施設協議会(公私動協)では基本指針策定の段階から 一部の関係者が関与し、パブコメ等でも会員校からの意見を提出してきた経緯がある。それぞれ、会員校に対して適切な情報提供を行い、今回の機関内規程にしても例示案を 示すこととなり、国動協や公私動協の果たす役割は大きい。

 ここでは、演者自身が所属する福島県立医科大学を想定した場合の動物実験規程案を考えてみた。条文の推敲が必要であるが、取り急ぎ、 個人的な私案として紹介する(資料1)。この案は、「基本指針」と「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号)」(以下 「飼養保管基準」という)「飼養保管基準」に基づき、かつ、日本学術会議による「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン(平成18年6月1日通知)」 を踏まえて作成した。さらに、国動協のワーキンググループでの検討案を参考とした。関係者のご努力に敬意を表する。また、下線部分は想定大学に該当させて手直しした ものである。

 資料1 機関内規程の例(私案)

○○○○大学動物実験規程


(趣旨および基本原則)
第1条 この規程は、○○○○大学における動物実験が科学的観点、動物愛護の観点および環境保全の観点ならびに実験等を行う教職員・学生等の安全確保の観点から動物実験 を適正に行うために必要な事項を定めるものとする。

2 動物実験の実施については、「動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律第68号)」(以下「法」という)による「実験動物の飼養及び保管 並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年環境省告示第88号)」(以下 「飼養保管基準」という)、および文部科学省が策定した「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(平成18年6月1日告示)」(以下「基本指針」という)、 内閣府告示の「動物の処分方法に関する指針」、その他の法令等に定めがあるもののほか、この規程の定めるところによるものとする。

(定 義)
第2条 この規程において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
   (「基本指針」第1;「飼養保管基準」第2)
1)動物実験等 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用や、その他の科学上の利用に供することをいう。
2)施設等 実験動物を恒常的に飼養もしくは保管、または動物実験等を行う施設・設備(以下「飼養保管施設」という。)、および動物実験(48時間以内の一時的保管を含む) を行う動物実験室(以下「実験室」という。)をいう。
3)実験動物 動物実験等の利用に供するため、施設等で飼養または保管している哺乳類、鳥類または爬虫類に属する動物(施設等に導入するために輸送中のものを含む)をいう。
4)動物実験計画 動物実験等の実施に関する計画をいう。
5)動物実験実施者 動物実験等を実施する者をいう。
6)動物実験責任者 動物実験実施者のうち、動物実験の実施に関する業務を統括する者をいう。
7)管理者 学長のもとで、実験動物及び施設等を管理する各所属の長(医学部附属実験動物研究施設にあっては施設長)をいう。
8)実験動物管理者 管理者を補佐し、実験動物に関する高度な知識および経験を有する実験動物の管理を担当する者(実験動物研究施設にあっては専任助教授。)をいう。
9)飼養者 実験動物管理者または動物実験実施者の下で実験動物の飼養または保管に従事する者をいう。
10)管理者等 学長、管理者、実験動物管理者、動物実験実施者および飼養者をいう。
11)指針等 動物実験等に関して行政機関の定める基本指針および日本学術会議が策定した「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」をいう。

(適用範囲)
第3条 この規程は、本学において実施される哺乳類、鳥類および爬虫類を用いたすべての動物実験等に適用する。   (「基本指針」第1の(2);「飼養保管基準」第2の(3))

2 動物実験等を別の機関に委託等する場合には、委託先においても、基本指針や飼養保管基準等に基づき、適正に動物実験等が実施されることを確認すること。

(動物実験委員会)
第4条 動物実験計画の審査、実施状況および結果の把握、教育訓練、自己点検・評価、情報公開、その他動物実験等の適正な実施に関する諮問・助言組織として、 動物実験委員会(以下「委員会」という。)を置く。   (「基本指針」第2の1および第3の1)

(委員会の役割)
第5条 委員会は、次の事項をについて審議または調査し、学長に報告、助言または具申する。   (「基本指針」第3の2)

1)動物実験計画が指針等および本規程に適合していることの審査
2)動物実験計画の実施状況および結果に関すること
3)施設等および実験動物の飼養保管状況に関すること
4)動物実験および実験動物の適正な取扱いならびに関係法令等に関する教育訓練の内容または体制に関すること
5)その他、動物実験の適正な実施のための必要事項に関すること

(委員会の構成)
第6条 委員会は、次に掲げる委員で組織する。(「基本指針」第3の3)

1)動物実験等に関して優れた識見を有する者2名
2)実験動物に関して優れた識見を有する者2名
3)その他学識経験を有する者2名

(委員の任期、委員長の選任および運営)
第7条 委員の任期、委員長の選任および運営については、別に定める「○○○○大学動物実験委員会規程」によるものとする。

(動物実験計画の立案)
第8条 動物実験責任者は、動物実験等によって得られる知見の科学的合理性の確保、ならびに動物愛護の観点から、動物実験計画を立案し、動物実験計画承認申請書 (様式1)により学長の承認を受けること。 (「基本指針」第4の1)

2 動物実験計画の立案に当たっては、以下の点について検討すること。(「基本指針」第4の1(1))
1)研究の目的、意義および必要性
2)代替法の利用(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限り実験動物を供する方法に代わり得るものを利用すること等)により実験動物を適切 に利用することを検討すること。
3)実験動物の選択(科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる限りその利用に供される実験動物の数を少なくすること等)により実験動物を適切に利用 することを検討すること。この場合において、動物実験等の目的に適した実験動物種の選定、動物実験成績の精度と再現性を左右する実験動物の数、遺伝学的および微生物学的 品質ならびに飼養条件を考慮すること。
4)苦痛の軽減(科学上の利用に必要な限度において、できるだけその実験動物に苦痛を与えないこと等)により動物実験を適切に行うことを検討すること。
5)人道的エンドポイント 動物実験責任者は、致死的な毒性試験や感染実験、放射線照射等、苦痛度の高い動物実験等を行う場合には、動物実験等の立案の際に人道的 エンドポイント(実験動物を激しい苦痛から解放するための実験中止)の設定を検討すること。

(実験操作)
第9条 動物実験実施者は、動物実験等の実施にあたって、飼養保管基準や指針等に従うとともに、以下の事項を遵守すること。(「基本指針」第4の1(2)および第4の2)
1)適切に管理された施設等(第4章における設置申請、承認を受けたものをいう)を用いて動物実験等を行うこと。
2)動物実験計画書に記載された事項。
3)人への危害防止上、安全管理に注意を払うべき実験(物理的、化学的に危険な材料、病原体、遺伝子組換え動物等を用いる実験)については、関係法令等および別に定める規程等 の規定に従うこと。
4)物理的、化学的に危険な材料または病原体等を扱う動物実験等について、安全のための適切な施設や設備を確保すること。
5)動物実験実施者は、実験実施に先立ち必要な実験手技等の習得に努め、侵襲性の大きい外科的手術にあたっては,経験等を有する者の指導下で行うこと。
6)動物実験責任者は、実験実施後、動物実験実施報告書(様式2)により、使用動物数、計画からの変更の有無、実験成果等について学長に報告すること。

(飼養保管施設の設置)
第10条 飼養保管施設を設置する場合には、管理者は、飼養保管施設設置承認申請書(様式3)により、学長の承認を得るものとする。

(飼養保管施設の要件)
第11条 飼養保管施設は、以下の要件を満たすものとする。(「基本指針」第5;「飼養保管基準」第3の1(2)および第3の2,第3の3)
1)実験動物種に応じた飼育設備、衛生設備および逸走防止のための設備または構造を有すること。
2)飼育施設の周辺環境および居住者等に悪影響をおよぼさないよう、臭気、騒音、廃棄物の扱い等に配慮がなされていること。
3)実験動物管理者が配置されていること。<

(実験室の設置)
第12条 飼養保管施設以外において、実験動物に実験操作等を行う実験室(48時間以内の一時的保管を含む)を設置する場合には、実験室を管理する所属長は、 動物実験室設置承認申請書(様式4)により、学長の承認を得るものとする。

(実験室の要件)
第13条 実験室は、以下の要件を満たすものとする。(「基本指針」第4の1(2)および第5;「飼養保管基準」第3の1(2)および第3の2,第3の3)
1)実験動物が逸走しない構造および強度を有し、実験動物が室内で逸走しても捕獲しやすい環境が維持されていること

2)排泄物や血液等による汚染に対して清掃や消毒が容易な構造であること
3)臭気、騒音、廃棄物の扱い等に配慮がなされていること。

(施設等の維持管理)
第14条 管理者は、飼養保管基準を遵守し、実験動物の適正な管理ならびに動物実験の遂行に必要な施設等の維持に努めること。(「基本指針」第4の1(2)および第5 ;「飼養保管基準」第3の2)

(施設等の廃止)
第15条 管理者は、施設等の廃止にあたり、飼養保管施設および実験室の廃止を学長に届け出ること(様式5)。

2 管理者は、動物実験責任者と協力し、飼養保管中の実験動物を他の施設に譲り渡すよう努めること。(「飼養保管基準」第3の7)

(標準操作手順の作成と周知)
第16条 管理者および実験動物管理者は、飼養保管のための標準的な操作手順を定め、動物実験実施者および飼養者に周知すること。(「飼養保管基準」第3の3(1))<

2 医学部附属実験動物研究施設における飼養・保管については、本規程の他に「大学医学部附属実験動物研究施設管理運営規程」ならびに「実験動物研究施設使用規則」で定める。

(実験動物の導入、飼養および保管)
第17条 管理者等は、実験動物の導入、その後の飼養および保管に当たり、飼養保管基準を遵守すること。 (「飼養保管基準」第3の1(1), および第4の2)

(記録の保存および報告)
第18条 管理者等は、実験動物の入手先、飼育履歴、病歴等に関する記録を整備、保存すること。    (「飼養保管基準」第3の5)

2 管理者は、年度ごとに飼養保管した実験動物の種類と匹数等について、学長に報告すること。

(譲渡等の際の情報提供)
第19条 管理者等は、実験動物の譲渡にあたり、その特性、飼養保管の方法、感染性疾病等に関する情報を譲渡相手に提供すること。 (「飼養保管基準」第4の2)

(輸 送)
第20条 管理者等は、実験動物の輸送にあたり、飼養保管基準を遵守し、実験動物の健康および安全の確保、ヒトへの危害防止に努めること。 (「飼養保管基準」第3の6)

(危害防止)
第21条 管理者、実験動物管理者、動物実験実施者および飼養者は、飼養保管基準を遵守し、実験動物由来の感染症および実験動物による咬傷等の予防措置を講じること。  (「飼養保管基準」第3の3(2))

(廃棄物の処理)
第22条 実験動物の飼養や動物実験等により発生した動物死体や実験廃棄物類は、「○○○○大学医療廃棄物管理規程」、ならびに「○○○○大学実験等廃棄物管理規程」に従って 処理すること。

(緊急時の対応)
第23条 管理者は、地震、火災等の発生時や実験動物の逸走時等の緊急時に執るべき措置の計画をあらかじめ作成し、関係者に対して周知を図ること。  (「飼養保管基準」第3の3(4))

(教育訓練)
第24条 実験動物管理者、動物実験実施者および飼養者は、所定の教育訓練を受けなければならない。(「基本指針」第6の1;「飼養保管基準」第3の1(3))

2 実験動物管理者への教育訓練は、関係官庁や学術団体等が開催する関係会議への出席、シンポジウムやセミナー等の受講をもって代えることができる。この場合、 当該実験動物管理者は受講内容を速やかに学長に報告するものとする様式6)。

3 教育訓練の内容、および実施方法については、別に定める「動物実験に関わる教育訓練実施要領」によるものとする。

(実施記録の保存)
第25条 教育訓練の実施日、実施内容、講師および受講者名を記録し、5年間保存する。

(自己点検および評価)
第26条 管理者は、基本指針への適合性に関し、別に定める「動物実験に関わる自己点検・評価実施要領」により自己点検を行い、学長に報告すること。 (「基本指針」第6の2)

2 自己点検・評価の結果について、学外の者による検証を受けるよう努めること。 (「基本指針」第6の2)

(情報公開)
第27条 本学における、動物実験等に関する情報(動物実験等に関する規程、実験動物の飼養保管状況、自己点検・評価、検証の結果等の公開方法等)を毎年1回程度、年報等の 印刷物やホームページ等で公表すること。 (「基本指針」第6の3)

(附 則)
1.この規程に定めるもののほか、必要な事項は、XXXXX会において定める。
2.この規程は、平成  年  月  日から施行する。