実験動物からのVREの検索と遺伝子解析

○石郷岡 清基1)・鈴木 美帆子1)・斉藤 志保子2)・松田 幸久1)
1)秋田大学バイオサイエンス教育・研究センター動物実験部門、2)秋田県衛生科学研究所

 感受性腸球菌はヒトを含む動物の腸管内常在菌であるが、 バンコマイシン耐性腸球菌Vancomycin-Resistant Enterococci(VRE)は臨床的には重症基礎疾患や免疫不全あるいは臓器移植など感染防御機能の低下している患者では日和見感染症を引き起こすことが知られている。1980年代後半から、欧米ではヒトからVREが検出され、現在、我国でも年間30〜50例の報告があり、院内感染の重要な原因菌として問題になっている。一方、当施設では近年、医療技術の高度化、実験系の多様化に伴い実験動物の大型化が進み、術後の免疫低下時での感染症による死亡例が散見されることに鑑み、VREの発現頻度を把握する目的で施設に搬入された実験動物から同菌の検索を試みている。

 対象動物は大型動物がネコ、イヌ、ブタ、ヒツジの4種類、合計40検体、小型動物での供試マウスの系統は、SPF、CONVのBALB/c、C57BL/6、ICR、C3Hの4種類と遺伝子改変マウス、それに搬入直後のマウスを含む合計250検体。ラットの系統はS.D、Wistar、LECの3種類の合計100検体である。また、検査方法は大型動物の糞便はA.Cブイヨン基礎培地(日水製薬K.K)に直接接種。小型動物は安楽死後、盲腸部の新鮮糞便をSF液体培地(栄研化学K.K)に直接接種、37℃24〜48時間培養。菌の増殖または培地の色が紫色〜黄色に変化した場合、腸球菌陽性と推定した。また、VREであるか否かについては5%血液加寒天培地とVCM6μg/?N含有のEcs/EcsV6寒天培地(栄研化学K.K)に接種し、その発育状況から腸球菌またはVREと鑑別、判定した。なお、分離菌株の同定は感受性試験(センシディスクVCM30)とapi20ストレップ(日本ビオメリューK.K)でまた、耐性遺伝子はPCR法によりVanA、B、C1、C2/3の検出を行った。

 その結果、大型動物40検体中16検体40%から腸球菌が検出され、そのうちのブタ1例、ヒツジ6例はVREで、それらの耐性遺伝子はブタでVanC2/3、ヒツジでの4例は各VanAとVanC2/3であった。しかし2例は現在使用しているVanA、B、C1、C2/3標識DNA等とは全く反応を示さないことから現在精査中である。なお、分離菌株の種類はE.hirae、E.faecium、E.avium等であった。次に小型動物のマウスとラットからはVREは検出いないが、腸球菌はSPFマウス162検体中20検体12%、CONVでは58検体中10検体17%、全体では30/220、14%であった。また、飼育室内の汚染度を把握する目的で、搬入直後のマウス30検体を検査したところ、腸球菌のみ4/30、13%であった。次にSPFラットでは43検体中7検体16%、CONVでは57検体中11検体19%、全体では18/100、18%と多少マウスより高い傾向でを示した。なお、一部の分離菌種は大型動物とは異なるE.faecalisが90%を占めていた。

 以上のことから大型動物の18%からVREが検出された。このことが果たして術後の日和見感染の原因になるものか否かについては現在検討中である。次に、小型動物についてVREの検査を実施したところ全て陰性であったこと。搬入直後のマウスであるにもかかわらず、すでに13%が腸球菌を保菌していた。これらのことから飼育室内のVREによる環境汚染はないものと思われた。また腸球菌に関しては遺伝子改変マウスを含む系統間に大きな差は認めなかった。

 VREは職員あるいは実験者の手指を介して簡単に感染することを考えた場合、また日和見感染症の原因菌として、今後、重要になる事と思われる。なお、今後の方向性としては免疫不全マウスによる感染実験を実施し、小型動物における病原性、感染抵抗性等を明らかにすることである。なお、PCR法については最後に説明する予定です。
別紙資料を参照ください。

もどる