子宮切断、里親法によるラットクリーン化の試み

 

〇葛西律子、馬場秀明、今井信子、三上寧士、八木澤誠(弘前大学医学部附属動物実験施設)

はじめに

 昨年5月、当施設ラット飼育室で一講座が継代維持している、ヒロサキヘアレスラット(HHR)およびその基となったSDラットに呼吸音の異常なラットがいることに気付き精査したところ、マイコプラズマに汚染していることが確認された。当施設では3ヶ月毎にモニター動物による抗体検査を行っており、4月の検査では感染症の汚染は確認されていない。

 HHRは約20年前に弘前大学医学部でSDラットに突然変異で生まれ、それ以来継代維持している系統であり、絶やすことが出来ないため、私ども施設職員で子宮切断、里親法によるクリーン化を計画し、全員で取り組んだのでその概要について紹介する。

材料および方法

 市販のSDオス2匹メス10匹を購入して里親とした。スメア観察によって各ラットの性周期を把握、交配適期の確認が可能となったので、手術予定日を特定した。交配確認日を0日として、22日目を出産予定日とし、まず、里親ラットは出産予定日を手術日の1~3日前、帝王切開ラットの出産予定日を手術日の次日になるように交配した。つまり汚染ラットは出産予定日の1日前に帝王切開し、胎児を取り出す事にした。

結果

 ラットの子宮切断、里親法の試みは、以下のようである。

手術1 15年11月10日(月) 

    ヘアレスラット 帝王切開手術  胎児数 12匹

    里親ラット   11月8日出産   出産数 14匹

    帝王切開の胎児12匹と実子2匹を里子する

    実子2匹、里子2匹生存

手術2 15年11月13日(木) 

 ・ヘアレスラット 帝王切開手術   胎児数 15匹

  ・里親ラット  11月13日出産   出産数  4匹

 ・里親ラット  11月8日出産    出産数  15匹

  ・11月13日出産のラットの匹数が4匹だったので11月8日出産ラットにも里子する

 ・11月13日出産ラットに里子した4匹は全部死亡

 ・11月8日出産ラットに里子した11匹は1匹生存

 

2回の手術で育ったヘアレスラット3匹(ヘテロ♂2, ヘテロ♀1)を元に交配し、それらのホモ(♂)ヘテロ(♀)のペアを7組作出した。

 

一般講演2

 

PCRを用いたPasteurella pneumotropicaの確定診断法

~当施設分離菌株を用いた、従来の同定法との比較~

 

三ツ口 陽子、大和田 一雄

(山形大学医学部附属動物実験施設)

 

【目的】Pasteurella pneumotropica(以下P.p)はマウスやラット等、実験動物の呼吸器感染症の原因菌である。P.pは?@グラム染色 ?A生化学的性状(簡易同定キット) ?B抗血清による凝集反応により同定が行われる。以前当施設において分離されたマウス由来の菌株2株は、グラム染色や簡易同定キットにより、P.pと判定された。しかし、菌の形状や抗血清による凝集反応の検査では分離菌株間の反応に違いが見られ、従来の同定法には限界がある事が明らかにされた。一方、P.pDNAの塩基配列に違いがあるものが存在すると言われており、今回は、当施設で分離した2株について、PCRを行い、同定及び塩基配列の相違を比較検討することを目的とする。

【材料と方法】当施設から分離され、従来の方法でP.pとされた2(分離菌株1と分離菌株2)及び、標準菌株(ATCC35149株とN8)を用いた。グラム染色で陰・陽性及び形状を確認し、生化学的性状(簡易同定キット)による検査で菌名を判定した。その後、2種類のプライマーを用いてPCRを行った。プライマーは、Wang(1996)により報告されているPPN1PPN2と、Nozu(1999)16Sr DNAにより設計したPPF1PPR-2を用いた。

【結果】菌の培養とグラム染色: 菌の培養では、分離菌株2のみ、明らかな増殖の遅延が認められた。グラム染色では、標準菌株と分離菌株1がグラム陰性短桿菌であるのに対して、分離菌株2はグラム陰性桿菌であり、異なる形状を示した。

生化学的性状(簡易同定キット): 3 (ATCC35149株・N8株・分離菌株1)P.pに分類されたが、分離菌株2Pasteurella spp(以下P.spp)に分類された。

PCR: 2種類のプライマーを用いた結果、分離菌株1は、標準菌株(ATCC35149株とN8)と同様の位置にバンドが検出されたが、分離菌株2は、バンドが検出されなかった。

【まとめ】分離菌株1は、グラム染色・生化学的性状(簡易同定キット)PCRの全ての結果より、標準菌株と同様のP.pであると同定された。

分離菌株2は、P.pに特異的なプライマーに反応しなかったのでP.pではないが、グラム染色及び形状・生化学的性状(簡易同定キット)の結果より、P.sppと同定された。P.sppの病原性については、今後の検討が必要であると考えられる。

以上の事から、P.pの確定診断は、?@菌の培養及び形状観察 ?Aグラム染色 ?B生化学的性状(簡易同定キット)による従来法に加えて、?CPCRにより、P.p P.sppとを区別する方法が有効であると考えられた。

 

一般講演3

 

マウス肺パスツレラ菌感染事故の経過とエンロフロキサシン投与による駆除

 

井上吉浩、佐々木秀一、高梨千代、村上まゆ子、池田真理子、鈴木宏子

(東北大・加齢研・実験動物)

 

 当施設では、外部研究機関から導入される授受マウスによる感染事故を予防するため、2002年から検疫体制をスタートした。これにより病原微生物のチェックを強化できたものと考えていたが、今回、パスツレラ菌(Pasteurella pneumotropica)による感染事故が起きた。本菌の病原性ランクはCであり、マウスの上部呼吸器系や外部生殖器系を主な生育場所とするグラム陰性桿菌で、免疫不全マウスや重度の感染の場合は、繁殖成績低下、肺炎などの症状を呈する病原性細菌である。今回、不測にも起きた感染事故の経過とエンロフロキサシン薬剤経口投与による駆除を試みたので報告する。

【感染事故の経過】まず事前の書類審査において、K大学からの微生物検査成績書では本菌については検査されていなかったが他の主用な病原微生物 11種について陰性との記載であったため授受を許可した。譲渡されたTgマウス1匹を検疫室に搬入し検疫を開始した。6週間の検疫後、モニターマウスを実中研にて検査を行い検査結果は陰性であったため、当該Tgマウスを動物施設飼育室に搬入した。飼育室に搬入して1ヶ月後の定期モニタリング検査においても陰性であった。しかしながら、飼育室に搬入して4ヶ月後の定期モニタリング検査において初めて本菌陽性が認められた。当該飼育室への授受マウスの導入は当Tgマウス以外にないことから、当Tgマウスが感染源と考えられた。また、本菌は病原性・感染力ともに弱いことから、検疫中のモニターマウスに反映されずに検疫をくぐり抜けてしまい、施設飼育室に搬入してから徐々に感染が拡大し4ヵ月後の定期検査でようやく本菌をキャッチできたものと考えられた。

【パスツレラ菌の駆除】感染事故後の対応として、フルオロキノロン系抗菌剤であるエンロフロキサシン(商品名;バイトリル10%注射液)による本菌の駆除が可能であるとの報告があることから、本薬剤による駆除を行うこととした。また、当該飼育室への人の出入りや飼育管理を制限し、他の飼育室に伝播しないよう配慮した。駆除法は、エンロフロキサシンとして170mg/Lに水道水で希釈し、給水瓶にて投与した。投与期間は、4週間投与→1週間休み→2週間投与の計6週間行った。投与終了後、各ラックからマウスを抜き取り、実中研にて検査を行った。その結果、全て陰性であった。その後の定期モニタリング検査においても陰性であったことから、本菌の駆除に成功したものと判断した。

【まとめ】パスツレラ菌はモニターマウスに反映されにくいことから、現在、検疫期間中に蟯虫の駆虫(3週間)と併せて、本薬剤によるパスツレラ菌の駆除(3週間)を実施している。なお、感染事故が起きた飼育室のマウスは免疫系の実験に用いられているが、本薬剤投与による実験データーへの影響は見られなかった。

 

 

一般演題4

 

微生物モニタリング検査におけるヒヤリ体験

 

遊佐 寿恵、片平 清昭(福島医大・実験動物)

 

1.[はじめに]

今や,動物実験施設にとって感染病対策が最重要課題といっても過言でない。その背景として研究機関間での遺伝子組換えマウスの授受の増加が考えられる。感染病防止の徹底には相当の労力と経費を要することとなり,動物実験施設ごとに研究背景や運営事情が異なることからその費用対効果に配慮しなければならない問題もある。著者らの施設では,2000年頃から飼育室ごとにモニター動物による微生物モニタリング体制を導入し,さらに,マウスの検疫についても種々の試行錯誤を繰り返してきた。さらに,マウス等の授受に伴う感染病対策や感染病発生時の対応マニュアルを作成して施設利用者への協力と飼育管理作業に反映させてきた。

遺伝子組み換えマウス飼育室2室のモニターマウスからマウス肝炎ウィルスmouse hepatitis virus(以下, MHVという)陽性の検査結果が出た。関係者全員が一瞬ヒヤリとしたが,感染病発生時の対応マニュアルに沿って対処した。このような事例はどこの施設でも経験されていると思われるが,日頃のリスク管理には関係者の精神的ストレスが過大であることから話題を提供する。

2.[経緯]

 マウスの微生物検査方法は,ICLASの手順に準じ,所定の微生物検査手順により飼育室ごとにほぼ毎月実施している。空調系統の異なる2室においてモニター動物にMHV陽性の反応を確認した。定期モニタリングでMHV抗体が陽性となった飼育室についてはマニュアルに従って再検査の実施,飼育室の封じ込め体制,実験者への連絡等を迅速に対応した。直ちに,この陽性5例の血清検体をICLASに送り確認検査を依頼した。さらに翌日,MHV抗体が陽性になった2室のモニターマウスと研究者から提供マウスについて追加検査を実施した。剖検結果は肝臓と腸管に異常はなく,ELISA法でもMHV抗体陰性であった。ICLASに依頼した5例の血清についても蛍光抗体法でMHV陰性を確認できた。ICLASによる陰性の確定検査結果が判明した後,封じ込めの対応を解除し,通常の飼育形態に戻した。

モニライザの使用に際してその検査成績の解釈が重要となる。陰性の場合はモニター動物の免疫機能,飼育期間等が適正であれば問題は少ないが,陽性反応場合の解釈が難しい。我々が経験した前述の事例は偽陽性であり,再現性はみられなかった。しかしながら,偽陽性反応を呈した原因は不明であった。

3.[まとめ]

 マウスやラットのSPF基準については,微生物検査項目の基準が必ずしも統一されていないため,授受の際には困惑することが多く,それぞれの施設の微生物モニタリング項目によってSPF基準を判断しなければならない。動物を受け入れる側ではその基準をより厳しいものとする傾向がみられ,その結果,分与する側にとっては限りなく無菌的状態の動物を求められることとなる。また,生体で受領した場合は体外受精でクリーニングしてから導入している施設も多いことと思う。我々は,動物施設における微生物モニタリングはICLASの支援なしには困難であると考えている。今回の事例でも検体を週末に送ったにもかかわらず,週明け早々に確認検査をしていただいた。ICLASからの検査結果の電話連絡があるまでは他の仕事が手に付かない状態であった。動物施設のスタッフにとって感染病の発生リスクから逃れられる日がいつか来ることを夢見ているこのごろである。

 

一般演題5

 

ラット連続採血による血球変動

 

〇馬場 秀明、今井 信子、葛西 律子、三上 寧士、石田 邦夫、八木澤 誠

(弘前大学医学部附属動物実験施設)

 

はじめに

実験動物としてマウス・ラットが数多く使用され、各種の実験に供されている。特にラットは、体重がマウスに比して10~20倍あり、全血量が多いため反復採血が可能である。私どもは連続採血がラットに与える影響、血球数の変動などについて検討したので報告する。

 

材料・方法

ラットは市販SDメス、0.2ml、0.5 mlは17週令、1.0 ml、2.0 ml、3.0 ml は12週令、各郡5匹を使用し、5日連続採血、2日休み、また5日連続で採血した。採血は頸静脈よりヘパリナイズした注射器を用い実施した。測定にはSysmex,F-520を用い赤血球数、白血球数、ヘモグロビン量、へマトクリット値および体重の5項目を測定した。

 

結 果

体重-0.2ml、0.5 mlでは実験期間中ほとんど変化なかったが、1.0 mlでは2週目の後半、2.0 ml、3.0 ml では1週目から減少傾向が見られた。

赤血球数-0.2ml、0.5 mlでは3日目から減少し、少しづつの減少が実験終了まで見られた。1.0 ml、2.0 ml、3.0 ml では2日目から急激に減少し、それが実験終了時まで続いた。

白血球数-0.2mlでは2週間にわたって比較的安定した値であるが、0.5 ml、1.0 mlでは10~20%の範囲で変動が見られた。2.0 ml、3.0 ml では変動幅が大きく、極端な増加が見られた。

ヘモグロビン量、ヘモグロビン値-ほぼ赤血球数と一致した変動を示した。

 

一般演題6

 

エストロゲン作用による内分泌攪乱物質スクリーニング法の確立

―トランスジェニックマウスを用いた高感度子宮肥大試験の検討―

 

末田輝子、三好一郎、岡村匡史、須田博美、笠井憲雪

(東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設)

 

【目的】エストロゲン作用物質(環境ホルモン)のスクリーニングとして標準化された方法に子宮肥大試験がある。今回私たちは,マウス卵管特異的糖タンパク質遺伝子(MGOP)プロモーターSV40抗原遺伝子を持つトランスジェニックマウス(mogp-Tgマウス)が正常マウスに比較してエストロゲン様作用物質に対して高い感受性を持ち,容量依存的な反応を持つか否かを検討した。

 

【材料・方法】代表的なエストロゲン作用物質としてp-nonylphenol(NP)を用いた。また,陽性対象物質である17-β-estradiol(E2)とβ-estradiol 3-benzoate(EB)を使用してパイロット試験を実施した。

被検動物は,当研究室で作成したC57BL/6背景のmogp-Tagマウス(Miyoshi et al.2002)をCD-1マウスと交配したF1マウス(以下,Tgマウス)の19-20日齢の雌を用いた。対象には導入遺伝子を持たない同腹仔(以下,non-Tgマウス)を用いた。子宮肥大試験は測定物質をコーンオイルに溶かし,3日間連続して経口または皮下に投与し,4日目に麻酔後屠殺し,子宮重量を測定した。

 

【結果・考察】Tgマウスは調べた全ての物質に対して容量依存的で高感度の子宮肥大反応を示した。E2の経口投与ではTgマウスはnon-Tgマウスに比較して1.4~3.5倍高い値を示した。皮下投与では1.9倍高い値を示した。EBの経口投与では1.2~5.0倍高い反応を示した。NPでは,400または1,000mg/kg/dayを経口投与した時に,non-Tgマウスでは反応を示さなかったが,Tgマウスでは有意に高い反応を示した。一方,エストロゲン受容体のアンタゴニストであるICI 182,780を投与すると,E2の子宮肥大を完全に抑制することが示された。このことは,Tgマウスの子宮肥大反応はマウスのエストロゲン受容体を介して起こっていることを示している。以上の結果は,mogp-Tgマウスが自然環境にあるエストロゲン作用物質を子宮肥大試験で測定するための非常に良い動物であることを示した。今後はさらに検討を加え,より感度の高い方法を確立したい。

一般演題7

食後高トリグリセリド血症家兎(PHT)の平時TG値

○伊藤恒賢1)、秦 正充1)2)、三ツ口陽子1)、大和田一雄1)、友池仁暢3)

(山形大・医・動物実験施設1)、(株)ジェー・エー・シー2)、国立循環器病センター3)

【背景】食後高トリグリセリド(TG)血症家兎(PHT; Postprandial Hyper Triglyceridemia)は,食後にTGの異常高値を示す家兎である。PHTは脂質代謝異常に加え,耐糖能異常やインスリン 抵抗性が認められるため,ヒトの虚血性心疾患と生活習慣病との関係や,マルチプルリスクファクター症候群(MRFS; Multiple Risk Factor Syndorome)の研究のための有用なモデルと考えられる。

 私たちは,PHTの食後TGについて,一定時間の絶食の後,食後24時間後のTG値を測定する評価システムを確立している。 しかし,動脈硬化等,虚血性心疾患の発症には,平時のTG値が重要であると考え,今回はPHTの平時の血清脂質成分値を経時的に測定し,脂質動態を対照と比較検討したので報告する。

【材料と方法】供試動物は6~8ヵ月齢のPHTとJWが雄各5匹である。PHTとJWはともに自家繁殖により作出し,生後1ヵ月で離乳,その後制限給餌(2ヵ月齢まで60g/日,2ヵ月齢以降は120g/日)で飼育した。飼料はウサギ用固形飼料(ラボRグロワー;日本農産(株))を用い,飲水は自由摂取とした。当施設の給餌時間は12時に自動給餌装置により給餌されるため,今回の実験では,12時の給餌時間を0時とし,以後3時間おきに24時まで計9回(0,3,6,9,12,15,18,21,24時)の採血を行った。採血は耳動脈より1ml採取し,速やかに血漿に分離した後,SPOTCHEM EZ SP-4430(アークレイ社製)を用いて,総コレステロール(CHO),トリグリセリド(TG),血糖(GLU)を測定した。また各採血時間に餌の残量を測定し,2群の摂食パターンを検討した。

【結果】JWのTG値は0時に38.0±5.1 mg/dl(平均値±標準誤差)を示し,その後緩やかに増加し9時に頂値(76.0±4.0 mg/dl)を認め,その後減少し24時(33.4±2.9 mg/dl)に0時と同様の値を示した。一方,PHTは0時(244.4±37.0 mg/dl)にJWの7倍のTG値を示し,その後6時から急激に増加し15時に頂値(1134.0±100.3 mg/dl)を示した。その後急激に値が減少し24時に491.6±282.0 mg/dlを示した。CHOではJWの0時が15.2±4.2 mg/dlを示し,その後の変化をほとんど認めなかったのに対し,PHTは0時にJWの約4倍の値(58.6±13.9 mg/dl)を示し,以後緩やかに増加し18時に頂値(116.8±13.9 mg/dl)を示した。その後値は漸減し0時と同様の値(66.4±26.7 mg/dl)を示した。PHTはCHOとTGの同調的な変動を認めたが,JWでは認められなかった。血糖値については2群とも同様な値であった。摂食のパターンは2群とも個体差はあるものの同様の摂食パターンを示し,摂食開始から9~18時間で完食した。

【考察】PHTは平時においても高TG血症を示すことが明らかとなった。今回の食後TGの変動は,これまで行ってきた食後TG評価系よりも前処置(絶食)等を必要とせず,PHTの脂質動態を詳細に解析でき,食後TGを評価するに充分のTG値を示すことから,今後は本評価系をPHTの選抜継代やスクリーニングに応用する予定である。

 

 

一般講演8

 

パルプ加工材(紙つぶ型人工酸化触媒)によるケージ内

アンモニア濃度抑制効果および気体成分の定性分析

○秦 正充1.2,伊藤恒賢2),大和田一雄2)

((株)ジェー・エー・シー1、山形大・医・動物実験施設2)

 

【背景・目的】近年、遺伝子改変動物の飼育匹数の急増に伴い、フィルタートップ付ケージの利用が増加している。フィルタートップ付ケージは、病原性微生物の侵入防止に効果的であるが、その反面、ケージ内のアンモニア(NH3)濃度を増加させてしまうことが指摘されている。NH3濃度の増加は実験動物に対して呼吸器系を刺激し、実験結果に影響を及ぼすと考えられている。私達は、フィルタートップ付ケージ内のNH3濃度を抑制する目的で、NH3分解能を持つパルプ加工材を床敷として使用し、ケージ内のNH3濃度を著しく抑制できる事を明らかにした。また、この床敷きを用いたケージ内の気体成分定性分析試験を行った結果、若干の知見が得られたので報告する。

【材料・方法】北上製紙(株)社製パルプ加工材(市販名:フレッシュパール 特許第1642383号)並びに対照として市販の木材チップを、フィルタートップ付きケージおよびフィルターをはずしてオープンな環境としたマイクロバリアケージ(米国アレンタウン社製)に、各々70gずつ敷き詰め床敷きとして用いた。各ケージにJcl:ICR(11週齢 雄)を5匹ずつ収容し、ケージに収容した日から20日間、ケージ内NH3濃度と温湿度を測定した。また、実験開始日および20日目の各ケージ内の気体を固体捕集法(活性炭チューブ)にて吸引し、ガスクロマトグラフ質量分析法により定性分析した。

【結果】ケージ内NH3濃度: 実験2日目までは各群ともケージ内NH3は検知されなかった。フィルタートップ環境において、木材チップ使用群のケージ内NH3濃度は3日目から急激に増加し、5日目には300ppmに達し、その後20日目まで180~230ppmの間を推移した。一方、パルプ加工材使用群では7日目までNH3は検知されなかった。また、オープン環境においては、木材チップ群のケージ内NH3濃度が3日目以降増加し続けたのに対し、パルプ加工材使用群では8日目までケージ内NH3濃度を4ppm以下に抑えた。気体成分定性分析: 実験1日目においては4群全てから気体成分が検出され、フィルタートップ環境下のパルプ加工材群ではフルフラン、木材チップではドデカンおよび、オープン環境下のパルプ加工材、木材チップの両群ではブタンと思われる気体であった。また、20日目においてはフィルタートップ環境下で木材チップを使用した群からのみ気体成分(ヨード、サルファ等)を検出したが、他の群からは検出できなかった。

【考察】今回用いた加工材はパルプ、天然綿を原料としており、安全性が高く、廃棄処理も容易であることから、フィルタートップ付きケージの様な気密性の高いケージのNH3濃度を抑制するためには極めて有効な床敷素材であると考えられた。

 

 

一般演題9

 

各種床敷素材の内部構造上の比較


○石郷岡 清基、千田 進介1)、鈴木 美帆子、松田 幸久
(秋田大バイオサイエンス教育研究センター動物実験部門、分子医学部門1)

 

 粉塵やアンモニアなどによるケージ内の居住環境が悪化することにより、実験成績の再現性に影響をする場合があるとされている。さらに最近、床敷材から出る粉塵による実験者や施設職員のアレルギーも大きな問題になっている。そこで近年、実験動物の各種床敷材は種々開発されているが、その選択にあたっては自然環境の保護あるいは動物愛護の観点からも考慮する必要がある。そこで今回、新たに開発された床敷材と現在当施設で日常

使用している床敷材の比較をしたので紹介する。

<材料および方法>
 1)供試床敷材はパルマスαN(天然素材探索研究所)とケアフィーズ(ハムリーK.K)の2種類と比較対象としてウッドチップとコーンコブの計4種類である。
 2)1ケージ当りの各床敷材の量はウッドが20g、コーンコブ40g、パルマスαNとケアフィーズが各25gである。マウスはC57BL/6♂15週齢で、5匹/1ケージ各3群である。
 3)ケージ内アンモニア濃度はケージ交換後2〜10日間、パッシブ・ドジチューブ(井内盛栄堂)で測定。
 4)電顕の資料作製
 サンプリング試料はカミソリの刃で2〜3mmに切断、その面に厚さ300Åの金を直接蒸着、SEM T-200(日本電子社製)で観察。
<成績および考察>
 ?@アンモニア濃度:ケージ交換後3日目では、4種類とも3〜7ppmと低値であったが、4日目で明らかに差がではじめ、コーンコブが最も低く4ppm、ケアフィーズ8ppm、パルマスαNが10ppmに対し、ウッドチップは15ppmと高値を示した。その後ウッドチップは急激に上昇し、7日目で30ppm以上と高値を示した。それに対し他の3種類は10日目においても18〜23ppmと許容範囲の値を示していた。
 このことから現在、当施設で使用しているウッドチップは7日以上ケージ交換をしない場合にはケージ内環境を考慮すると適切な床敷とはいえないと思われる。
 ?A床敷素材の内部構造:従来から使用しているウッドチップとコーンコブは多孔質性でいわゆるハニカム構造(蜂の巣状)を呈していた。また、コーンコブはさらに孔を形成する隔壁面にも多数の小孔が見られ、アンモニアあるいは水分等を吸着、吸収する作用は構造上十分あるように思える。
 一方、ペーパーチップであるパルマスαNとケアフィーズは密と粗の部分がサンドイッチ状で孔は全くない単純構造であった。
 以上のことから床敷素材の良好な内部構造としての条件は、多孔質性で吸水性に優れ、なおかつ作業効率の良い素材を開発する必要があると思われる。

一般演題10

 

ウサギケージの更新

 

〇今井 信子、馬場 秀明、葛西 律子、三上 寧士、石田 邦夫、八木澤 誠

(弘前大学医学部附属動物実験施設)

 

はじめに

 私どもの施設では、施設開設以来27年間使用しているウサギケージが古く、変形してきたため更新することになった。最近「動物の愛護及び管理に関する法律」の改定が検討されていることから、ケージサイズについてもいろいろな団体で議論されている。当施設ではウサギの収容数、費用(ラックの更新は不可)の点からケージサイズは現状のままで更新することになったので、これまで使用しているケージの問題点を挙げ、その対処法、使用経験について報告する。

問題点と対処法

1.ウサギの居住スペースを少しでも広く出来ないか。

対処法-餌箱を小さくし、隅に寄せることでデッドスペースがなくなり、実際の居住面積を増やす。

2.餌箱に尿をするウサギがある。

対処法-ウサギが尿を出来ない位置まで餌箱の位置を高くする。

3.餌箱から餌を掻きだすウサギがある。

対処法-ウサギがえさを掻きだせないように餌箱を小さくする。

4.尿を飼育室床に撒き散らすウサギがある。

対処法-ケージ床の金網より下の部分を長くして尿がケージ外に出ないようにする。扉の餌箱より下部に尿の防御板をつける。

5.ケージを積み重ねた時、餌箱の抑え金が引っかかり外れ難い。

対処法-餌箱抑え金の取り付け位置を高くする。

6.ラックにケージを入れるとき、蓋のつめがひっかかりスムーズに出入りできない。

対処法-蓋のつめを取り、ラックに蓋を抑えるレールを取り付ける。

結果

 4に関してはまだ効果が完全でなく、従来から使用している尿よけ板を併用しているウサギもあるが、その他に関しては満足できる結果が得られた。また当初予定していなかったが、餌箱を小さくすることにより日々の摂餌量がわかりやすく、ウサギの固体管理上非常に有用である。

 

一般演題11

 

飼育棚の機能の違いによるマウスの成育に及ぼす影響

 

○木伏智美1)、伊藤恵2)、永山真琴1)、柳原茂3)、岡村匡史1)、笠井憲雪1)

東北大院・医・動物実験施設1)、(株)JAC2)、東洋熱工業3)

 

目的)当施設ではオープン型・陽圧型・陰圧型・給排気型・個別換気ケージ型と様々なマウス飼育棚を使用している。そこで飼育棚の機能の違いによって成育、特に成長と繁殖成績と副腎重量比などに違いがあるかを検討した

 

方法)検討対象のマウス飼育棚はオープン型・陽圧型・陰圧型・給排気型・個別換気ケージ型とした。使用動物は3週齢のSlc:ICRメス15匹、オス15匹を用いた。マウスは各飼育室にメス3匹1ケージ・オス3匹1ケージ計2ケージを置き、飼料はMR-ストック、給水はそれぞれ自由に与え、ケージ交換は一週間に一回行い、毎週1回体重測定を行った。その後雄1匹に対して雌1匹を交配し得られた妊娠マウスより、5種類の飼育棚それぞれでの繁殖観察を行った。また、マウスのストレス指標として体重当たりの副腎重量を量るため、繁殖成績後の産仔を1516週齢で体重測定を行い、セボフルレンで麻酔後頚椎脱臼にて安楽死させ、副腎を採取して重量測定をおこなった。これら得られた結果はt検定により有意差検定を行った。

 

結果)体重増加の推移は各棚のマウス間で有意差はなくほぼ同じであった。飼育棚別の繁殖成績は出生率はすべての飼育棚で100%であったが、平均産仔数は給排気型が他の型式に比して有意に低く、離乳数は個別換気ケージ型が陰圧型・陽圧型に比較して有意に低かった。また、棚毎の雌マウスの体重当たりの副腎重量比には有意差はなかったが、雄では給排気型群・陽圧型群・オープン型群は高く、それに比較して個別換気ケージ型群は有意に低かった。

 

考察)今回の結果からいずれの飼育棚であっても成長曲線には大きな差はみられなかった。しかし産仔数や離乳数などの繁殖成績や副腎の体重比では棚毎に差がみられた。これらのことは飼育棚の構造や機能がマウスへ有形無形の影響を与えていることを示し、飼育棚選定の際に考慮すべきであろうと思われた。より詳細な影響を調べるために引き続き研究を重ねたいと思う。

 

一般演題12

 

金網床ケージ内飼育マウスによる竹筒の利用

 

○北 徳、小郷 哲、生和幸子、人見貞江、下村 都

(川崎医科大学医用生物センター)

 

【目 的】近年、実験動物福祉の向上を目的とする木製や合成樹脂製の箱、筒、ドームや囓り棒などの製品が国内においても 販売されるようになってきた。それらの多くは輸入品であるが、国内に豊富な植物資源である竹材を飼育環境豊饒化に活用できないか、マウスについてその可能性を検討した。

【検討材料】マダケを用い、内径約7cm、高さ約10cmの底なしの筒と節を残して底とした底ありの筒を作製した。 また筒壁にマウスが通り抜けられる内径2.4cmの穴を3カ所開けた。作製した竹筒は高圧蒸気滅菌し、金網床ケージ内に立てて設置し、マウスによる利用状況を観察した。

【結 果】金網床ケージで飼育しているマウスは、竹筒をケージ内に入れるとすぐに興味を示し、竹筒に上ったり、穴を通り抜けたり、 囓ったり、中で眠ったりするなどの行動が観察され、活動期、非活動期ともに竹筒を良く利用することが分かった。床敷き使用ケージにおいても良く利用することが確認された。 また、金網床ケージ内に底なし筒と底あり筒を設置しマウスが休息・睡眠の場所としてどちらを好むか観察したところ、底なし筒のみの場合は底なし筒を利用するが、 底あり筒と底なし筒の両方を設置すると底あり筒の方を利用することが観察された。

【まとめ】

1,日本国内に豊富な植物資源である竹の実験動物飼育資材としての可能性に着目した。

2,ケージ内飼育のマウスは竹筒を良く利用することが確認された。

3,特に金網床ケージ内飼育のマウスは竹筒を休息・睡眠場所、遊び場所として良く利用  することが確認された。

4,金網床ケージの場合、休息・睡眠場所としては節を残した有底の筒を好むことが明ら  かになった。

5,マウスは竹を良く囓ることも確認された。

6,国内に豊富であり、再生力の旺盛な植物資源である竹は、実験用マウスの飼育環境豊  饒化の素材として利用可能と考えられた。

 

一般演題13

 

トリトンハムスターよりクローニングした

新しい部位特異的高度反復配列の特性検索

 

神村栄吉1)、山田和彦2)、土屋公幸3)、梅原(西田)千鶴子2)、松田洋一2)

(山形大・医・動物施設1)、北大・先端研・動物染色体2)、東京農大・農・野生動物3)

 

染色体のヘテロクロマチンを構成する部位特異的高度反復配列は、種の類縁関係や、ゲノム構造進化を知る上で有用なマーカーとなる。我々はこれまでに、キヌゲネズミ亜科のシリアンハムスター、チャイニーズハムスター、ジャンガリアンハムスターより高度反復配列を単離し、これらの解析からキヌゲネズミ亜科における反復配列の構造変化と種間の類縁関係について考察を重ねてきた。今回、同亜科に属するトリトンハムスター(Tscherskia triton)より新たに高度反復配列を単離し解析したので報告する。

トリトンハムスターの染色体数は2n=28である。11組のアクロセントリック染色体と2組の小型のメタセントリック染色体からなる常染色体、および中型のサブテロセントリックX染色体、そしてメタセントリックY染色体よりなる。

我々はこのハムスターの肝臓よりゲノムDNAを抽出し、制限酵素TaqIで消化した後、得られたバンドから、新しい染色体部位特異的高度反復配列をクローニングした。そしてこれを、染色体蛍光in situハイブリダイゼーション 、シークエンス解析、サザンハイブリダイゼーション、スロットブロットハイブリセーションによって解析した。

その結果、1) 単離された反復配列は染色体上の分布様式から、動原体部位特異的反復配列と性染色体特異的反復配列に分けられ、ともにCヘテロクロマチン領域に分布していた。2) 動原体部位特異的反復配列は、シークエンス解析の結果112bpを基本単位とする、モノマー、ダイマー、トライマーであった。一方、性染色体特異的反復配列は配列内に30-32bpのインターナルリピートをもつ407bpからなる配列だった。3) 動原体部位特異的反復配列は縦列型反復配列からなるサテライトDNAであり、メチル化されていた。4) 動原体特異的反復配列と性染色体特異的反復配列は、他のキヌゲネズミ亜科のハムスター類{シリアンハムスター(Mesocricetus auratus 、diploid number: 2n=44)、ブラントハムスター(M. brandti 、2n=44)、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus 、2n=22)、オオキヌゲネズミ(C. migratorius 、2n=22)、ジャンガリアンハムスター(Phodopus sungorus 、2n=28)、キャンベルハムスター(P. campbelli 、2n=28)、ロブロフスキーハムスター(P. roborovskii 、2n=34)}、カンガルーハムスター亜科のカンガルーハムスター(Calomyscus mystax 、2n=44)、ネズミ亜科のマウス(Mus muscullus2n=40)、ラット(Rattus norvegicus2n=42)では保存されていなかった。

以上の結果より、今回単離した反復配列はトリトンハムスターに特異的な配列であり、トリトンハムスターに分化してから、短期間に遺伝子重複によって形成されたと考えられる。

 

一般演題14

 

東北大学大学院医学系研究科附属動物実験施設における

マウス胚凍結保存業務

 

○西尾 啓輔、須田 博美、木伏 智美、岡村 匡史、笠井 憲雪

(東北大院・医・動物実験施設)

 

【目的】現在、当施設で多くの遺伝子改変マウスが飼育されており、その中には、本施設でのみ系統維持を行っている貴重なマウスも少なくない。そこで、飼育中の事故、微生物感染、交配ミス等による資源損失や遺伝子変異の防止および飼育費負担の軽減、限られた飼育スペースの有効利用のためにマウス胚凍結保存サービスを立ち上げた。本研究会ではその成績について報告する。

【材料および方法】精子を採取するため、交配経験のある10週齢以上の雄マウスを2~3匹提供してもらった。1系統あたり4~5週齢のC57BL/6雌マウス20~40匹にPMSG、hCGを48時間間隔で腹腔内投与し、過排卵誘起処理した。hCG投与15~17時間後に未受精卵を取り出しあらかじめ前培養していた提供マウスの精子を注入し受精させた。翌日2細胞期胚を簡易ガラス化法で凍結を行い、液体窒素タンクに保存した。また、凍結胚は一部融解・移植し、胎仔への発生を確認した。1匹あたりの過排卵数(2細胞期胚数+未受精卵数+退行卵数+異常分割卵数)/雌マウス匹数、回収胚率(回収胚数/凍結胚数)×100(%)、生存胚率(生存胚数/凍結胚数)×100(%)および発生率(胎仔数/凍結胚数)×100(%)を算出し、発生率が30%以上の場合を凍結完了とした。この基準に満たない場合は再度凍結保存操作を行った。

【結果】現在11系統中7系統の凍結保存が完了し、残り4系統については最後の発生率の確認作業中である。凍結保存が完了した7系統は過排卵数16.7~49.8個/匹、回収胚数 91.7~100%、生存胚率 75~100%、発生率32.5~93.3%であり良好な結果であった。ただ、発生率の確認作業で最初3系統が30%に満たなかったため、もう一度凍結胚を一部融解・移植したところ50.0~93.3%となり凍結技術は問題ないことが判明した。これは融解・移植の技術面や偽妊娠マウスの条件等に問題があり、今後は使用する系統を増やし、さらに技術面の向上を目指したい。