ラットの腹腔内投与麻酔における麻酔薬の比較(予備実験)

○ 戸部 善継・松田 幸久(秋田大学医学部附属動物実験施設)
   

目的

動物に対する麻酔は、外科手術などの苦痛が伴う処置を行う場合疼痛を緩和する目的で行なわれる。このことは、3Rの1つであるRefinementを達成するうえで極めて重要なことである。しかし、麻酔を行う事により様々なリスクが発生することも知られている。

そこで、今回我々はラットを用いてネンブタール、ケタミン+キシラジン、ケタミン+メデトミジンの3種類の麻酔薬を清書に記載されている投与量を参考として腹腔内に投与し、麻酔薬投与後に観血式血圧測定法による血圧の連続測定と血液ガス分析による呼吸状態の変化等の測定を行うことにより、ラット麻酔時の循環機能および呼吸機能への影響を確かめる為に予備実験を行った。


方法

ラットに酸素1L/min,笑気2L/min,ハロセン1.5%で麻酔を行い、意識および疼痛が消失したことを確認後、大腿動脈にポリエチレンチューブ(PE50)のカニューレーションを行った。また、チューブ先端は皮下を通して後頚下部から露出して多用途監視装置(日本光電社製MR-6000)に接続して連続血圧測定を開始した。カテーテルカニューレーション手術終了1時間経過後、3種類の麻酔薬投与前に血圧と血液ガス分析装置(ラジオメータ社製ーABL300)を用いてガス分析測定を行い、腹腔内麻酔後、2時間の測定および観察を行った。

各麻酔薬と投与量はネンブタール50mg/Kg,ケタミン75mg/Kg+キシラジン10mg/Kg,ケタミン75mg/Kg+メデトミジン0.5mg/Kgで行った。尚、この実験は予備実験である為ラットの週齢、性別は統一されていない。また、麻酔中は体温低下を抑制する目的で保温を行った。

結果

血圧の変化:

  1. ネンブタール麻酔では薬投与後、最高血圧を麻酔前と比較すると3 〜5.5分の間で血圧低下の幅が25〜61mmHgと最も大きかった。2時間経過後では、麻酔前の最高血圧に復帰したラットが2匹、他の3匹は復帰しなかった。

  2. 2種類の麻酔薬を混合したカクテル麻酔であるケタミン+キシラジンでは、3〜10分の間で最高血圧の低下幅が8〜61mmHgと最も大きかった。2時間経過後では、最高血圧が麻酔前近くまで復帰したのが2匹、他の3匹はネンブタール同様復帰しなかった。この2種類の麻酔薬で血圧が麻酔前に復帰しなかったラットは何れも加週齢であった。

  3. ケタミン+メデトミジンのカクテル麻酔薬では、最高血圧は時間的な差はあるが上昇がみられ、上昇幅は31〜81mmHgと著しかった。2時間経過後では、何れのラットも麻酔前の最高血圧より高い血圧で推移した。

酸素分圧(PaO2)および二酸化炭素分圧(PaCO2):

呼吸状態を知る指標であるPaO2,PaCO2の測定値を麻酔薬別にみると次のような結果であった。
  1. ネンブタールのPaO2変化は全例に低下が認められた。低下の最大値は麻酔前111.4mm Hgで麻酔後72.1mmHgと差が39.3mmHgであり、最小値は95.2mmHgが84.2mmHgで差が11mmHgであった。PaCO2に関しては、5匹中2匹が50mmHgまで上昇し 高二酸化炭素症に陥っていた。2時間経過後にはPaO2の値は全例正常値に戻っていたが、PaCO2では4匹はほぼ正常値に戻っていたが1匹が54mmHgと高値であった。

  2. ケタミン+キシラジンでも、PaO2低下は全例に認められた。低下の最大値は94.7mmHgが42.2mm Hgで差が52.5mmHgであり、最小値は101.1mmHgが67.6mm Hgと差が32.5mmHgと何れも30mmHg以上低下していた。PaCO2に関しては、5匹中4匹が50mmHgまで上昇し高二酸化炭素症に陥っており、4匹中3匹が重篤と言われている60mmHg以上の上昇が認められた。2時間経過後にはPaO2では全例正常値に戻っていたが、PaCO2では3 匹が 45.7〜49.9mmHgで麻酔前より高値でありこれらは何れも加週齢のラットであった。

  3. ケタミン+メデトミジンもPaO2低下は全例に認められた。低下の最大値は89.9mmHgが43.6mmHgで差が46.3mmHgであり、最小値は104.2mmHgが73mmHgで差が30.9mm Hgで何れも30mmHg以上低下していた。PaCO2に関しては、全例50mmHg以上の上昇が認められ,5匹中4匹が60mmHg以上の上昇であり重篤な高二酸化炭素症に陥っていた。
    2時間経過後、PaO2は53.4〜71.2mmHgと全例正常値に戻らなかった。PaCO2に関しても49.4〜64.8mmHgと全例正常値に戻らなかった。また、5例中4例が50mmHg以上の高値を示し高二酸化炭素症に陥っていた。尚、PaO2,PaCO2の値が大きく正常値と差があったの は加週齢ラットであった。