マイクロバリアーケージシステムを用いたコンベンショナル区域でのマウス検疫体制の確立

中村洋子、石郷岡清基、松田幸久(秋田大学・医・動物実験施設) 依田博美(エデストロムジャパン)

はじめに

 生命科学の研究において、遺伝子改変マウス(GMマウス)は貴重な遺伝資源動物であることから研究機関間での授受が盛んである。しかし、マウスの授受に伴い動物実験施設に病原体が持ち込まれる事故も増えており、その対策に苦慮している施設も多い。
 当施設においても多くの研究機関からGMマウスが搬入されている。搬入に際してはSPF証明書を信頼して行っていたが、今年になって発生したMHVによる感染事故を契機として、新たに検疫システムを確立することとした。
 当施設の面積は2700m2と狭く、さらにSPF飼育区域はGMマウスの急増で既に限界に達しているため、検疫室はSPF区域以外に設置しなければならなかった。そのためconventional区域においてマイクロバリアーケージシステム(装置名ベントラックシステム)と安全キャビネットを用いて搬入マウスの検疫を行った。これまでに得られた成績を報告する。

材料と方法

検疫システム:飼育装置として84ケージがセットされているマイクロバリアーケージシステム(ベントラックシステム:米国アレンタウン社製)を使用し、ケージ交換等の作業には安全キャビネット(アステック社製)を使用した。飼育装置の特徴としてはHEPAフィルターで浄化された空気を低風速でマウス用のマイクロバリアケージの中に送り込む陽圧式であり、この飼育装置には自動給水装置(米国エデストロム社製)も含まれている。
検疫方法:検疫期間を5週間とし、1ケージ当たりマウス4〜5匹を収容した。ケージ交換は安全キャビネット内でオートクレーブ滅菌した床敷入りケージと交換し、その頻度は1回/週とした。自動吸水バルブもケージ交換毎に滅菌したものと取り替えた。囮マウスとしては3匹を1ケージに収容し、ケージ交換時に検疫用マウスの汚れた床敷を少量混入した。囮マウスの他に陰性コントロールも用意した。これには汚染床敷を加える事なくケージ交換日に床敷交換と自動吸水バルブを取り替えた。検疫開始から5週目に囮マウスと陰性コントロールマウスから採材し、検査に用いた。
検査項目:HVJ, MHV, M. pulmonis, Tyzzerの4項目についてはELISA(モニライザーわかもと製薬K.K.)にて測定した。P. pneumotropicaについては、選択分離培地AFB培地による 咽頭気管培養を行い、コロニーが出た場合同定をすることにした。盲腸部蟯虫検査については、鏡検にて行った。
 以上の検査により、陰性とされたものを、SPF区域に搬入した。陽性となった場合には実中研にて確認試験を行うこととした。

成績と考察

 本システムを用いた検疫を03年7月8日から開始したが、11月2日までに4回(3機関から搬入された7ライン455匹のGMマウス)の検疫を行った。その結果陰性コントロールも含め囮マウスの全てにおいて、SPF証明書で示された通りHVJ, MHV, M. pulmonis, Tyzzer, P. pneumotropica ,盲腸蟯虫は、陰性であることが確認された。また検疫後に収容されたSPF室のモニタリングにおいても陰性であることが確認された。他の研究機関で大量のマウスを保有していた研究者が、当学部に赴任したことから1度に200匹以上のマウス(42ケージ)を検疫する機会が2度程あったが、本システムではそのような大量の検疫も可能であった。また、異なる研究機関から搬入されたマウスを本システムで同時に検疫を行っているが、マイクロバリアーシステムであることから特に問題なく検疫を進めている。このようにconventional区域の検疫室でも本システムを用いる事により検疫が可能であることが証明された。本システムを用いてP. pneumotropica汚染マウスと非汚染マウスを同時に検疫できるかについても現在検討中である。

 また、今後の検討課題として、今回検査した6項目以外に国動協から出されている実験動物の授受に関するガイドラインに含まれているコモンの項目をもクリアーできることを確認する必要があると考える。

平成15年度奥羽・東北支部合同勉強会