「実験動物福祉への取り組み」―ニホンザルの福祉―

○柏山浩,末田輝子,笠井憲雪(東北大・院・医学系研究科・動物施設)

 本来「実験動物の福祉」の概念は,研究者だけではなく私たち実験動物技術者にとっても必須のテーマであります。私たちはいままでこの事に関して無関心であった,というよりも全く気がついていなかったように思います。私たちは当施設で行った「実験動物福祉」のセミナーを受けてから,「動物の福祉」について考え実践することは実験動物技術者の職業における義務だと思うようになりました。そして私たち自身のこれまでの反省と今後の方向を模索するためにも今回「実験動物福祉」を実践することを試みました。

 私は,現在コンベンショナル領域の動物、すなわちサル,イヌ,ヒツジ,ネコ,ブタ,ウサギを飼育管理しています。「実験動物福祉」の取り組みの第1歩としてサルに目を向けました。当施設のサルは,これまで飼育担当者との触れあいが全くなく,人間に対してほとんど反応を示さず、むしろ相互に恐怖心がある状態でした。また、当初複数飼育されていたものの現在は1匹のみです。そのため仲間との接触はなく、餌を食べている時以外は膝を抱えてうつむいた姿勢でほとんどの時間を過ごし,退屈な時間が多い状態でした。そこで、仲間の代わりに飼育技術者との接触をめざし、まずこのサルにチャコという名前を付けて呼び,餌のやり方,おもちゃの与え方等を工夫し,スキンシップ(背中や頭をなでたり,握手をしたり)を試みました。さらに日中は聴覚刺激を与えるためにラジオを聞かせました。その結果,人にも慣れ,餌を直接私の手から取るようになり,サル自身が私たちに反応を示し、元気になりました。ただ、視覚障害からか、給餌の工夫による退屈時間の減少はあまりうまくいっていません。

 今回の「実験動物の福祉」の実践の試みから、これからの方向性、問題点が見えてきたように思います。それは、まず第一に実験動物飼育技術者が「実験動物福祉」における役割をおおいに議論し、考えることです。次にその方法の勉強と特定の動物を用いた実践、効果の見極めと問題点の発掘と解決法を見出すこと、そしてこれを通してさらに適用する動物数や種を拡大していくことと思います。今後さらに工夫を重ね、「実験動物の福祉」の実現をめざしたいと思います。

平成15年度奥羽・東北支部合同勉強会