マウスにおける環境エンリッチメントの評価

○石郷岡清基1)・鈴木美帆子1)・戸部善継1)、山下順助2)、松田幸久1)、高橋智裕3)(1)秋田大・医・動物実験施設、2)秋田大・医・RIセンター、3)日本クレア(株))

 環境エンリッチメントとは「動物福祉という理念のもとに心理学的幸福を実現するために行い、飼育環境を豊かにする試み」と定義することができる。最近、マウスの環境エンリッチメントを目的に各種の遊具が開発されている。そこで今回、4種類の環境エンリッチメント遊具(E.E)を用いマウスの嗜好性、行動パターンを比較観察した。また、ケージ内に異物体(E.E)を入れることによるストレスがあるか否かについて、インシュリンを測定することにより検討したので紹介する。

<マウスの系統および方法>
  1. E.Eに対する嗜好性にはBALB/c♀10〜12週齢5匹、また、ストレス関連の指標とされるインシュリン測定にはICR♂、♀10〜15週齢25匹を用いた。
  2. 今回使用したE.Eは木製トンネルと十字型(日本クレア(株))と樹脂製回転体とドーム型((株)アニメック)の4種類である。方法として連結した2個のケージのそれぞれに種類の異なるE.Eを1個入れ、その中でマウス1匹を飼育し行動時間および行動パターン(登る、かじる、中に入る、巣作りをする)等を赤外線灯光機カメラにより明期と暗期各々2〜3時間観察した。
  3. 血中インシュリンの測定にはAbビーズインシュリン栄研(栄研イムノケミカル研究所)キットを用いた。ストレスを判定する方法として半日絶食後のマウスを樹脂回転体と木製トンネルを入れたケージ内に放置、経時的すなわち10分、30分、60分後に採血、測定した。
<成績および考察>

 4種類のE.Eを2種類づつ組み合わせることにより6グループの組み合わせを作り明期と暗期でそれらの行動の比較をしてみた。その結果、明期で最も行動が顕著であったものは樹脂回転体の58%、以下木製トンネル、木製十字型の順で最も興味を示さなかったものは樹脂ドームであった。一方、暗期でも樹脂回転体に最も興味を示し63%を占め、以下木製十字型、木製トンネルの順で樹脂ドームは明期と同様最も興味を示さなかった。また、行動パターンでは、1)回転体上を走る 2)登る 3)かじる 4)巣作り 5)中に入る等であった。

 これらの観察から、特に動きのあるもの、あるいは柔らかいものに嗜好性が高いように思われた。しかし、一部のマウスはE.Eに興味を示したものの全体的には半数以上のマウスがE.Eに興味を示さなかったことからマウスの環境エンリッチメントにおいてE.Eを導入する必要性は低いように思われた。

 次にケージ内にE.Eを入れることにより逆にストレスになり得るか否かについて、今回は早期に血中に出現するインシュリンを指標として検討した。その結果、雄では10〜60分後においても1.4〜1.6ng/mlと高値を示していたのに対し、雌では10分後は0.6〜1.96ng/mlと高値を示したもののその後は正常範囲内にもどった。対照群の平均は0.3ng/mlであったことから、これらの数値から見るかぎりではストレスがかかっているようだが、はっきりしたことを求めるためには他の指標、たとえばハイドロコーチゾン、ノルアドレナリンそれに成長ホルモン等と比較する必要があると思われる。

平成15年度奥羽・東北支部合同勉強会