当施設における授受マウスの導入状況と検疫体制

井上吉浩、佐々木秀一、○高梨千代、村上まゆ子、池田真理子、鈴木宏子 (東北大・加齢研・動物施設)

 近年、遺伝子改変マウスを用いた動物実験が急増している。当施設の飼育動物もこれらの動物が圧倒的多数を占めている。このような状況の中、研究者間(施設間)で遺伝子改変マウスの生体での授受が盛んに行われるようになり、そのため感染事故を引き起こす機会も多くなってきていると考えられる。よって、動物施設においては、授受マウスによる感染事故を水際でくい止めるために、検疫システムを立上げ病原微生物のチェックを強化する必要性が出てきている。

 当施設では、平成8年度からマウス、ラットは全てSPFを限定し、微生物モニタリングを導入するなど動物の品質管理の整備を進めてきたが、これまで授受マウスについては書類審査(病原微生物検査成績書、SPF証明書)のみで搬入を許可してきた。幸にも被害を被るような感染事故は起きていないが、蟯虫などの内部寄生虫や緑膿菌などの微生物を受け入れることになり、逆に、当方から他機関へ分与する際の支障になるといった弊害も見受けられた。昨年、当研究所旧附属病院跡地の大規模な改修工事がなされ、その地下1階に検疫室を設けることができた。動物施設と建物が分離しているため検疫室としての機能が期待され、平成14年10月から授受マウス(ラット)の検疫システムをスタートした。本システムは以下の通りである。

 国内の専門のブリーダー3社(日本クレア、日本チャールスリバー、日本エスエルシー)からのSPFマウス・ラット以外の研究機関等(国外含む)から導入されるマウス・ラットを検疫対象とした。予め、導入申込書とともに他機関から導入しようとするマウス(ラット)の最新の病原微生物検査成績書を書類審査し、問題がない場合のみ検疫室に動物を搬入し、モニター動物と約5-6週間飼育する。飼育中、ケージ交換時に導入動物のケージの床敷をモニター動物のケージに入れる。検疫期間中、毎週1回、0.1%イベルメクチン液で駆虫を行う。モニター動物を実験動物中央研究所にて検査し、異常がなければ動物施設内飼育室に搬入する。検疫費は受益者負担とし1件につき50,000円とした。1件10匹を超える場合は1匹増加毎に1,000円を加算している。

 検疫を開始してから1年間で計22件(国内9件、外国13件)の授受マウスの導入があり、平成8年度から合わせると84件にのぼる。受精卵や精子での授受方法が今だ普及していない中、今後も授受マウスの生体でのやりとりがしばらくは続くものと考えられる。授受マウスの検疫検査は、先方の検査が行われてから当方に導入するまでの空白期間をカバーすることができるため、感染事故予防には非常に重要なシステムであると考えられる。また、添付書類に記載の有無に関係なく授受マウスに多い蟯虫などの寄生虫を検疫期間中に駆虫することも有効であると思われる。今後の課題として、検疫設備の充実を図ることと、受精卵や精子で授受できるシステムを早く構築したいと準備を進めている。

平成15年度奥羽・東北支部合同勉強会