次亜塩素酸ナトリウム液の残留塩素濃度と手指の細菌数との関連について



○速水洋子・助川康子・池田勝久・松田幸久(秋田大・医・動物実験施設)

 有害な微生物から実験動物の汚染を防止するために、飼育器材あるいは手指から汚染微生物を除くことが実験動物の衛生管理として行われる。具体的な手段は消毒および滅菌である。消毒・殺菌剤としては70%エタノール、イソプロパノール、クレゾール石鹸、ホルムアルデヒド、次亜塩素酸ナトリウム、ヨードホール、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、ヒビスクラブ等多数の薬品が市販されている。 現在、当施設では特にSPF 区域への入室時には、ウイルス、細菌、真菌等広範囲に殺菌効果を示す次亜塩素酸ナトリウム(商品名;ツルクロン,食品添加物 有効塩素12%)の500〜1000倍水溶液を、手指の消毒、殺菌に使用しているが、今回、その次亜塩素酸ナトリウム溶液の適正濃度と残留塩素濃度を経時的に測定した。また、現在 SPF 飼育室内への入室時には手指をイルソープピンク(5倍液)でブラッシングし、さらに次亜塩素酸ナトリウムを噴霧してから入室している。そこで、その手指等の細菌数も検査したので報告する。

<方 法>
 1)ポンプ式容器に0.5%(有効塩素 0.06%)次亜塩素酸ナトリウム水溶液500ml を入れ,希釈後11日目まで測定。
 2)測定方法は残留塩素測定器(SIBATA )を使用。つまり,残留塩素を含む水溶液にオルトトリジン O-Toridine 試薬を加えることにより塩素濃度に応じて淡黄色〜黄褐色に発色する反応系を用いて測定した。
 3)細菌の培養には5%血液加寒天培地を用い、手指の洗浄前後とそれに伴う希釈イルソープピンク液と次亜塩素酸ナトリウム水容液それにペーパータオルおよびドアノブも検査をした。
<結 果>
 1)適正濃度について次亜塩素酸ナトリウム液をあらかじめ0.5%、1%、5%濃度に希釈し、塩素濃度を測定したところ、0.5%希釈濃度でも200ppm 以上であった。また、希釈後11日目においても残留塩素濃度は150ppmと高濃度をしめしていた。
 23名の施設職員をモデルとし、手指の培養をした結果、3名とも洗浄前は 100の細菌数であったが、洗浄後には 50と減少し、0.5%次亜塩素酸ナトリウムの噴霧後には更に1/2と明らかに減少傾向を示した。
 3)更衣室と飼育室入口のドアノブのスワブからの細菌数は、0から5個であった。また、希釈イルソープピンク液と次亜塩素酸ナトリウムおよびペーパータオルからは細菌は検出されていない。
4)洗浄前の手指から検出された細菌の種類は、常在菌であるミクロコッカス属と非病原性ブドウ球菌が占めていた。
 以上の結果からポンプ式密封容器内では、少なくとも11日間は残留塩素濃度30ppm 以上を保持し、殺菌効果のあることがわかった。また、手指の培養で細菌は検出されてはいるが、目的としている日和見感染症の原因菌とされる緑膿菌やバンコマイシン耐性腸球菌、あるいはヒトから動物へ感染するといわれているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌等は検出されていない。これらのことから、コスト面から考えて0.5%次亜塩素酸ナトリウム液でも十分な殺菌効果を望めると思われる。