ネズミ蟯虫に対する駆虫薬剤の効果

―ラットにおける血液・生化学的性状―

○石郷岡清基・九島秀美・鈴木美帆子・松田幸久

                      (秋田大学医学部附属動物実験施設)
 現代医学において,臨床生化学検査の果す役割は大きい。それに伴い検査は年々増加し日々新たな進展を見せている。一方,実験動物の分野においても疾患モデルや毒性試験等と関連して血液および臨床生化学データーが要求されるようになった。しかし,実験動物に関しては正常値を取り上げてみても未解決な点があまりに多い。そこで今回は自然感染蟯虫ラットを2種類の薬剤で駆虫すると同時に,それに伴う血液学的および生化学的性状を検索しラットの体内への影響を調べた。

<材料および方法>

 当施設のコンベンショナル飼育室で感染が確認されたSD系ラット(18>〜20週齢,♂)18>匹をA,B,C群各5匹,D群3匹に分けた。供試薬剤はA群が広域駆虫剤である,商品名コンバントリンドライシロップ(主成分 パモ酸ピランテル,ファイザー製薬>K.K)を0.2%水溶液,B群は商品名アイボメック(主成分 イベルメクチン,塩野義製薬K.K)を0.01%水溶液で15日間連続飲水投与した。C群は10%アイボメックをケージ内噴霧を隔日毎10回実施した。なお,D群は対照群である。血液(赤血球,白血球)の測定には東亜医用電子K.Kの自動血球計数装置,生化学(GOT,GPT,LDH,UA,BUNの5>項目)には富士メディカルシステムK.Kの富士ドライケム3000を用いた。

<成績および考察>
  1. 薬剤による駆虫効果

     コンバントリン投与群は,投与後7日目で5匹全て後検査で虫卵は認めたが10日目で2/5,13日目では5匹全て虫卵は陰性であった。その後の追跡検査,つまり投与後30日目でも虫卵は検出されていない。一方,アイボメック投与群では,投与後5日目で2/5が陰転,7日目では5匹全て虫卵は検出されず投与後30日目でも陰性である。

  2. 薬剤によるラット体内への影響(毒性試験)

     a) 血液学的検査成績
     経時的末梢血中の赤血球,白血球数は投薬前での赤血球数は4群とも差はなく約640万〜900万,白血球数は9,300〜19,400と若干バラツキは見られるものの,おおむね正常値を示していた。一方,投薬後5日目,12日目でも血液学的には異常値を示す個体はなかった。

     b) 生化学的検査成績
     肝機能および腎機能検査の結果,投薬前では4群とも正常値を示していたのに対し,投薬5日目ではB群の2個体がGOT566,249U/L,GPTが446,110U/L,LDHが750U/L以上を示していた。このことは明らかに肝細胞障害(毒性肝炎)を引き起こしていた。しかし,それ以外の群には異常値を示す個体はなかった。また,この高値を示した2個体とも投薬後12日目では正常値を示した。なおA,B,C群とも腎機能には全く異常を認めなかった。

<まとめ>

  1. 2種類の薬剤での駆虫効果はアイボメック飲水投与で十分ラットの蟯虫に効果を示し,なおかつ速効性が高いように思われた。

  2. 一方,コンバントリンドライシロップは飲水には全く溶解せず,速効性が低く実用的ではないようだ。>

  3. 毒性試験の結果は4群とも血液学的には全く問題はないように思われるが,一方,アイボメックの飲水投与群の中に一過性ではあるが明らかに肝炎を引き起こしている個体があった。このことから,今後アイボメックを投与する場合は十分注意,検討し使用する必要があると思われた。