過去2年間における大動物の寄生虫学的検索

追留吉雄・石郷岡 清基・松田 幸久(秋田大・医・動物施設)


 わが国では,このところの動物愛護団体の活動により地方自治体からの実験用譲渡犬や猫の搬入が困難になりつつある.当施設でも2年ほど前から,それらの動物を県の動物管理センターから入手することが困難となった.近年,そのためイヌおよびネコの使用が激減し,それに代わりブタおよびヒツジの使用が増加傾向にある。
 そこで今回,平成8年5月〜10年2月の約2年間にわたり当施設に搬入されたブタおよびヒツジ,それに動物管理センター以外から搬入されたイヌおよびネコの4種類について寄生虫学的検査を実施したところ,興味ある成績を得たので報告する.

【材 料】
  1. イ ヌ;平成8年7月からで,種類は実験用に生産されたNRB犬((株)ナルク:ラブラドールとビーグル犬の交配種)と主にブリーダーより持ち込まれた秋田犬の検査総数は 83例である。
  2. ネ コ;平成8年12月からで研究者が業者より購入した日本家ネコの検査総数は82例である。
  3. 子ブタ;平成8年5月からで検査総数は48例である。
  4. ヒツジ;平成8年12月からで検査総数は12例である。
【方 法】

 検査方法:MGL法(ホルマリン・エーテル)の手順に従い実施した。
 駆虫方法:線虫類は硫酸ピペラジン純末(ファイザー製薬KK.)を100〜190mg/kgを飲料水に溶解し自由飲水させた。吸虫・線虫類はドロンシット注射液(バイエルKK.)を用い,吸虫は通常0.1ml/kg,条虫は0.6ml/kgを皮下又は筋肉内注射で実施した。

【成績及び考察】

 検査成績は表に示した。それによるとイヌでの検査総数83例中,蛔虫4例,鞭虫3例,槍形吸虫1例と感染率は低かった。これはおそらく検査対象が主にブリーダーからの搬入犬であり,譲渡犬ではないためと思われる。また,ネコでの検査総数は82例で,壷形吸虫とマンソン裂頭条虫が各々16例,鈎虫13例,蛔虫9例,毛様線虫1例と非常に感染率は高かった。また,これらの中で2種類以上の混合感染が12例みられた。
 次に,ブタでの検査総数は48例で,鞭虫とコクシジウムが各5例,蛔虫1例であった。コクシジウムに関しては生産者を指導したことにより,平成9年からは1例も検出されていない。なお,1例の不明虫卵はおそらく土壌線虫と思われる。また,ヒツジの検査総数は12例でそのうちコクシジウムが8例,鈎虫7例,毛様線虫と槍形吸虫が各1例であった。
 またこれらの陽性例の中には人畜共通感染症(イヌ,ネコの蛔虫,鈎虫)に指定されている寄生虫も含まれていることから駆虫を実施した。その結果,駆虫後50日目に再検査を行ったところ虫卵は全て陰転していた。なおコクシジウムについては駆虫を実施していない。今回の成績で興味のあることは,ネコに寄生していた壷形吸虫である。この吸虫の流行地は主に西日本と南日本であるが,第一中間宿主であるヒラマキモドキガイは東日本にも生息しているが,今日まで本吸虫の感染報告例はない。しかし,近年わが国のネコにこの吸虫が蔓延しつつあることから,今後東北地方においても疫学的調査が必要と思われる。しかし現在はイヌなどの実験動物の生産所においても検疫が十分実施されているため,寄生虫の感染率は減少傾向を示すものと思われる。今後は実験用ネコの生産体制の確立が待たれる。

大動物の寄生虫学的検査成績





寄 生 虫 卵 の 種 類
蛔虫 鞭虫 鈎虫 毛様線虫 壷形
吸虫
マンソン裂頭条虫 コクシジウム その他
イヌ 83 4
(5)
3
(4)
      1
(1)
     
ネコ 82 9
(11)
  13
(16)
1
(1)
16
(20)
  16
(20)
   
ブタ 48 1
(2)
5
(10)
          5
(10)
1
(2)
ヒツジ 12     7
(58)
1
(8)
  1
(8)
  8
(67)
 


                         ( ): % , *不明虫卵


活動記録(2)へ