実験用ウサギから分離された大腸菌群について


石郷岡清基・助川康子・鈴木美帆子・松田幸久・飛田正子
(秋田大・医・動物施設,附属病院中央検査部


 近年当施設では,実験用ウサギ(日本白色種,コンベンショナル 以下CONVと略す)の需要増加に伴い県内外の3ヶ所,つまり秋田,福島,東京の生産所から搬入している。しかしそれらの生産所の飼育環境の相違,さらには技術的な問題点もあり良質で均一な実験用ウサギの搬入は困難な状況にある。そのため我々は搬入時,耳疥癬とコクシジウムの2項目については検疫を実施している。
 実験用ウサギの感染性腸炎の原因菌としてサルモネラ,病原性大腸菌、また頻発する疾病の中には緑膿菌感染症やパスツレラ症が知られている。今回,通常ウサギ体内には常在し得ないと言われている大腸菌感染により,死亡したと思われる単発の症例を経験したので報告する。

【材料及び方法】

 材 料:19973年7月〜1998年1月の期間に搬入されたCONVウサギ4匹(体重3.0〜3.5Kg)と当施設で繁殖したSPFのJW-AKT(大型ウサギ)2匹(体重2.1〜3.0Kg F1の幼ウサギ)それにKBLウサギ(北山ラベス)の合計7匹でこのうち6匹は実験前に,1匹は実験後に死亡したものである。
 方 法:死亡後直ちに気管内容物,腸内の糞便を5%血液加寒天培地とドリガルスキー改良培地(共に栄研KK)を用い37℃24時間培養し,得られたコロニーのうちgram(−)桿菌はバイオtest1号(栄研KK.)で,gram(+)球菌はスタフィスライドtest(日本ビオメリューバイテックKK.)により種の同定を行った。尚,大腸菌の血清型は免疫血清凝集法(スライド法デンカ生研)により実施した。

【成績及び考察】

 搬入後7日以内に死亡したウサギ4例(飼育環境CONV)と当施設で繁殖したJW-AKT2例とKBLウサギ(いずれも飼育環境SPF)の7例について,細菌学的検索を実施した。その結果表に示すごとく症例No.1〜4の気管支及び糞便から大腸菌が分離された。そこで免疫血清凝集法により型同定を行ったところ,毒素産生性のO-148と同定された。Lieve Okermanや伊藤(実中研)らはウサギの体内には大腸菌は常在することはなく、感染した場合は致命的なダメージを受けるであろうとしている。次にNo.5〜7からは大腸菌は全く検出されず常在菌である緑膿菌のみが検出された。今回単発例の大腸菌と緑膿菌感染で死亡したと思われる症例を報告したが,特に大腸菌の感染例についての感染経路は特定できなかったがCONVの2例はおそらく搬入後1週間以内に発症,死亡していることを考えると、生産所内においてすでに感染しストレスのため発症したと思われる。しかしSPFの2例に関しては、飼育者つまり施設職員の伝播により感染した疑いもある。なお,感染予防の目的でオーレオマイシンとゲンタリンを全ての実験用ウサギに投与した。

細菌感染症で死亡したと思われる症例


症例 No. 飼育環境 菌種の同定 血清型
1 1997.7.24 CONV 毒素産生性大腸菌 O148
2 1997. 8.26 SPF
3 1997. 9.29 SPF
4 1997.11.17 CONV
5 1997. 12.18 CONV 緑膿菌  
6 1998.1.9 SPF  
7 1998. 1.20 CONV  



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