オリエンタル酵母の実験動物飼料の歴史

友成 ・オリエンタル酵母工業KK. バイオ事業部


 当社は国産の良質なパン酵母の生産および供給を目的として,昭和14年に設立された食品会社である。従来のパン酵母は,大麦麦芽を糖化させた原料を用いて製造していた。その際多量の外皮および麦芽根が廃棄物として出たことから,それを有効利用するために昭和25年農林省畜産試験場の指導のもと,牛馬用の煉瓦サイズの圧縮飼料を開発したことが当社飼料事業のスタートである。昭和26年春,日本の実験動物界のパイオニアである安藤洪次先生,田嶋嘉男先生が当社工場を訪れ,マウス・ラット用固形飼料の開発を依頼されたことにより当社の実験動物用飼料事業が開始された。昭和26年より試作を重ね,各所の研究施設に使用試験を実施していただき,昭和29年に我国初の実験動物用固形飼料MF(当時の製品名はM)が発売された。以後対象動物種,用途別に品目も次第に増加し,現在では約30種類の実験動物用飼料が販売されている。今年(1998年)で当社の実験動物用飼料事業は,48年目を迎える。動物実験の市場は,いまや成熟期を迎えていると言われているが,ヒトに対する化学物質の安全性,機能性,薬効性,各種疾患の予防,診断,治療の研究が行われる限り動物実験の重要性は変わらない。我々は,過去と変わらぬ品質の飼料の製造に努めると共に,最先端の研究者が満足する新しい実験系に適した飼料の開発を進めていくことが使命と考える。

小動物の嗜好性

 動物の飼育室内に飼料を搬入する際,飼料に対し何らかの消毒が行われることが多い。代表的な飼料の滅菌方法は,オートクレーブ処理又は放射線照射処理の2種類である。放射線照射に比べて,オートクレーブ処理した場合は,飼料の臭い,外観,硬度,水分,ビタミン類の変化が大きいことが知られている。我々は,オートクレーブ処理の有無に着目して,動物はどちらの飼料をより好むのかを調べた。同配合の飼料を成型圧力の異なる2種類の成型機と,オートクレーブ処理の有無の条件を組み合わせて,6種類の味と硬度の異なる飼料を作成した。これらのうちの2種類の飼料を同時に供した場合の,それぞれの飼料の総摂餌量に占める各摂餌比率を嗜好性として比較した。その結果,マウスは同じ味の固形飼料では,硬度の低い方を優先すること,オートクレーブ処理した飼料と未処理の飼料では硬度により嗜好性は変化することが判った。一方,硬度の影響のない粉末飼料を用いて同様の試験を行うと,マウスは未処理の飼料を優先して摂取した。

 飼料の滅菌方法は,今まで飼育管理する施設の都合で選択されてきたが,動物側(マウスでは)からみるとより好んで嗜好するのは,未処理(滅菌が必要な場合は,物性の変化の少ない照射処理)の飼料である。しかしながら,照射滅菌処理飼料は価格の低減が大きな課題とされている。我々も照射処理飼料のコストダウンに向けて鋭意努力を行っているが,動物に嗜好性の高い飼料を与えるという観点から,飼料の滅菌方法について再考が必要ではないだろうか。


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