吸入麻酔薬の種類と特性
- エーテル(ジエチルエーテル)
【ether(diethyl ether)】
薬効
気化させやすく麻酔瓶などを用いて初心者でも容易に使用可能である。
副作用
刺激性があり、咳やおびただしい気管支分泌物および唾液の分泌がみられ、時には喉頭痙攣の原因となる。
特記事項
爆発性があるためその使用に当たっては十分に注意する必要がある。
エーテルは代謝を受けるので、エーテルへの曝露で肝臓の酵素活性が誘導される(Linde and Berman, 1971)。
- ハロタン(halothane)
薬効
気化させやすく、導入および覚醒も速い(1〜3分)
副作用
心血管系の抑制作用を有しているため、外科麻酔レベルで中程度の血圧低下を生じる。
ハロタンの肝臓代謝が起こり、著名な肝臓ミクロソーム酵素誘導が麻酔後にみられる(Wood and Wood, 1984)。
特記事項
非刺激性で、引火性も爆発性もない。
- エンフルラン(enflurane)
薬効
麻酔の導入および覚醒は速く、そのため麻酔深度を容易に迅速に変えることができる。
副作用
ハロタンと同程度に麻酔中に心血管系および呼吸器系の抑制作用がかなり出現する。
特記事項
非刺激性で、引火性も爆発性もない。
エンフルランはハロタンとは異なり、肝臓ではほとんど代謝されない。それ以外では麻酔薬としてはハロタンもエンフルランも同じである。
- イソフルラン(isoflurane)
薬効
麻酔の導入および覚醒は速く、そのため麻酔深度を容易に迅速に変えることができる。
副作用
ハロタンよりもやや重篤な呼吸抑制がある。しかし、心血管系では、ハロタンよりも抑制は少ない。
特記事項
非刺激性で、非引火性である。
実験動物におけるイソフルランの使用上の主な利点は、エンフルランより生体内変化が少ないことで、ほとんど呼気中に除去される点である。そのため肝臓のミクロソーム酵素への影響は少なく、薬剤の代謝および毒性実験研究にほとんど影響しないであろう(Eger, 1981)。この特性と麻酔の急速導入および覚醒により、多くの研究施設でイソフルランが広く採用されてきた。
- メトキシフルラン(methoxyflurane)
薬効
強い鎮痛作用および術後わずかな鎮静作用を有する。
副作用
わずかな呼吸および心血管系への抑制作用がある。しかし、同程度の麻酔深度では、通常ハロタンよりも抑制の程度は少ない。
メトキシフルランの代謝は、腎障害の原因になるフッ素イオンの放出をもたらす。比較的長時間の麻酔を除いては動物に対して有害性は少ない(Murray and Fleming, 1972)。
特記事項
空気あるいは酸素下では非刺激性、非引火性および非爆発性である。
メトキシフルランの麻酔の導入速度は遅いので、大型の動物種においては、短時間作用注射薬に続く維持麻酔に使用されている。小動物では麻酔箱にて安全に使用することができる。そのゆっくりとした導入と低気化濃度は、不慮の過量投与の危険性を減ずる利点がある。新生児における導入および維持麻酔には、優れた麻酔薬である。
- セボフルランおよびデスフルラン(sevoflurane and desflurane)
イソフルランに類似した特徴がある強力な麻酔薬である。
デスフルランは、ヒトにおいては臨床に使用されている。しかし、麻酔薬を安定した濃度にするためには新しく設計された高圧の気化器が必要である。代謝の程度は最も少なく(Koblin, 1992)、麻酔の導入および覚醒は揮発性麻酔薬の中で最も速い(Eger, 1992)。
セボフルランは、代謝の程度がイソフルランと類似しており、閉鎖麻酔回路において最も普通に使用される二酸化炭素吸着剤であるソーダライムの存在下では不安定である。
ここに記載した内容はラボラトリーアニマルの麻酔(P Flecknell著、倉林 譲監修 学窓社 1998)より一部を引用したものです。詳しくはラボラトリーアニマルの麻酔を参照してください。