床敷素材の違いによるマウスの飼育環境
―特に産仔数と離乳数(率)について―
○九島 秀美・鈴木 美帆子・能登谷 スミ子・松田 幸久(秋田大・医・動物実験施設)
動物実験施設では実験成績の信頼性,再現性を確保する上で優れた動物の導入が要求される。さらにそれらの動物を快適な環境にて維持することが動物福祉の観点からも要求される。動物を快適な環境にて維持する管理方法の一つに適正な頻度のケージ交換があるが,例としてマウスのケージ交換を取り上げる。
当施設ではこれまで1週間に2回の割合でケージ交換を行いマウスにとって快適な環境の維持に努めてきた。しかし,施設職員数が年々削減される傾向にある一方で,このところのトランスジェニックマウスの利用増加に伴いマウスの収容数が激増している。そのためマウスのケージ交換作業に多くの時間が費やされ,また交換用のケージ数も不足がちとなっている。そこでそれらの問題を解決するためにケージ交換回数を減少させつつも,良好な飼育環境を作り出すことが要求されている。それを可能とするためのマウスの床敷素材を選択することを目的として実験を行った。今回の実験では3種類の床敷素材を用いたが,適正繁殖環境が維持されていることの指標として産仔数,離乳数それに仔の体重を経時的に測定し比較したので,これまでに得られた結果を報告する。
<材料及び方法>
供試床敷材はA群として一般に使用されているウッドチップ(主成分エゾマツ,道央理化kk),B群がサークルチップ((有)原商店),C群はコーンコブ(kkアニメック)の3種類で1ケージ当たりの重量は適量と思われるウッドとサークルが30g,コーンコブが50gである。使用マウスの種類はICRで♂が5週齢(体重約25g),♀は6週齢(体重約25.2g)である。
方法は3種類の床敷材で1週間程度飼育後,♂♀1:1で同居させ産後直ちに♂を隔離し,その後産仔数と1週毎に仔の体重を測定した。また,その実験経過中各床敷材での巣作り状態も観察した。なお,これらの実験系は各群,2グループである。また,照明はAm7:00からPm7:00までの12時間照明,温度は22±3℃,湿度は50±10%の飼育室内の環境を維持した。
<成績及び考察>
- 産仔率:A群は15,11匹の平均13匹,B群は14,11匹平均12.5匹,C群が13,13匹平均13匹であった。群別ではA,B群の中で最少が11匹,最大で15匹と産仔数に多少の差は見られたものの,各群の平均では12.5〜13匹と差はなかった。
- 離乳率:A群は産後2週目までに3匹死亡離乳率23/26(88.5%),B群は3週目に1匹死亡の24/25(96%),C群は2週目までに4匹死亡の22/26(85%)の離乳率であった。この成績を見る限りでの離乳率はB群が最も良くA群,C群の順であった。
- 産仔の体重推移:生後1〜2週目での体重は3群ともほとんど差はなく,1週目で3.9〜4.7g,2週目では5.8〜6.6gであった。ところが3週目では明らかな有意差が見られA群が最も良好で9.8g,B群が8.9gに対しC群は6.4gと低値であった。さらに,4週目においてはA群とB,C群間には大きな差が認められA群は17.1gと急増しているのに対し,B,C群は13.9〜13.2gであった。
昨年の総会で小原らは古新聞紙を再生した床敷環境下では,産仔の体重に減少する傾向が見られたとしている。我々の実験でもB,C群は体重の減少はないものの増加が遅い傾向が見られた。今回の繁殖実験での離乳率はサークルチップ,産仔の体重推移ではウッドチップが良好と思われた。なお,この実験系は現在も継続し,再度比較検討中である。