当施設における実験用ウサギの検疫
―特に細菌学的検索について―
○石郷岡 清基・助川 康子・佐藤 政義・松田 幸久(秋田大・医・動物実験施設)
実験動物として飼育しているウサギに感染症が発生すると,生産施設では品質の低下をきたし実験動物として供給するには不都合となる。ウサギにおける感染症の原因としては細菌,ウイルス,内部及び外部寄生虫等の病原体があり,その感染状態には顕性感染,不顕性感染あるいは日和見感染がある。これらの病原体に感染し品質の低下したウサギを実験に用いた場合には,再現性のある実験成績が得られず実験自体が不成功に終わる。したがって再現性が求められる動物実験においては,微生物学的に品質の一定した動物の導入が不可欠であり、そのために検疫業務が重要となる。また,施設内において飼育動物の微生物学的品質を一定に維持するためには,疾病予防の原点となる衛生学的管理が強く求められる。
ところで,当施設ではこのところ自治体由来のイヌの入手が困難となったことから,県内で生産されている大型ウサギ(日本白色秋田改良種)の需要がイヌに代り増加している。これらの大型ウサギは微生物学的統御が不十分のため,外科的手術等の実験処置後に死亡する例も見られる。そこで今回は,当施設に搬入された大型ウサギを主体に細菌学的検査を実施したので紹介する。
<対象細菌の種類>
糞 便:サルモネラ菌,プロテウス菌,大腸菌
鼻腔粘膜:パスツレラ菌,ブドウ球菌,溶血性連鎖球菌,腸球菌(VCM耐性)
<方 法>
検査数は65例でこの中には免疫実験中3例,外科的手術後20例を含む。なお,ウサギの種類は60例が日本白色秋田改良種,5例が日本白色種である。
材料の採取には滅菌綿棒を滅菌生理食塩水に浸し糞便は肛門内,鼻腔粘膜スワブは鼻孔から挿入し,それをドリガルスキー改良培地と5%血液加寒天培地に接種し37℃で24〜48時間培養した。
なお,腸球菌にはVCM8μg/ml加エンテロコッコセル寒天培地を用いた。培養後のコロニーはグラム染色をすることによりコロニーの鑑別を行い,純培養後に菌種の同定を行い,gram(−)桿菌はバイオテスト1号(栄研化学kk)で,ブドウ球菌はスライデックススタフキット(日本ビオメリューkk)でコアグラーゼ産生能を調べた。
<成績及び考察>
- 糞便から検出された菌種
65例中7例(11%)からgram(−)桿菌が検出されたが、同定の結果,それらの菌は今回検査対象としていない腸内常在菌のエンテロバクター群であった。また,gram(+)球菌は2種類検出され,それらは同定の結果,非病原性ブドウ球菌2例(3.1%)と腸球菌が5例(7.7%)であった。
- 鼻腔内から検出された菌種
今回目的としていたgram(−)桿菌は全く検出されなかった。一方,gram(+)球菌は65例中7例から分離され,同定の結果それらは3種類に分けられた。つまり非病原性ブドウ球菌が2例(3.1%),α溶血性連鎖球菌と腸球菌が各3例(4.6%)であった。なお,これらの菌は外科的手術後の個体からのみ分離されたものであった。
そこで腸球菌がVCMに耐性であるか否かについて検査を実施したところ全例とも常在菌であるエンテロコッカス,フェカーリスであった。ヒトでの腸球菌は重症基礎疾患や免疫不全などで抵抗力の低下した患者などにおいて尿路感染症,感染性心内膜炎や胆道感染症などの原因になるとされている。
今回,手術後の個体から腸球菌が分離されてはいるが特に問題となる症状はなかった。また,ヒトでは院内感染症の原因菌とされているが,それが果たして実験動物にも感染するか否かなどについての報告がまだないため不明な点が多い。今後はこれらについて早急に検討する必要がある。
秋田改良種(体重約6.5Kg)と日本白色種(体重約3.0Kg)