低線量生物影響実験棟(SPF動物実験施設)の運転管理に関して

財団法人 環境科学技術研究所 生物影響研究部 一戸 一晃

はじめに

 低線量生物影響実験棟は,多数のマウスに低線量率(ガンマ線で0.05mGy/分以下)で低線量(総量としてガンマ線で200mGy以下)の放射線を長期間連続的に照射することにより微弱な放射線のマウスに対する影響の有無を確かめることを目的として建設された。
 また,本施設はSPF(特定の病原体が存在しない)環境下で低線量率放射線の連続照射とSPFマウスの飼育が同時に行えるようにも設計されている。

施設の設計

 平成4年7月に研究計画等,施設の設計に係わる基本的事項について検討が開始され,平成5年に下記の条件で本施設の詳細設計を行った。
@低線量率放射線を長期間動物に照射するための照射室,照射後動物および非照射動物を終生飼育するための飼育室,購入および分与された動物を一定期間検疫飼育するための検疫室と微生物検査室,死亡動物の病理検索を主体とする実験室および動物照射・飼育に必要な機械・設備・作業室を確保する。
A照射室および動物飼育は微生物学的に同程度のSPF環境内,すなわちバリア区域に配置する。空調条件等は日本実験動物学会が定めたマウス飼育環境条件を満足する。
検疫室の飼育環境も同様とする。
B照射室は3室とし,部屋中央にCs-137ガンマ線密封線源(74GBq,3.7GBqおよび0.185GBq)を入れた照射装置を設置する。照射装置は照射室外で操作する。
C照射室は3室だけを放射線管理区域とし,管理区域境界における漏洩線量は法で定めた規制値以下する。
D検疫室は病原微生物学的にほかの部屋から隔離され,検疫室および飼育室は個別に室内消毒(ホルマリン燻蒸)を可能とする。

施設の建設と設備整備

 上記詳細設計に基づき,平成6年7月より建設工事が開始され,12月末には外部仕上げが終了し,平成7年2月には空調設備等の据え付けがほぼ完了した。その後,照射室3室を管理区域として放射線安全管理を開始し,2月末には線源を照射室に搬入した。3月に入るとともに高圧蒸気滅菌器等の大型機器の取り付け,空調機器の調整等が行われ,3月末日に施工業者から環境研に本施設が引き渡された。

施設の立ち上げ

 平成7年4月より空調設備について1日8時間の調整運転を行い,7月より24時間連続運転に移行した。その間,高圧蒸気滅菌器等大型設備の調整運転および動物管理区域の清掃・薬液噴霧消毒を行った。8月には照射室内線量分布測定および飼育作業員習熟訓練のために,マウスを購入し,コンベンショナル下で検収・検疫・照射および飼育作業を1ヶ月間に渡り実施した。この作業に基づき,平成6年度に定めた実験動物取扱作業要領を実状に会わせて改正した。9月には,ホルマリン燻蒸による清浄区域のバリア構築を行い,10月からSPFマウスを3ヶ月間飼育して,清浄区域の清浄確認試験を行った。
 清浄確認試験における病原微生物検査は全て陰性で,SPFマウスを飼育可能な清浄区域が確立した。

運転管理
 空調設備の24時間連続運転を開始した平成7年7月より,空調設備,受変電設備,非常用発電設備,火災報知設備,高圧蒸気滅菌器,自動塩素添加装置,焼却炉および浄化槽について日常点検および定期点検を開始した。さらに,施設および飼育動物の定期的な衛生管理を平成8年2月より開始した。

 今回の講演では,平成7年より現在までの5年間における,低線量生物影響実験棟の運転管理状況に関して紹介させて戴きたいと思います。


本事業は「青森県排出放射性物質影響調査設備等整備等事業補助金」により実施した。