Pasteurella pneumotropicaの感染力と薬剤の効果について

○石郷岡清基・中村洋子・助川康子・鈴木美帆子・松田幸久
                          (秋田大・医・動物実験施設)

<目 的>
 近年、当施設でも国内外の研究機関から遺伝子改変マウス(T.g)の授受が増加している。一方で、それらの実験動物における微生物による汚染が新たな問題になりつつある。そこで今回はその中で、最近特に話題になっているPasteurella pneumotropicaP.p)について実験を行ったので紹介する。
<対象動物および方法>
 1)供試動物:遺伝子改変マウス7系統56検体とC57BL/6 10検体、それに囮マウス(ICR 7週齢)20検体の合計86検体である。
 2)培養検査方法:相塲(三協(株)実動 G)らが考案したAFB培地(自家性)、つまり抗生物質であるアミカシン1μg/ml、フラジオマイシン1μg/ml、バシトラシン400μg/ml含有の血液加寒天培地にマウスの口腔内および気管支のスワブを直接培地に接種、372448時間培養、分離菌株の生化学性状はIDテストHN-20ラピット(日水製薬K.K)で行い菌種を同定した。
 3)感染力の実験方法:直接的感染はP.p陽性ケージ内の床敷(ウッドチップ)1つまみを囮ケージ内に混合。この操作を週1回の計4回繰り返した。また、間接的感染としてP.p陽性ケージの近くに囮ケージを設置するすることにより、感染が成立するか否かについても比較検討した。
 4)薬剤の効果:P.p陽性マウスにフルオロキノロン系抗菌剤であるエンロフロキサシンを1日投与量25.5mg/kgを給水ビンに混合し2週間連続経口投与し、1週間滅菌水を経口投与、この操作を3回繰り返し行い、その後P.pの培養検査を行い効果判定をした。
<成績および考察>
 過去2年間に国内外から分与されたTgマウスと生産業者から搬入したマウス66検体中50検体76%からP.pが高率に検出された。その内訳としてTgマウスが48/5686%)、一般マウスが2/1020%)であった。そこで感染マウスコロニーからP.pを根絶する目的でエンロフロキサシン(滅菌水200mlに対し0.7ml)を給水ビンで自由飲水させたところ投与期間14日で全てのマウスからP.pは検出されなかった。このことから非常に効果的な薬剤と思う。しかし完全根絶の意味から23回(投与期間として2842日間)繰り返した。また、エンロフロキサシンは緑膿菌に対しても効果のあることが知られている。
 次に囮マウスを用いP.pの感染力について比較検討したところ直接的感染では床敷混合後21日目に囮マウスの4/580%)、28日目では全囮マウスがP.pに感染していることが確認された。このことからP.pの感染力は直接感染ではあるが思いのほか、強いように思われた。また、間接的感染では28日目においても囮マウスからP.pは検出されていない。上野らはP.pに感染したマウスと同室の他のマウスは免疫能力はあるにもかかわらずP.pに感染していたと報告している。我々の実験では4週目でも囮マウスにP.p感染を認められていないことからこの実験系は現在も継続中である。
 P.pは一般的に免疫不全マウスにおいて臨床疾患として皮下の膿瘍形成や眼炎、結膜炎、涙腺炎等を呈することが知られているが、今回のP.p感染マウスコロニーからは現在のところ、それらの所見は確認されていない(不顕性感染)。今後は免疫不全マウスを用い感染実験を実施し生化学的および病理組織学的にP.pの病原性等を明らかにしていきたい。