- ヘルシンキ宣言(1964年制定、2002年修正)
ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則
B.すべての医学研究のための基本原則
- ヒトを対象とする医学研究は、一般的に受け入れられた科学的原則に従い、科学的文献の十分な知識、他の関連した情報源及び十分な実験並びに適切な場合には動物実験に基づかなければならない。
- 環境に影響を及ぼすおそれのある研究を実施する際には十分な配慮が必要であり、また研究に使用される動物の健康を維持し、または生育を助けるためにも配慮されなければならない。
- CIOMSの国際原則
(1985年制定)
1.根本原則
- 実験者および他の職員は感覚のある動物を決しておろそかに扱ってはならない。適切な管理と使用に心がけ、不快、苦痛を与えないか、与えても最小限とすることが倫理的に求められている。
- 動物の痛みに関する知識を増やす必要はあるが、実験者は、人間に痛みを引き起こす処置は他の脊椎動物にも痛みを引き起こすと考えるべきである。
- 瞬間的痛み、最小の苦痛以上の苦痛が生じると思われる処置を動物に行う場合には、獣医学的に容認されている適切な鎮静、鎮痛あるいは麻酔処置を行うべきである。外科手術等の痛みをともなう処置は化学物質によって麻痺させた動物に無麻酔で行ってはならない。
- 前項7の条件に反する実験を行うにあたっては、その決定に際して実験に直接関わっている実験者だけで決定してはならない。適切に構成された委員会によって項目5および6の条件を考慮して決められるべきである。
- EU Directive 86/609/EEC(EU指令)(1986年制定)
第7条
- すべての実験計画は,実験用動物に苦痛や苦悩を与えることを避けるように計画されるべきである。
第8条
- すべての動物実験は局所もしくは全身麻酔下で行われるべきである。
- 前項が適用されないものとしては:
- 麻酔が実験そのものより動物にとってより危険な場合
- 麻酔が実験目的を損なう場合。そのような場合は不必要にこのような実験が行われないよう,合法的でかつ行政上の措置がとられるべきである。
麻酔はひどい痛みを伴うような侵襲を加える実験の場合に実施されるべきものである。
- もし麻酔を実施することが不可能な場合は,動物の苦痛や被害が最小限に抑えられるような鎮痛剤の使用やその他の手段を講じるべきである。いかなる場合でも,動物にひどい苦痛をもたらしてはならない。
- このような処置が実験目的と合致しない場合や,実験中に動物の麻酔がきれてひどく苦しんでいる場合は,苦痛から解放させるための時間をとる処置を講じなくてはならない。
もしこれらの処置が不可能な場合には,人道的な方法で安楽死させる場合もある。
(EC動物実験指針(訳)監訳 福井正信 ソフトサイエンス社より
- 動物の愛護及び管理に関する法律
(1973年制定、1999年動管法改正)
第24条(動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後措置)
動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供する場合には、その利用の必要な限度において、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。
動物実験に関しては、「現行の基準に基づく自主管理を基本とすべき」として今回の改正からは除外された。
- 実験動物の飼養及び保管等に関する基準(1980年制定)
「動管法」第11条の「動物を科学上の利用に供する場合の方法及び事後措置」に基づき制定。主に実験動物の飼養と保管に関する条項が定められた。
(実験等の実施上の配慮及び終了後の処置)
第5条2項の(1) 実験等に当たっては,その実験等の目的に支障を及ぼさない範囲で麻酔薬等を投与すること等によりできる限り実験動物に苦痛を与えないようにする・・・。
- 実験動物の飼養及び保管等に関する基準の解説(1980)
内閣総理大臣官房管理室の監修,実験動物飼育保管研究会の編集により出された解説書では,以下のような記がある。
苦痛の排除
一般に実験処置は動物に苦痛を与えるものであるが,その際できる限り苦痛のない処置によるべきである。
- 苦痛:物理的,化学的な処置による直接の痛みのほか,不安その他の心理的なものも含まれると解釈すべきである。
- 苦痛を与えない手段:動物の適切な保定(物理的手段)と,鎮静剤,鎮痛剤及び麻酔のための前投薬を含む麻酔薬の投与(化学的手段)に大別できる。
これを行う者は原則として実験実施者又は実験動物管理者であるが,化学的手段については,獣医師,医師,歯科医師,薬剤師の指示の下に実施されるべきである。
なお,本項ではこれらの手段は“実験目的に支障のない範囲”で採られるべきであることが示されているが,その範囲は,実験実施者,実験動物管理者の良識に任されている。
しかし,“実験の支障”を誇大に取り上げることなく,できるだけ動物保護の立場を生かす配慮が強く望まれる。
また,動物実験の場での麻酔とは,化学的手段による“保定”という解釈もあるが,ここでは苦痛を防ぐあるいは除く一手段として理解する。
したがって,鎮静剤,鎮痛剤あるいは麻酔のための前投薬の単独投与も,ときには,苦痛を与えない手段として有効であろう。
- 保定:動物における適切な保定は,麻酔薬投与を含む的確な実験処置に有効なばかりでなく,動物に十分な安心感を与えて麻酔薬なしの実験を可能にすることが多い。
また実験実施者からみると,動物の騒擾を防ぎ,人の安全にも重要な役割を果たす手段である。
麻酔を施すことによって,確かに動物は実験処置期間中無感覚で経過するが,処置の前後における各種の障害を考慮すると,麻酔は必ずしも適切な処置とはいえない。
むしろ,熟練した術者による的確な保定のほうが,動物の受ける苦痛を少なくする場合がある。
なお,保定は実験実施者によって行われることを原則とするが,場合によっては実験動物管理者または熟練した飼育者(例えば,日本実験動物学会の実験動物技術員資格初級以上を保持する者)に一任すべきであろう。
- 麻酔:麻酔という用語は,薬理学あるいは麻酔学で明確に定義されているが,ここでは苦痛を取り除くことを主体とした行為と理解する。
麻酔薬はいずれの薬剤でも,生体への影響を除外することは不可欠であるといわれている。
本項には“実験等の目的に支障のない範囲”とあるが,多少の生体への影響はあるにしても,動物の苦痛除去のため,なるべく麻酔薬等の投与等の実施が望まれる。
なお,上述したように,ここにいう麻酔は苦痛を除去することを第一の目的としている。
しかし,その実施には薬学の知識と経験が要求される。つまり麻酔は獣医師,医師,歯科医師によって,あるいはその指導監督下において行われるべきである。
- 動物実験ガイドラインの策定について(1980年日本学術会議勧告)
CIOMSの原則を盛り込み「基準」をカバーする形で自主規制を求めた。
- 大学等における動物実験について(1987年文部省通知)
学術会議勧告を受けて文部省から大学等の研究機関に適正な動物実験の実施を図るための通知が出された。
その中で各大学等は動物実験指針を制定し,動物実験委員会を設置するように求められている。その内容はCIOMSの国際原則に合致するものである。
4の「実験操作」には以下のような記がある。
- 実験操作
実験操作により、動物に無用な苦痛を与えないよう配慮すべきこと。
このことは、科学的に適切な動物実験のためにも必要であること。
- 各研究機関で定める動物実験指針
文部省の通知を受け各大学研究機関は「動物実験指針 」を制定し、動物実験委員会を設置する。
- 動物実験に関する指針とその解説(日本実験動物学会)
文部省学術国際局長通知「大学等における動物実験について」を受けて,日本実験動物学会は指針ならびに指針の解説を作成している。その中に以下のような記載がある。
7 実験操作
実験者は,麻酔等の手段によって,動物に無用な苦痛を与えないように配慮すべきである。
このため,必要な場合には,管理者,実験動物の専門家あるいは動物実験委員会の判断を求める。
なお,苦痛の排除のための処置は,管理者または飼育技術者に依頼することができる。
【解説】
適切な保定と麻酔は動物福祉のためばかりでなく,科学的に適正な実験のためにも必要である。
一般に,適切な保定は動物に与える苦痛をいちじるしく軽減し,実験にあたっての操作を容易にし,かつ人への危害を防止するために施されるが,保定の良否は経験に強く左右されるので,経験の浅い実験者は熟練した管理者または飼育技術者の協力を求めることが望ましい。
また,麻酔方法の選択は実験者に任されるものであるが,経験の浅い実験者は,管理者,実験動物の専門家あるいは麻酔処置に熟練した者の助言を受けることが望ましい。
実験上の理由によって,やむを得ず無麻酔の動物実験を実施する場合は,管理者や実験動物の専門家等の意見を聞くことが望ましい。