Responsibilities of Investigators

ニュージーランドのCode of Recommendations and Minimum Standards for the Care and Use of Animals for Scientific Purposesより

6.研究者の責任

6.1総論


 実験動物の福祉に関する直接的、最終的責任は研究者にある。研究者は、本解説書に記されている全項目を満たすように努めなければならない。動物実験委員会によって承認された実験を行うに当たって,動物の飼育および使用全般にわたる責任は研究者にある。研究者には、動物の管理だけでなく、その実験に関与するすべての人の動物取扱いに責任がある。各人の責任範囲が能力に応じていることを保証すべきである。
 研究者は実験を始める前に、実験が本解説書ならびに関係法令に違反していないことを証明する実験計画書を動物実験委員会に提出しなければならない。さらに、研究者は、計画書に記載されている処置について,実施者がそれを行う能力のあることを動物実験委員会に保証しなければならない。

 研究者は動物実験委員会の承認(書面による)が得られる以前に実験を始めてはならない。そして研究者は動物実験委員会のいかなる要求をも厳守しなければならない。しかし入手困難な動物種に関しては、委員会からの承認が得られる以前に、それらを使用しないことを条件に,それらの動物を入手し、飼育してもよい。
 他の政府機関等(たとえば自然保護局)の特別な許可を必要とする動物種については,そのような承認が与えられる前に、入手し飼育することは認められない。(7.1と7.2を参照)。
 研究者は実験を完了するか中止したときに、そのことを動物実験委員会に通知しなければならない。

6.2実験計画の立案

 研究者は注意深く実験計画を立案する必要がある。本解説書には、研究者が動物実験委員会に実験計画書を提出するにあたり考慮すべき内容を示している。
 研究者は、実験目的に合った種を選択したことを保証しなければならない。健康証明書等により特定の疾病を持たない動物であること、遺伝的背景,栄養状態,環境条件およびその他その動物に関係する事項が明らかであることを説明すべきである。動物に関する生物学的性状の定義が必要な場合には、研究者は供給者に対し適切な証明を提供させるように努めなければならない。それと関連して、種および個々の動物は、実験において最小の苦痛ですむような基準で選ばれるべきである。この決定に際しては,行動様式や苦痛を感じることができる中枢の発達等を含む動物のもつ生物学的性状のすべてを考慮しなければならない。
 研究者は、動物の健康および福祉を評価するために,動物の飼育管理を行っている人が毎日(もし必要ならそれより頻繁に)動物を観察するよに努めなければならないで、研究者は、緊急の場合に備えて,それらの飼育者や他の責任者と連絡をとれるようにしておくべきである。

 研究者は、研究ノートに飼育管理状況、環境条件,その他実験結果に影響する可能性のある事柄の詳細を含むように努めるべきである。
 それらの記録は、動物保護規則(倫理基準) 1987が報告することを要求している統計のための動物使用数にも見合っていなければならない(3.2.3を参照)。
研究者は必要に応じて、他の経験を積んだ科学者、獣医あるいは実験動物専門家、家畜あるいは野生生物に関する専門家に意見を求めるべきです。
 研究計画の立案を完成させたなら、研究者は、次のポイントがカバーされていることを確認するために再度計画書をチェックすべきである。

  1. 実験は、倫理的,科学的に正当化されるか。
  2. 目的を、動物を使用せずに達成することができるか。
  3. 動物の使用数を減少させるような他の実験方法があるか。
  4. 最も適切な動物種が選択されたか。
  5. 動物の生物学性状(遺伝的、栄養的、微生物学的、一般的な健康状態)は適切か。
  6. 統計学上有効な結果が得られることができるだけ,あるいは教育上目的が達成できるだけ必要最小限の動物が使用できるように実験は計画されたか。
  7. 同じ実験が以前に行れている場合には、なぜそれらの実験をを繰り返さなければならないのか。
6.3 実験処置

6.3.1 苦痛とストレスの制限

 動物が苦痛やストレスを被っていることを簡単に評価することはできない。したがって、研究者は動物は人間と同じように苦痛を感じると仮定しなければならない。
 もしその仮説に対して反対の証拠がなければ、実験中の動物の福祉に関する決定はこの仮説に基づくかなければならない。
 研究者は、苦痛およびストレスを回避するか最小限にするために次のものを含むあらゆる対応を予想し取るべきである。
  1. 実験処置として適切で人道的な方法を選ぶこと
  2. 動物の飼育や使用に関わるスタッフ全員が適切な訓練を受け,能力が備わるように努めること
  3. 動物が苦痛やストレスの様相を呈していないか十分に観察
  4. 苦痛とストレスを緩和するための迅速な行動
  5. 動物種や実験の目的に合わせた適切な麻酔薬、鎮痛剤および鎮静剤の使用
  6. できるだで短い期間内での実験、また
  7. 適切な安楽死法の採用 

 局部麻酔薬あるいは全身麻酔薬の使用,そして鎮痛剤,鎮静剤の使用は、動物種に合った適切なものでなけらばならない。現在の医療あるいは獣医療で一般的に使われてるものでなければならない。
 ある種の痛みやある程度の痛みに対しては医療や獣医療では麻酔が必要となるが,そのような痛みを生じる可能性のある実験では全身麻酔下で行われなければならない。
 ストレスなどによる苦痛はしばしば薬を用いなくても押さえることができる。実験を始める前に,動物を実験環境,実験処置そして飼育スタッフに馴らしおく必要がある。実験中および実験後の苦痛やストレスを緩和し,動物の福祉が促進するための適切な措置が執られるべきである。

 苦痛やストレスの発生を防ぎ,発生した場合には緩和ための迅速な処置が執られるように常に動物を観察していなければならない。
 上述したような注意をしていても動物が激しい苦痛やストレスに見舞われている場合には,苦痛やストレスを速やかに緩和するか,あるいは速やかに安楽死させた後,獣医師に直ちに通知しなければならない。そのような苦痛やストレスはなにはさておき緩和されるべきであり,実験の継続や終了よりも優先される。動物が苦痛やストレスを被っているかどうか判然としない場合には,研究者は実験を継続する前に専門の獣医師の見解を常に求めなければならない。
 実験中に動物が予想外の死を遂げた場合には,その原因を明らかにし,他の動物に対して治療が行えるように獣医師あるいは適切な資格を持つ人により遅滞なく調査されなければならない。もし死の原因が実験処置によるものであれば、それらの処置を中止しなければならない。そのことを動物実験委員会に通知し,実験計画書を適切に修正して再提出されなければならない。

6.3.2 苦痛またはストレスの兆候

 研究者は選択した動物種の正常な行動,あるいはその動物種に特有な苦痛やストレスの兆候に精通していなければならない(付録IIIを参照)。
 動物が正常な行動とは違う行動パターンを示していることを知るために観察すべきである。そのような正常では見られない行動パターンは,多くの場合動物が苦痛あるいはストレスを被っているという最初の兆候である。睡眠パターンの変化、摂餌、摂水、毛づくろい,探索行動、学習能力,独特な行動,繁殖行動,社会的行動が観察されるべきである。

 動物が急性の苦痛やストレスの臨床兆候示しているときには,下記に示す1つ以上の兆候が含まれる

  1. 攻撃的行動や異常な行動(ある種は過度に柔順になることまある)
  2. 異常なスタンスあるいは動き
  3. 異常音
  4. 循環機能や呼吸機能の変化
  5. 異常な食欲
  6. 体重の急速な減少、体温の変化
  7. 嘔吐,異常な排便や排尿
 慢性の苦痛やストレスの指標には次のものが含まれるかもしれない。
  1. 体重の減少。
  2. 成長阻害。
  3. 繁殖障害。
  4. 疾病に対する抵抗力の減退。
6.3.3動物の再使用

 動物実験委員会の承認なしでは、同一の実験あるいは別の実験であっても1つ以上の実験に同じ動物を使用すべきではない。しかしながら,動物を適切に再使用することは、実験全体で使用される動物の総数を減少させることにつながる。その結果、よりよい実験計画法に帰着し、他の動物が被ることになる苦痛やストレスを減らすことにもなる。動物の再使用を含む実験を承認するに当たっては、動物実験委員会は次の実験が行なわれる前に動物が最初の実験から完全に回復していることを確認すべきである。

6.3.4 実験期間

 実験、特に苦痛やストレスが関わる実験はできるだけ短期間に行われるべきである。動物が長期間にわたり継続的に使用することを求められた場合には,動物実験委員会は、その継続を認めるに当たって動物の福祉に基づいて行わなければならない。

6.3.5 動物の取り扱いと拘束

 動物は訓練を受けた人によって取り扱われ,ストレスを避け,怪我を負わせないような方法で行われるべきである。拘束器具の使用は、動物の福祉および取扱い者の安全性にとってしばしば不可欠である。実験の目的を遂行するための拘束器具は動物に適したものを使用し,その使用は最小限にとどめ、拘束期間もできるだけ短時間とすべきである。鎮静剤や麻酔薬を使用することにより拘束を容易にするが,処置からの回復を遅くするため,これらの薬剤を使用するに当たっては回復まで十分な観察をすべきである。
 長期にわたる拘束は避るべきである。動物を長期間にわたり拘束しなければならない場合には、動物にとって生物学的に必要な行動(給餌水,排泄など)を可能とさせ,適度な運動を必要とする動物にはそれを与えるべきである。そして動物は獣医師や適切な資格を有する者によって定期的に観察されるべきである。もし動物に拘束による障害が見られる場合には,動物を拘束器具から解放するか,あるいは拘束方法を改善しなければならない。

6.3.6 実験の終了

 実験を終了した動物は、すぐに自然の飼育状態にもどすか、あるいは可能なら自然の生息地へ返すべきである。それができない場合には動物を安楽死させるべきである。
できれば研究者は安楽死された動物から得られた組織を他の研究者と共有するべきである。

6.3.7 安楽死

 動物を処分する場合には、人道的な方法を用いなければならない。これらの方法は苦痛を避け、死が生じるまで、苦痛のない意識の迅速な損失を招くようにしなければならない。その方法は、さらに実験の目的に支障をきたさないものでなければならない。
 その方法は、それを実施するに当たって獣医師あるいは他の資格者に認められた人によってのみなされるべきである。適切な方法は機械ではなく手を用いて行われなければならない。 動物は、静かな清潔な環境で、他の動物から離れた所で処分されるべきである。死が確認されるまで、死体を処分してはならない。
 処分された動物から生まれた新生児も処分されるか,あるいはそれらの新生児を世話する方法が用意されなければならない。
受精卵を使用する場合には、胎児のうちに処分するように努めなければならない。
 研究および教えること(ANZCCART)の動物の注意のためのオーストラリア人およびニュージーランド会議は、実験動物の安楽死のためのガイドおよび学術論文を公表します。

6.3.8 剖検

 予想外に動物が死んだ場合には、剖検が行われるべきである。研究者は、そのような動物に対して剖検が重要であることを認識すべきである。死んだ動物を解剖することにより実験処置以外の影響を理解でき,残りの研究を進める上で役に立つ。

6.3.9 術前の計画

 外科手術を成功させるには以下の事項を注意深く守ることである。
  1. 信頼できる研究データを得るためには健康な、疾病のない動物を使用することである。研究者は、そのような動物を得るために研究機関の獣医師あるいは他の資格者に相談すべきである。
  2. 潜在的な問題を抱えている動物は麻酔薬の使用によるリスクが増大し,しばしば外科的処置を困難にするが,術前の身体検査により、そのような潜在している問題を見つけだすことができる。病気の動物をそのような実験に使用すべきではない。
  3. 動物種によっては、麻酔薬投与による合併症を抑えるために術前の絶食が考慮されるべきである。
  4. 術前に抗生物質を投与すると外科的処置の間に薬の血中濃度を高く維持できる。術後に抗生物質を追加投与してもよい。
  5. 死体を用いて手術の練習をすることにより,手術時間を短縮することができる。研究者は死体を解剖することにより臓器の分布を詳しく知ることができ,それによって実験の外科的処置の手際が良くなり、そのために、必要以上の麻酔薬を使わなくてすむ。これは、術後の回復時間を短縮し、動物の福祉を促進することにつながる。
  6. 鎮痛剤を術前に投与することも考慮されるべきである。
6.3.10 外科手術

 外科的処置は適切な局所麻酔や全身麻酔下で行なわれるべきである。麻酔の深さ、低体温あるいは循環器系,呼吸器系の抑制を監視すべきである。
 麻酔と手術は、適切なトレーニングを受け,経験を備えた有能なスタッフによって行なわれるべきである。手術や麻酔技術はそのような人の直接の指導と監督のもとになされるべきである。
 麻酔薬、鎮痛剤および鎮静剤の選択と投与量は、動物種にてきしたものであり、実験の目的にあったものが使われるべきである。
 新しい麻酔薬を使用する際や新たな鎮痛剤を併用する際には,研究者はあらかじめそれを使用してみて,その使用に習熟しておくべきである。清書に記されているデータから投与量を推定したとしても、動物種や系統の違いにより薬剤の代謝も異なるので,予期しない病的な状態や死を招くかもしれない。麻酔の練習と非存続外科手術の練習を兼ねると,貴重な情報を得ることができ,手術の成功率を高め,動物の福祉を促進することもできる。

 1つ以上の外科処置が加えられる場合には、1つの処置からもう1つの処置が行われる間に動物は十分回復していなければならない。実験処置の総数を減らすためにあらゆる努力が払われるべきであり,特に同一の動物に1つ以上の外科処置を行う場合には,動物実験委員会にその必要性を説明すべきである。
 外科手術後に動物を回復させる必要がない場合には、全身麻酔薬の持続的投与や、あるいは脳死を引き起こすことにより手術中に意識を回復しないようにしなけらばならない。 動物が麻酔から回復する手術の場合には、外科的処置は、実験動物の治療や獣医療で実際に使われている容認された標準的方法にを使うべきである。大手術を行う場合には無菌技術を動物に用いなければならない。大手術とは、腹腔を貫通する手術主な存続手術を受ける動物のために使用されるべきです。これは体腔に浸透するか、回復後に障害が残る可能性のある手術と定義することができる。無菌手術とは術野の消毒,滅菌機材の使用,滅菌した手袋,着衣防止。マスクの着用として定義される。要求された時、鎮痛剤と鎮静剤は使用されるに違いありません。また、それらの使用は、現在の医療や獣医療で行われているものでなくてはならない。術後の抗生物質の使用が正確な無菌の技術の代わりであってはならない。

6.3.11 術後管理

 術後の最も考慮しなければならないことは苦痛の軽減である。
 術後は動物を快適な状態に保つように心がける。そのためには、暖く、衛生的な所に収容し、水分および食物摂取、および感染症の予防に注意する。
 鎮痛剤や鎮静剤の使用は術後の苦痛やストレスを最小限にするために必要となる場合もある。麻酔から回復する動物が怪我をしないような場所に収容し,同一のケージに飼われている他の動物から妨害されたり、攻撃されたり、殺されたりしないように注意しなければならない。

 適切な診断記録を適切に作成し、動物の術後管理に関わる人が誰でも見られるようにしておくべきである。
 研究者は、術後の動物の治療や世話をするために適切に観察するよう努めなければならない。動物の状態に異常が見られる場合には,研究者や経験を積んだ人にその動物の状態を伝えるべきである。関係者の役割を明らかにし,緊急時の対処方法を決めておくべきである。
 治癒の状況を確認するために創傷部位を定期的に観察することはかかせない。 術後動物が軽減することができない激しい苦痛やストレスに見舞われている場合には,速やかに安楽死させた後,獣医師に直ちに通知しなければならない。

6.3.12 体内に移植された装置

 体内に体の一部でないものを移植する場合には、研究者は、無菌操作を徹底するように心掛けなければならない。抗生物質による治療が失敗した場合には,しばしば人工補填装置を取り出さなければならないことになる。
 モニタリングまたはサンプリングの装置を装填する手術のあとでは瘻管を形成するなど熟練した特別の注意が必要である。ストレスや苦痛そしてすぐに治療を必要とする感染症を見逃さないように定期的に観察しなければならない。

6.3.13 筋弛緩剤による麻痺

 神経筋肉遮断薬は、適切な全身麻酔が施されるか,痛みを感じる感覚器を取り除くなどの適切な手術が施されなければ使用してはならない。神経筋肉遮断薬だけでの動物の不動かは認められない。これらの薬剤が麻酔薬と併用して使用される場合には、麻酔の深度が適切に保たれているように注意しなければならない。呼吸および角膜と牽引反射といった麻酔の一般的な指標が使用できないので、心拍数、血圧、瞳孔の大きさおよび脳波のような生理学的数値を連続的あるいは間欠的に観察することが必要である。また、軽く抓ったりして穏やかな知覚の刺激を与え,これらに対する反応を同時に観察することも必要である。実験に使用される薬がこのモニタリングに邪魔をしないように注意することが求められる。

6.3.14 電気的不動化

 電気的不動化は鎮痛剤や麻酔薬の代わりとして使用されてはならない。動物の拘束のためにその使用が提案されている場合、それが苦痛を引き起こすかどうかについて動物実験委員会は文献によりを注意深く評価しなければならない。もし苦痛を引き起こすようならば、代わりの拘束方法を用いなければならない。

6.3.15 疾患モデル動物

 ヒト疾患モデル動物の科学的価値は、その動物の病気がどの程度人の病気に似ているかによる。疾病にともなう苦痛やストレスは、人と同様に動物にも生じるかもしれない。適切な種を選択するように注意する必要があり,また研究者には、疾患にともなう苦痛やストレスを最小限にとどめる責任がある。そして動物が疾病による苦痛を内在していることを動物実験委員会に知らせておかなければならない。
 もし他のエンドポイントがあるなら,そしてその実験がヒトや動物の生命を脅かす病気や状態の予防,緩和,治療に関するものでないならば,研究者は激しい苦痛やストレスあるいは死ぬまで長い苦しみを生じるような実験を行うことは許されない。エンドポイントとして動物の死が避けられない場合には、できるだけ少数の動物で実験を行うように努める。

6.3.16 動物の行動変化をみる実験

 動物に行動異常や特定の仕事をさせるために用いられる方法は、動物のモチベーションに依存する。その行動を起こさせるためには動物が好んでする方法を選択することが望ましいが、中には生物学的なストレスを誘発するものもある。このストレスはできるだけ穏やかなものであるべきである。限度を超えた摂餌水の停止や、社会からの遮断あるいは感覚の遮断が用いられてはならない。痛みや有害刺激は、人が我慢できる程度まで抑え、必要な最小の時間で使用するよに制限しなければならに。行動は種によって通常経験されるそれる以外のストレスーによって誘発されることもある。行動の変化を調べるために有害刺激を用いる場合には, 動物実験委員会に対し刺激を与える時間と刺激からの逃避の可能性について伝えるべきである。

6.3.17 毒性試験

 人や動物に用いる薬物、あるいは家庭や環境での使用する薬物,さらに自然状態に存在する毒素などの安全性試験は、適切な訓練を受けた者によってなされるべきである。もし動物を用いない適切な試験が利用可能ならば、それらを使用する。とりわけスクリーニングテストでは,できるだけin vitroの方法を用いるべきである。
 そのような実験では、毒性を評価する成績に影響しないならば,できるだけ早い時期をエンドポイントにして,苦痛やストレスの程度を最小限に抑えるべきである。
毒性試験のエンドポイントは疾患モデル動物の必要条件と同じように決められるべきである(6.3.15を参照)。

6.3.18 人間や他の動物への危険を含む実験

 危険は、次のものから発生する可能性がある。
 これらの物を実験に使用する場合には,すべてのスタッフに可能な限り、これらの物がどのような危険をはらんでいるのかを説明しなければならない。実験前、実験中,実験の後に、スタッフの検査が必要になる場合もある。
 研究者は、機関のバイオハザード委員会が存在するならその助言が求めたこと、および封じ込め、処理および汚染除去のための適切な手段が確立されていることを動物実験委員会に知らせるべきである。
 研究機関の動物実験委員会に提出する実験計画書には、使用予定の危険な化合物あるいは病原体を記述すべきである。さらに実験計画書には、それらの安全な取り扱い方法あるいはケージ,他の動物、研究者および学生が汚染しないように,その処理方法も記述すべきである。

 病原体を接種された動物は適切に隔離し,他の動物や人に危険があることを掲示すべきである。
 危険物質が関わる実験のエンドポイントは疾患モデル動物の必要条件と同じように決められるべきである(6.3.15を参照)。
 危険物質に対する予防対策あるいは危機管理は“最悪の場合”を想定して適切になされなければならない。

6.3.19 動物における遺伝子組換え実験

 哺乳類の細胞や動物そのものに外来生の遺伝子DNAを導入する実験はすべて、 Advisory Committee on Novel Genetic Techniquesより出されている実験指針に準じて行われなければならない。 動物や胚細胞,胎児を用いて遺伝物質を操作する実験はすべて,実験計画書を動物実験委員会に提出し承認を受けなければならない。動物での遺伝子組換え実験は、動物自体あるいはその子孫に悪影響を及ぼし,動物の福祉を損なう可能性を持っている。研究者は、動物の福祉に悪影響を及ぼす可能性のあることを動物実験委員会に知らせなければならない。
 遺伝子改変動物では,予期しない病状がでることもあるため臨床症状を注意深く監視すべきである。遺伝子改変動物に対して正常な繁殖を行ったにも関わらず,病的状態が出現した系統の例があり,そのような動物にも動物福祉を適用するために,特別な管理が行なわれるべきである。

6.3.20 発癌実験

 腫瘍の発生部位を注意深く選択する必要がある。できれば皮下、皮内および脇腹の部位が適している。フッドパッド、脳および目の部位を使用する場合には、事前に動物実験委員会の特別な許可を必要とする。
 研究者は、苦痛やストレスの兆候,特に体重の突然の変化を見逃さないために,動物を定期的に観察すべきである。
 担癌動物はできれば死が確定される前,悪疫質が進行する前,腫瘍が潰瘍になる前,あるいは正常な行動に支障をきたす程に大きくなる前に,安楽死されるべきである。ハイブリドーマを含む腹水癌を持つ動物の場合には、研究者は、腹部の膨張が腹水によって見た目にもはっきりするまで放置しないよう,そして固体の腫瘍や悪液質となって動物を苦しめることのないように努めなければならない。
 腫瘍の治療実験では、治療効果を正しく判断する上で支障がないなら,きるだけ早期のエンドポイントを選択すべきである。体重の変化は確実に観察されるべきである。もし他のエンドポイントがあるなら,そしてその研究がヒトや動物の生命を脅かす病気や状態の予防,緩和,治療に関するものでないならば,腫瘍による死を動物のエンドポイントとしてを選ぶべきではない。

6.3.21 中枢神経系の傷害

 健康な人あるいは病的状態の人の中枢神経系の構造および機能を研究するために解剖学的,化学的に動物の中枢神経系を傷害する手法は広く行われてきた。その傷害が手足または体幹の動きを損なったり、触感、温度あるいは苦痛への感度の消失、周囲の環境に対する意識の消失,食欲や怪我のメカニズムの消失を生じる場合には、これらの実験は特別な注意を払う必要がある。その特別な注意とは、動物に対し特別な飼育や特別なケージさらには他の特別な設備を必要とするかもしれない。また、動物実験委員会は、そのような実験を承認する際には、これらの設備が利用可能で、動物の状態が確実に観察されることを保証するために特別の責任を持っている。

6.3.22 絶食,絶水

 過度の絶食,絶水を含む実験によって、動物が持続的に不利益な影響を受けるようなことがあってはならない。このような実験では、動物実験委員会によって承認された範囲内を維持するように体液バランスや体重を観察し,その変化を記録しなければならない。

6.3.23 胎児の実験

 胎児の実験あるいは外科的手術により新生児が生存に支障をきたす場合、あるいは苦痛やストレスを被るような場合、そのような苦痛やストレスを緩和できなければ生まれ前または生まれてすぐに安楽死させなければならない。
 特別な反証がなければ,研究者は成獣が麻酔や鎮痛剤を必要とすると同様に,胎児もそれらを必要とすると考えるべきである。
 母獣の外科手術中には、胎児に対しても麻酔が作用していることに注意を払わなければならない。もし孵化が実験に必要でないならば、卵は孵化の前に破壊されなければならない。

6.3.24 苦痛のメカニズムとその軽減に関する研究

 苦痛を生じさせることを目的として無麻酔の動物に刺激を与える実験、あるいは、正常な操作の一部として動物に刺激を与える実験では、研究者が以下のことに努めるべきである。

  1. これらの刺激により生じる苦痛は常に人間が耐えられるものとする。
  2. 動物が被る苦痛は実験目的を達成するために必要な最小のものとする。
  3. 可能ならば,苦痛を軽減する処置を与えたり,あるいは鎮痛剤の自分で投与できるようにするか、繰り返される痛み刺激から逃避できるようにする。
訳 松田幸久

倫理的動物実験