(3)ウイルスの分類

 ウイルスはさまざまな生物に感染する
動物では哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫
植物のウイルスもある
かびや細菌のウイルスもある

国際ウイルス分類委員会の分類では、全部で3万種くらいのウイルスが見出されている

そのうち、哺乳類と鳥類に感染するウイルスは約650種

しかも、1つの種はさらにいくつものタイプに分けられる

たとえば、人で風邪を起こすウイルスにライノウイルスというのがある

これは1種だが、その中に110ものタイプがある

20年ほど前、米国の国立衛生研究所で人に感染するウイルスを整理してみた結果、平均的アメリカ人は一生の間に200回くらいウイルスに感染していると報告がある

これらのウイルスの多くは風邪などの軽い症状、もしくはほとんど症状を引き 起こさない

そのため、私たちは感染したことも気づかないで済んでいる

 これらの数多くのウイルスのごく限られたものが重い病気を引き起こしてい る

(4)ウイルス感染症の歴史

ウイルス感染症は有史以来、人類を悩ませてきた。その最大のものは天然痘と狂犬病

 天然痘は、紀元前9000年頃、古代エジプトとメソポタミアの大河流域で人 々が農業を始めるようになって、人口が増え始めたために、人々の間で広が るようになったのではないかと推測されている

紀元前1500年には、サンスクリットの医学書に天然痘と思われる病気の流行が書かれている

紀元前1157年に死亡したエジプトの王、ラムセス5世のミイラがカイロ博物館に展示されているが、天然痘に特徴的な発疹の後がはっきり残っている

 狂犬病については、紀元前1885年、メソポタミア文明を築いたシュメール 人の法律に、狂犬病に関するものと思われる文章が残っている

紀元前500年にはギリシアのアリストテレスやヒポクラテスが狂犬病のことを述べて いる

 しかし、ウイルスが初めて分離されたのはわずか100年ほど前の19世紀 の終わり

それはウシの口蹄疫ウイルスとタバコのタバコモザイクウイルスです。る

ヨーロッパではウシの間で急速に広がる口蹄疫が畜産上の大きな問題であった

その原因解明をドイツ政府から命令されたフリードリッヒ・レフラーの研究チームが、発病したウシの口や乳房にできた水疱を直接、子牛に接種した結果、1898年、病気を再現するのに成功した

しかも、その水疱を細菌が通過できないフィルターで濾過しても、子牛に病気を起こせることが確認され、その結果、濾過性の病原体、すなわちウイルスという存在が明らかになった

一方同じ年、オランダではタバコの葉に斑点ができるタバコモザイク病で、タバコモザイクウイルスが分離された

 ウイルスの存在は、ウイルス粒子という実体ではなく、病気を起こす要素 として見つかってきた

 約50年前は、実験動物にサンプルを接種して病気が起こるかどうかを調べてウイルスの存在を推測して いた

その後,試験管内で培養した細胞を破壊するかどうかでウイルスの存在を調べるようになる

どちらの方法もウイルスそのものを見ているのではなく、ウイルスの感染性と病気を起こす能力、つまり 生物学的性質から、ウイルスを間接的に検出している

 最近では、ウイルスの遺伝子を検出することで、ウイルスの存在を知ることも可能になった

物質としてのウイルスも取り扱えることができるようになってきた

(5)構造と性状によるウイルスの分類

(2)SARSウイルス  今夜は、現在国際的に大きな問題になっているSARSウイルスについて、 お話したいと思います。  世界保健機関 WHOが全世界に新型肺炎の発生を知らせたのは3月12 日でした。そして、15日には初めてSARSの名前を用い、感染地域への渡 航中止の勧告を出しました。  WHOは直ちに世界10カ国13の研究所の協力を得て、原因解明のため の国際研究グループを結成しました。4月上旬には、国際的学術雑誌に新 型コロナウイルスが患者から分離されたという論文が、ホンコン大学、米国 CDC、ドイツの研究所と3箇所からそれぞれ発表されました。そして数日後 には全部の遺伝子の配列が明らかにされました。  さらに、オランダの研究所ではカニクイザルに新型コロナウイルスを接種 する実験を行いました。サルは3日目には動きがにぶくなり、4日目には呼 吸困難となり、解剖した結果、肺炎の起きていることが確かめられました。 これらの結果からWHOは新型コロナウイルスがSARSの最大の原因である と結論したのです。  感染症の病原体を確定する条件として、コッホの原則というのがあります。 これは100年あまり前にドイツのロベルト・コッホが結核患者から細菌を分 離して、これが結核の原因であると決めた際に提唱されたものです。それを SARSにあてはめてみますと、まず患者から、そのウイルスが分離されるこ と、そのウイルスは人に近縁のサルで同じ病気を起こせること、そして病気 になったサルからは、同じウイルスが分離されることが条件になります。新 型コロナウイルスでは、これがすべて満たされたのです。そして、このウイ ルスはSARSウイルスと命名されました。  コッホの原則は、細菌について提唱されたもので、ウイルスでは満たせな い場合が多くあります。SARSのように、すべてが満たされる場合はきわめ て稀です。そのようなウイルスがSARSの原因であったことは幸運ともいえ ます。しかも、この結論が得られたのは、研究を始めて1カ月くらいでした。 本来は競争相手になる研究者たちが国際的に協力したことが、この画期 的成果につながったものといえます。  さて、ここでコロナウイルスとは、どのようなものかお話したいと思います。  このウイルスはボールのような球形で、その周囲を太陽のコロナのような 構造が取り囲んでいます。そこで、コロナウイルスと命名されました。正確 には、コロナウイルス科のコロナウイルス属の1群のウイルスの名称です。  コロナウイルスは核酸としてRNAを持っています。数多くのRNAウイルスの 中でコロナウイルスはもっとも大きなRNAを持っています。しかも同じRNAウ イルスであるインフルエンザウイルスと同様に変異を起こしやすい性質を 持っています。  最初に分離されたのは、ニワトリに気管支炎を起こすコロナウイルスで1 937年のことです。その後、ヒトに風邪を起こすコロナウイルスが2種、ウシ、 ブタ、イヌ、ネコ、マウス、ラットなどのコロナウイルスも分離されました。これ らのコロナウイルスは現在、3つのグループに分類されています。しかし、 SARSウイルスはどのグループのウイルスとも、その遺伝子構造がかけは なれています。したがって、これまでに知られているコロナウイルスが変異 したものではなく、まったく新しいコロナウイルスとみなせます。ヒトにその ようなウイルスがいたとは考えられませんので、なんらかの動物のコロナ ウイルスと推測されます。最近、ホンコン大学のチームは中国南部の動物 マーケットで売られている動物を調べた結果、ハクビシン、アナグマ、および タヌキからSARSウイルスを検出したと報告しています。これらが感染源とい う可能性が出てきたわけです。しかし、SARS患者の便にはウイルスが含ま れているので、それが畑の肥料に入り込み、これらの動物へ感染を起こし ている可能性もあります。すなわち、現段階では人からの感染の可能性も 否定できません。ともかく、SARSウイルスを保有している自然宿主を見つけ ることは、これからのSARS対策の上で、非常に重要です。  ところで、SARSウイルスの感染は、患者の咳やくしゃみからの飛沫に含ま れるウイルスを吸い込む場合がもっとも多いと考えられています。これは、 呼吸器感染です。一方、SARSでは下痢も多く起こり、便の中にはウイルス が排出されています。ウイルスを含んだ痰や唾、そして便などが付着した場 所を手で触れた結果、その汚れた手から目、鼻、口などの粘膜に感染を起 こしている可能性も推測されています。これは、接触感染です。  呼吸器感染に対してはマスクで飛沫を吸い込まないようにすること、接触 感染に対しては手をよく洗うことで、感染のチャンスをかなり減少させること ができます。  もっとも効果的な対策はワクチンです。現在、ニワトリ、ウシ、ブタ、イヌなど のコロナウイルスについてはワクチンがありますが、これらはSARSウイルス には効果がありません。しかし、これらのワクチンを参考にしてSARSワクチ ンを開発することは充分に可能です。さらに、もっと新しい技術でワクチンを 開発することも可能と思われます。  一方、SARSウイルスはサルで肺炎を起こすことが分かっていますので、開 発したワクチンの有効性や安全性はサルを用いて、確認することができます。 したがって、将来はワクチンでの予防が可能と考えられます。しかし、候補の ワクチンができるまでには1?2年、そしてヒトに接種できるようになるには、さ らに長期間かかるかもしれません。  発病した人に対する治療薬については、まだ展望はありません。米国では すでに開発されていて、まだ承認されていない薬が4万種類ほどあり、それら について、まず培養した細胞でのSARSウイルスの増殖を抑えるものを見つ ける研究を始めています。もしも、そのような薬があれば動物実験で実際の 効果を調べることになります。しかし、これは運にまかせるしかありません。 一方、新しい薬を開発するとなると、通常では10年くらいかかります。   (3)感染症との戦い  今夜は感染症と人類の戦いについてお話したいと思います。  有史以来、人類はいくつものウイルス感染症に悩まされてきました。その 最大のものは天然痘です。1796年、ジェンナーによる種痘の開発は人間 とウイルス感染症の戦いの始まりになりました。当時はもちろんウイルスの 存在は知られていませんでした。しかし、牛痘にかかったヒトの病変部の膿 を接種することにより天然痘の予防が可能になったのです。この時、ジェン ナーは種痘をどんどん広めていけば、やがて世界から天然痘が根絶できる だろうと予言していました。  ジェンナーの天然痘根絶のアイディアが取り上げられたのは150年後、 第2次世界大戦終了後の1959年でした。そして本格的な根絶計画が始め られたのは1966年でした。それから10年あまり後、1977年にソマリアで 出た天然痘患者を最後として、患者の発生はなくなり、1980年、WHOは天 然痘の根絶を宣言しました。長年にわたって人類を悩ませてきた最大の感 染症に対する人類の勝利でした。  WHOは天然痘に引き続いて麻疹やポリオの根絶計画も発足させました。  一方、すでに細菌感染症の多くは抗生物質で治療できるようになっていま した。そこで、人類は感染症を克服できるという期待が生まれてきました。感 染症の時代は終わり、これからはガンや生活習慣病の時代になったと考え るようになりました。感染症を研究する人の数も減少していきました。  しかし、まもなく、感染症の克服は幻想に過ぎなかったことが明らかになり ました。1980年代初めにはすでにエイズが広がり始めていました。また、 1960年代終わりに突如出現したマールブルグウイルスを初め、ラッサウイ ルス、エボラウイルスなどの出血熱ウイルスが1970年代にかけて姿を現し てきていました。  1993年、WHOと全米科学者協会は、これらの新たに出現して社会的に 大きな影響を与えている感染症をエマージング感染症として、地球規模で の監視の必要性を提唱したのです。エマージング感染症の病原体のうち、 ウイルスはとくに危険性が高く、一般にエマージングウイルスと総称されて います。  ところで、これまでに見いだされたエマージングウイルスのほとんどは動 物とくに野生動物が保有するものです。ウイルスは第一回目にお話したよう に、動物に寄生して存続しています。その宿主である動物を死亡させてしま うと、自らも死滅してしまいます。したがって、宿主の動物となるべく平和共 存することがウイルスの存続に必要です。エマージングウイルスの多くは、 この種のものです。キラーウイルスと呼ばれることがよくありますが、本来の 宿主ではキラーではなく、平和共存しているウイルスです。それがたまたま、 ヒトに感染するとキラーに変身しているのです。  このように、ウイルスが本来の宿主から別の動物に感染すると、致死的感 染を起こすことは珍しくありません。その典型的な例をご紹介します。  ほとんどのヒトは成人になるまでに、単純ヘルペスウイルスに感染します。 このウイルスは神経細胞の中に潜んでいて、普通はまったく健康に影響を 与えません。しかし、風邪を引いたりストレスを受けたりすると、神経細胞か ら口の粘膜にウイルスが移動してきて、唇などに潰瘍を作ります。いわゆる ヘルペス潰瘍です。これが治ればウイルスはまた、神経細胞に隠れてしまい ます。ところで、これとまったく、同じタイプのウイルスがサルに感染していま す。これはヘルペスBウイルスと呼ばれるもので、サルでは病気はほとんど 起こしません。しかし、時折、サルの唇にヘルペス潰瘍を作ります。このよう な時に、ヒトがそのサルの唾液に触れたりすると、感染することがあります。 その場合には70%という高い致死率になります。  ところで、エマージングウイルスが認識された当初は、それらのほとんどは 野生動物から直接、人間に感染していました。たとえば、ラッサ熱はウイルス を保有するネズミの尿に含まれるウイルスがほこりなどに付着して、それを 吸い込むことで起きていました。ところが、1998年にマレーシアで発生した ニパウイルス病では、自然宿主のコウモリからまずブタが感染し、ブタの体 内で増えたウイルスがヒトに感染するという新たな伝播の様式を示しました。 家畜がエマージングウイルス伝播の中継場所になるという新たな問題提起 になったわけです。  しかし、これまでに起きてきたエマージング感染症では、動物から感染した ヒトが、別のヒトに感染をうつすことはほとんどありませんでした。例外ともい えるのはエボラ出血熱ですが、この場合には病院の中で同じ注射器の使い 回しを行ったり、患者の血液に直接触れるといった、濃厚な接触でもって感 染が広がっていました。  ところが、SARSでは患者の咳やくしゃみによる飛沫を吸い込む呼吸器感 染が最大の感染様式になっています。この場合、1メートルくらい離れたとこ ろでも感染の起こる可能性があります。こうして、ヒトの間で容易に感染が広 がるのがSARSの特徴です。現代のグローバル化した社会では、感染したヒ トが発病する前の潜伏期中に飛行機でほかの国に移動することも起こります。 その結果、世界の各地にSARS が広がってしまったのです。SARSが全世界 に大きな影響を与えている理由には、ヒトの間で容易にうつるウイルス感染 症であることと、グローバリゼーションの現代社会という、2つの要因がかか わっています。  20世紀はウイルス根絶を目指した時代でした。しかし、それが幻想である ことが明らかになった現在、ウイルスとの共生が求められていることを認識 しなければならなりません。これからもSARSのようなウイルスが出現する可 能性を念頭に置いて準備態勢を整えておくことが必要です。明日は、この点 についてお話したいと思います。  4.未知の感染症への対策  SARSウイルスは、おそらくなんらかの動物に昔から存在していたものが、 たまたま人間に感染したものと考えられます。このようなウイルスが自然界 にどれくらい存在しているのか、まったく分かりません。  実際、これまでに新たに出現してきて問題になっているウイルスのほとん どは、野生動物のウイルスです。しかし、野生動物に存在するウイルスにつ いては、私たちはほとんど知っていません。  たとえば、1996年にオーストラリアでヘンドラウイルスという新しいウイル スによる人の致死的感染が起こりました。そして、その3年後にはマレーシ アでニパウイルスという、これも新しいウイルスによる人の致死的感染が起 こりました。この2つのウイルスは同じグループのものであって、いずれもコ ウモリのウイルスということが分かりました。そこで、コウモリについてウイル スの調査を始めたところ、あらたに3つのウイルスが見つかったのです。そ のうちの1つは、狂犬病ウイルスとほぼ同じものでした。実際に、オーストラ リアでは、このウイルスに感染して死亡した人も出ました。コウモリだけで、 5つのウイルスが見つかり、そのうち、3つは人に致死的感染を起こすもの だったのです。  地球上の野生動物の種類を考えると、私たちが知っているウイルスはほ んのひとにぎりということになります。  現代社会は発展していき、野生動物の世界と人間の世界の間の距離は 短くなってきています。未知のウイルスが人間社会に出現することは、これ からも続くものと考えなければなりません。その中にはSARSウイルスのよう に、人の間で広がっていくものもあるはずです。  未知のウイルスに対して、人間は免疫を持っていません。ワクチンもあり ません。そのようなウイルスに対して我々が頼れるのは、公衆衛生対策です。  公衆衛生は社会の健康を守るためのものです。そして、それを通じて個人 の健康も守ることになります。20世紀の後半、感染症にさらされる機会が減 少し、感染症は過去のものと考えられるようになるとともに、公衆衛生という 言葉は忘れられてきました。  SARSは、この公衆衛生対策がどのようなものか、そしてそれがどのように して社会を守るのか、目の当たりに示してくれています。  ここで、感染症に対する公衆衛生対策について考えてみたいと思います。 公衆衛生対策の基本は2つあります。まず、感染・発病したからほかの人に 感染が移らないようにするための対策で、これは患者の隔離です。もう一つ は、発病はしていないが、患者と接触したために感染した可能性のある人を 対象とするものです。本来、これは検疫と呼ばれるものですが、日本では、 空港などで行われているものだけと一般に受け止められています。検疫とい う言葉は英語ではquarantineで、イタリア語で40という意味の言葉です。 14世紀にイタリアでペストの蔓延を防ぐために、感染した可能性のある人 たちを40日間、隔離したことから、付けられた呼び名です。すなわち、自宅 での健康監視なども、本来は検疫の概念に相当します。  SARSで行われている対策も、この2つの原則にもとづいています。これは 100年前のものと基本的には同じものです。しかし、100年前と現在では、 その内容に違いがあります。  患者の隔離の面では、科学の著しい進歩により、SARSの場合、ウイルス 遺伝子の検出や抗体の検出という確定診断が可能になりました。隔離病室 の設備も高度の安全対策がほどこされたものになっています。すなわち、 隔離までのステップに関しては、昔とは比較にならない高度のものになって います。  一方、感染した可能性のある人、すなわち接触者に対する対策は昔より も複雑かつ困難です。多数の人々の移動がはげしい現代社会では、接触 者の追跡はきわめて難しい課題になりました。今回、台湾から来た医師の 場合、数日の滞在期間の間に接触した可能性のある人が2600人も見出 されました。個人の人権やプライバシーに配慮しながら、多数の接触者の 追跡がいかに困難かということが分かると思います。  ここで、20世紀最大の感染症となったエイズと21世紀初めに出現した SARSを比較してみたいと思います。エイズの原因であるヒト免疫不全ウイ ルスはちょうど20年前の5月に明らかにされました。しかし、それまでには 2年間かかっています。SARSでは1月もかかっていません。この大きな違い をもたらした要因には、WHOの調整のもとに緊密な国際的研究協力が行わ れ、その研究成果に関する情報はインターネットにより即時に全世界に発 表され、国際的な情報の共有が行われたことです。また、ヒトゲノム計画な どで遺伝子解析技術が進歩していたことも貢献しています。エイズの場合、 遺伝子解析技術は生まれたばかりでした。インターネットはまだ生まれてい ません。  公衆衛生対策の面では、エイズに関する情報は発生当初、同性愛者の 病気といった偏見から、むしろ隠されてしまいました。そして、その間に全 世界に広がってしまいました。一方、SARSでは情報開示が積極的に行わ れておりこれが制圧に貢献しています。  有史以来、感染症に悩まされてきた人類は、公衆衛生対策のおかげで、 多くの感染症の心配から開放されました。その結果、現代社会は感染症 についての関心を失い、感染症制圧の原動力になってきた公衆衛生につ いても、関心が低下してきました。SARSはこの忘れられた公衆衛生の重 要性を再認識させてくれたといえます。ウイルスには国境がありません。 SARSのような新しいウイルスに対する公衆衛生対策はその国の人々の 健康を守るだけでなく、世界の人々の健康に対する責任でもあります。 未知の感染症に対して我々が頼れるのは、地球規模での公衆衛生対策 なのです。