研究機関における動物実験委員会の役割

(日本実験動物医学会教育セミナー)

米 国 の 状 況

松田幸久(秋田大)

 米国における動物実験は農務省(USDA)が監督する動物福祉法(AWA)によって規制されており、さらに国立衛生研究所(NIH)から資金援助を受けている研究機関ではNIHが監督する健康拡大法(HREA)によって規制されている.これら2つの法律はともに動物実験を行うすべての研究機関に対して動物実験委員会(IACUC)の設置を要求している.「実験動物を倫理的に取り扱うことは優れた研究を行う上での基本であり、すべての実験は倫理的な配慮のもとに行われなければならない」というのが両法律の一致した基本概念である。そして、倫理的な配慮への最終責任は個々の実験者にあるが、実験動物が倫理的な取り扱いを受け、動物実験がAWAのもとに作られた「動物福祉規則」ならびにHREAのもとに作られた「実験動物の管理と使用に関する指針」に準拠して行われていることをUSDAならびにNIHに保証する責任は動物実験委員会にある。
 演者は文部省の補助金の交付を受けて1996年10月から5カ月ほどシカゴ大学医学部で仕事をする機会を得た.その際に集めた情報をもとに、米国の動物実験委員会の位置づけ、構成、機能、権限についてシカゴ大学を例に述べてみたい.
 シカゴ大学での実験動物の使用と管理に関しては動物実験委員会が監督している。委員会の構成は、動物実験施設の獣医師、学部の動物を使用する研究者、学部で動物を使用する研究者以外の者、大学とは無関係な一般市民、事務総長のスタッフなどからなる.
 大学の動物実験関係者が規則や指針を遵守していない場合には、大学内で行われる動物実験に関連する全ての研究に対し連邦の資金援助が危険に曝され、最終的には大学の他の機能に対する連邦の資金援助もさしとめられることとなる。そのような事態を防ぐために動物実験委員会は動物実験計画書の審査と承認、動物の管理と使用に関する施設全体の計画、飼育施設の査察、研究者や職員への教育訓練等を通して柔軟に対応している.
 また、演者は1999年8月に開催された第3回世界代替法学会(イタリアのボローニャ)に参加し、各国の動物実験委員会の状況についても若干の情報を得た.
 各国の動物実験委員会は国家委員会、地方委員会、研究所内委員会と国によって設置形態も異るが、今回はそれらの委員会の特徴および役割についても比較してみたい.
 英国では1999年4月から研究所内動物実験委員会(ERP)を新たに設置する法令が施行されたが、これは内務省の査察官をカバーし、きめ細かな倫理的動物実験の実施を促進するために新設されたと言われている.演者にはこのERPは米国のIACUCに近いものと感じられた.
 米国、オーストラリア、カナダ、スエーデンでは動物実験委員会に一般市民を代表する委員を参加させているが、「実際問題として一般市民を委員に加えることには疑問が残るところであり、英国においては新たに組織されたERPには必ずしも一般市民が含まれるわけではない」と英国RSPCA(Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals )のMaggy Jenningsらは述べている.
 情報公開法にもとづく実験計画書の公開では、スエーデンが積極的に公開している.しかし、カナダ、英国においては動物に対する処置の侵襲の程度とその処置を受けた動物数に関する統計資料を毎年公表してはいるが、一般市民が実験計画書を直接見ることはできないシステムとなっている.