研究機関における動物実験委員会の役割

(日本実験動物医学会教育セミナー)

国際的民間企業の状況

鍵山直子(ノバルティス ファーマ筑波研究所)

 医薬品の開発は動物実験に負うところが大きく、感謝の気持ちをこめて実験動物を大切に扱っている。化合物の体内動態を無視して薬効評価や安全性の予見はできない。動物がそのことを理解しているならば、生きた動物は医薬品開発のツールではなく、まさしくパートナーである。もちろん細胞レベルの研究にも意義がある。ヒト細胞の利用には動物種差のハードルをクリアできる利点がある。
 われわれの研究所で立案された実験プロトコールはノバルティスの国際プロジェクトチームに提出され、その科学的妥当性が審査・承認される。このプロセスで、まれではあるが動物実験、例えば採血方法や麻酔などにクレームがつくことがある。経路の変更や麻酔の前処置を求められるケースがあり、そのようなときには所内動物実験倫理委員会(以下、委員会という)に相談が持ちこまれる。
 研究所には「動物実験の倫理に関する原則」、「動物実験倫理委員会規則」および「動物実験承認規定」がある。グローバル版の翻訳ではなく独自に策定したものであるが、動物実験手技それぞれの妥当性ならびに苦痛度についてあらかじめグローバルの合意を取りつけておくことが重要であることから、委員会はサイト間の連絡調整にあたるAnimal Welfare Global Coodinatorにこれらの規則(案)を提出しコメントを求め、必要に応じて修正を行った。
 動物福祉に関して何処までハーモナイゼーションが可能かは、社内でも多いに議論されたところである。まずは欧と米の違いが問題になった。違いは大別して2点ある。ひとつは動物福祉へのアプローチの仕方である。ケージサイズを例に取ると、ILARのGuide(1996)にも明記されているようにアメリカは数値をrecommendation(推奨値)とし、委員会の承認があれば例外も認めている。一方欧州(Council of Europe)の考え方はminimum allowance(最小許容値)であるから、執行猶予付ではあるがその数値に到達しなければならない。
 もうひとつは承認手続きの違いである。アメリカは委員会が承認権限を有するのに対して欧州各国では当局がそれにあたる。ただしイギリスでは主務官庁であるHome Officeをサポートする立場から、各研究機関がEthical Review Process(動物倫理に関する調査)を行い、その結果をHome Officeに報告するようになった。演者はこの新たなルールにもとづき、昨2000年にノバルティス(イギリスのブランチ)と共同研究を行う日本の動物実験施設を査察した経験がある。
 1998年5月よりノバルティスは、動物実験の原則(Principles governing animal tests in Novartis)を日米欧が共有するとともに、1)Animal welfare officer and global coordinator、2)housing of animals、3)transport of animals、4)training of staff、5)animal procurement、6)alternative methodologies、7)external studies、およびanimal welfare committeesの8項目にわたり原則のスペック化を行った。具体的な実施方法は各国がそれぞれの法規に照らして明文化するよう指示されている。