ドイツにおける動物実験

German animal welfare law changed (EBRA)
ドイツにおける動物実験の規制

 心臓病の研究をしている研究者は時々フランスのパラドックスを引き合いに出す。それはフランス料理は心臓血管に悪影響を及ぼすとは思えないとの観察があることである。動物実験の規制に関してドイツにも似たようなパラドックスがある。それは今やオーストリアやスイスといった近隣諸国がより厳しく動物実験を規制しているが、それでもドイツの研究者はそれらの国に行って研究する機会を持ち望んでいる。

 この現象は16州での連邦動物保護法の適用方法によっても異なるが、動物実験を規制する地方担当局(Reigerungsparsidium)が複数ある州では、同一の動物実験計画書がGiessenと Darmstadtの両方に提出され、両方の実験が同じ州で行われるとしても、Giessenでは却下され、 Darmstadtでは許可されるという場合がある。これは州を越えて協同研究を行った方が研究がはかどることを意味している。

 何人かの研究者は許可を得るために3ヶ月以上も待たなければならなず、官僚的手続きが横行しているが、その理由は政治家や動物保護活動家が実験計画書を承認する段階で妨害しているためである。 Hassia、Berlin、Baveria、Cologneでは研究に霊長類を使う場合には政治家は有無をいわさず計画を妨害する。法律ではそのような妨害をしてはならないとう事実があるにもかかわらず。動物実験に反対の方針を持つグリーンパーティーのメンバーが多いGiessenの担当局では、大学の授業においてラットを麻酔し、最終的に殺処分するような実験を止めさせようと何年も活動してきた。役人も連邦の法律を公平に適用していないようで、グリーンパーティーのメンバーの多数がそのような反対の態度をとると見るやすぐに計画書を却下する。

 正常な手続きは実験者が行おうとしている実験の内容、使用動物種及び数、すべての実験関係者を詳述した研究計画の申請書を地方担当局に提出することである。研究の最中に変更が生じた場合にも届けでなければならないが、この届け出によって進行中の計画が3ヶ月間も停止することがある。

 少なくとも1/3の動物福祉家から構成される委員会があるが、この委員会が地方当局に対して実験計画申請書に関して助言をする。当局はこの委員会の助言を必ずしも受け入れる必要はないが、たいていはこの助言が尊重される。ある場合には、一動物福祉家の意見が委員会において受け入れないとみるや、内密の検討内容が公にされたこともある。このようなことから役人は仕事をするに当たって熟慮するようになり、実験計画書の記載内容をより詳述するように求め、かくして承認するまでに時間ばかりがかかることになる。

 ほとんどの委員会では、計画書について十分な話し合いがなされているが、幾つかの委員会ではいかなる計画書も認めないというより激しい動物権支持派によって占められている。Hamburgでは動物福祉の穏健派が多くの計画書を承認しすぎるということで委員会を首になった。

 薬や化学物質を試験する動物実験に対しては別の法律が定められている。申請書には同じ内容の詳細が含まれるが、その申請書は地方担当局に送られ、地方担当局は送られてきてから14日以内に何らかの反応をしなければならない。もし地方担当局が14日以内に決定しないならば、その実験は遂行される。1993年にドイツで使われた190万の動物の半数以上がこの範疇に入る。もし彼ら役人が14日以内に何らかの反応をしていれば、動物実験を適正に審査するためにさらに詳細な申請書を要求することができた。

 動物実験を行っている研究機関では、動物の使用に関して助言するための研究機関内動物福祉官(Animal Welfare Officer)を任命しなければならない。地方担当局の獣医官はすべての動物実験施設で行われている仕事を査察する権限を有している。実験の一部として外科的処置を行うための許可は通常、動物学者、医師、獣医師にのみ与えられる。科学者や技術者に対してはある処置やある時間に制限された特別な許可が与えられる。

 ドイツの動物保護法は1934年まで遡ることができる。最初の法律はナチスによって制定された。この法律は1972年と1986年に改正され、遺伝子組換え動物を取り扱った最終的なマイナー修正が1993年にあった。この法律はすべての動物種に適用され、動物実験に関する章では脊椎動物と無脊椎動物の両方が含まれる。しかし、免許が必要なのは脊椎動物の使用に関してだけである。無脊椎動物を使用するに当たっては使用数を記録する必要はないが、報告書を提出しなければならない。inv itroの実験や他の理由のために動物を殺すときには、申請書は不要で、報告する必要もない。しかし、そのような目的のために殺される動物の数を記録しておく必要はある。

 Bundesrat(州政府の代表からなる上院)は1994年に動物保護法をさらに改正しようと企てていた。しかし、そのような改正は医学研究を著しく制限するだろうということを理由に、研究者がBundestag(下院)を説き伏せて止めさせた。しかし、この法律を所管している農業大臣のJochen Bocherは動物実験に関してより厳しく規制することを既に通知している。
(以上は2002/2/6追記)

ドイツにおける動物実験:現在の状況(1997年8月)

 ドイツでは動物実験に関する問題はここ3年程の間に浮上してきた社会問題によりあまり重要な問題ではなくなってきた.動物実験はもはやマスコミにとって恰好の材料ではなくなった.PETAによって起こされた山之内製薬問題が6月の日曜版の第一面を飾ったときでさえも,もはや人々の注意を引くことはなかった.動物活動家達は霊長類の研究に焦点を絞ったが,マスコミも政治家ももはや興味を失ったように思われる.

新しい動物福祉法

 1995年6月にドイツ政府は農業大臣を代表として動物福祉法の改正を検討していると伝えた.この検討は現在も続けられている.1994年に提案された改正案は政府と国会と各州の意見が大きく異なった.そのためBundesrat(州政府の代表からなる上院)によりストップがかけられた.新たに提案された改正案では3者の間で,論争とならないような問題のみに絞られた.新提案では動物権利論者や福祉活動家により提唱された規制を無視する形で,研究者に好意的な変更が含まれた.これに対して異議申し立てが1995年10月5日の公聴会からスタートした.

 動物福祉活動組織に大きな影響力をもつグリーンパーティーは,その際に彼ら自身が作成した改正案を提出した.その案は1993年6月12日に出されたもので,全ての動物実験を禁止することを要求したものである.

 社会民主党(SPD)は1995年10月29日に彼らの改正案を提出した.それは動物実験にとって官僚的的色彩の濃い多くの規制が盛り込まれていた.1996年9月25日に農業大臣より最終的な改正案が国民に提示された,1996年10月16日に内閣の閣議決定をみた.その後,各州の議会に答申されたが,その際,研究に対する規制が軽減されたことに対しての批判は殆どなかった.

 連邦政府はこの案に注釈を加え,国会に提案した.国会では,その年の6月23日に専門家を呼びヒアリングを行っていた.その際,研究機関の代表者らは規制の軽減に満足しているが,もう少し官僚的色彩を弱めたものを要求すると述べた.彼らの不満は「動物の福祉に無関係と思えるものでさえも,承認を得るまでに多くの時間がかかる」というものであった.インターネットにより研究や出版がスピードアップされた今日,現行の動物福祉法が作られた1986年とは研究のペースは異っている.そのため動物に苦痛がないような場合には,現状を維持すること自体が動物実験を阻害すこととなる.これに対して動物福祉活動家は動物実験に対してより制限を加え,厳しいものとすることを望んだ.委員会は国会において改正案を検討する予定であるが,1997年10月以前に決着がつくとは思われない.

 動物福祉法を改正する本来の目的は,欧州協定を採用することにあった.16州の大部分で優位を占めるグリーンパーティーや社会民主党はキリスト教民主党と自由党が大部分を占める政府与党に対して反対を唱えた.動物福祉に対する各州の姿勢は,キリスト教民主党と自由党が優位を占める州においてさえ,どちらかというと日和見的であり,一般大衆の意見を尊重している.動物実験に関する規制を強化する要求は制限されている.

憲法における動物実験

 この数年の間に動物権活動家は憲法の一部に動物福祉の条項を加えることを目論んでいる.彼らは,それにより動物福祉法により強制力を持たせることができると述べている.これまで宗教,科学,芸術が戦後のドイツ憲法により特に守られてきた.このことは動物福祉法があるにもかかわらず,宗教儀式や科学,芸術のために動物の使用を許すことにもなりかねない.

 以前東ドイツであった3州は全て新しい州法に動物福祉を含んだ.Berlinがそれに続き,Munich,Stuttgart,Hannoverでも真剣に論議されている.動物権利運動の戦略は明らかである.即ち,もし大部分の州が州法の中に動物福祉に関する事項を取り入れることができたら,連邦共和国の憲法をも変えることができる大きなチャンスである.東ドイツとの統合により1994年に憲法が改正されたが,そのとき動物権利運動家はこの目的を達成することに失敗した.

動物実験に対するマスコミの興味喪失

 最近のTV番組で州の立場に直接影響する屠殺場および輸送に関する報道があったが,それ以外では現在のところマスコミは動物福祉問題に興味を失っている.この2年の間にドイツのマスコミでは動物実験は殆ど評判になっていない.スピーゲルから発行されている月刊誌,スピーゲル・スペシャルだけが,この1月に動物福祉全般にわたる2つの記事を載せていたにすぎない.幾つかの新聞でさえ,この数カ月で大学において行なわれている研究とその管理に携わる動物福祉官ら(animal welfare officers)を好意的に取り扱った記事を載せた程度である.動物実験に関するTV番組はまれで,2月の番組において動物の自由を求める会の代表者が「自分が病気になったら,動物実験で開発された薬を飲む」といっていたのを取り上げていた程度である.

 ドイツ国民はもはや5年前に比べると,緑の問題や動物福祉には興味を失っている.東ドイツとの統合による経済問題が浮上し,特に特別税が個々人の経済に影響を与えている.社会保障制度の危機(健康保険問題,住宅問題,失業問題)が人々(マスコミ)の当面の問題となっている.

 このような状況は動物権活動家達を苛立たせている.2月にBraunschweigで,動物権会議が開催されたが,国内での協力関係を強め,他のグループと共闘していくことがアッピールされた.しかし,動物実験と同様に中絶にも反対しているキリスト教のグループの人々と共闘することに関して,左翼の自主的動物権利活動家達が反対した.そしてフランクフルトでの動物実験反対のデモ組織をおおっぴら非難した.

修正ドイツ動物福祉法

 1994年にドイツ政府は動物実験を規制する法律の改正を検討しはじめた。科学界はその当時、いくつかの州で研究計画書を提出した際に審査に時間がかかりすぎ、研究が遅れることを懸念していた。彼らはそのような遅延と官僚的形式の強い規制を軽減することを含めたいくつかの提案を政府に提示した。これに対して動物保護運動家は法律をより厳しいものにすることを目的とした対案を提出した。

 このような法律の改正は大きな議論を引き起こし、Bundesrat(ドイツ国会の上院)とBundestag(下院)がそれぞれの立場を異にした。そのため調停委員会が両院に設置された。そして長く、難航した交渉の末に、合意が成立した。この合意事項は1998年3月末に両院を通過し、6月に施行された。

 全体としては、改正はドイツの生物医学研究に有利なものとなった。改正は州当局が実験計画書を検討するに当たりタイムリミットを導入した。もし彼らが3ヶ月以内に判断を下さなかった場合には、提出された計画書は自動的に承認されたことになる。動物が麻酔をかけられた状態のまま、意識を回復することなく殺処分される場合には、その計画書には2ヶ月以内のタイムリミットが適用される。

 さらに、実験中に些細な実験計画の変更がある場合には、当局に通告するだけでよく、研究者はわずかな変更のために煩わしい書類による許可を取り付ける必要がなくなった。

 しかしながら、グリーンパーティーと社会民主党はこのような改正法に反対している。そして彼らは1998年9月の選挙後に動物福祉を強化する改正をさらに加えようと目論んでいる。社会民主党は選挙後に優位を占め、そのような改正を可能とする連立政権の一端を担うことが予想されている。

 関連した事項として、ドイツ自由党はドイツ憲法に動物福祉に関する条文を加える意向を示した。これは社会民主党、SED、グリーンパーティーにより支持された。国会の両院もこの提案を検討する準備を始めた。

 ドイツ憲法には「研究における学問の自由」が唱われている条文がある.霊長類を用いた実験計画書を申請した一研究者が、計画を承認されなかったことから、この条文(学問の自由)を盾に州の決定を無視した。研究の自由に対する権利は憲法によって保証されているが、憲法に基づいていない動物福祉に関する法律は正しくないと主張した.彼の主張は認められたが、憲法に動物福祉の条文が加えられると、このような法的挑戦はできなくなるであろう。

訳者 松田幸久



欧州諸国における動物実験をとりまく状況