知恵蔵(1995および1999年版)から


動物実験 animal experimentation

 医学研究の進歩がますます求められ、そのために動物実験は不可欠である。しかしこのことは無節操に動物を実験研究のために殺していいことを意味しない。最近は医学・生物学系研究者が欧米諸国の学術雑誌に論文を投稿しても実験時の動物の苦痛の軽減法や実験後の安楽死の方法に問題がある、実験そのものが本当に必要だったかどうか疑問である、など動物実験の内容が非倫理的として受理されなかったり、実験内容を厳しく問い合わされるケースが増加している。欧米諸国の医学・生物学界は動物に無用の苦痛を与えない動物実験が主流となっており、その意味ではわが国はまだ先進国のレベルにほど遠い。

 今後わが国の研究者が世界で評価されるためには、動物の生体を用いずにコンピュータシミュレーションや培養細胞などで代用できる場合は可能な限り生きた動物を用いない(代替)、動物を使わなければならない場合も可能な限り少ない数で精度の高い実験を志す(減数)、動物に可能な限り苦痛を与えないように努め、また最も適切な動物を選んで実験に使用する(洗練)など、動物福祉の基本を絶えず念頭に置かなければならない。(1995年版)

疾患モデル動物 disease model animals

 ヒトの病気の原因究明、治療法・予防法の開発のためのモデルとなる動物をいう。水銀を投与して発症させた水俣病モデルネコなどのように薬物や病原体を投与して作る誘発モデル、動脈硬化症、脳卒中、高血圧などを遺伝的に起こす自然発症高血圧ラット(SHR)のほか、先天性脊椎形成不全や瀰漫性甲状腺腫のモデルとなるISラットのような自然発症モデル、受精卵や精巣にポリオレセプター遺伝子など特定の遺伝子を導入して作るトランスジェニック動物のような遺伝子型モデルなどがある。

 染色体16番の異常から発症する遺伝病に多発性嚢胞腎という病気がある。腎に3?B以上になる袋(嚢胞)がたくさんでき、腎は40?B以上にもなるため圧迫から腎不全を起こし、また高血圧、腎結石が多発するばかりでなく、肝臓や腸管などにも嚢胞ができる。600人から1,000人に一人がこの遺伝子を持つとされる。

 マウスやラットにも嚢胞腎を多発する系統があって治療試験などに用いられているが、ペットとして飼われているペルシャ、ヒマラヤンなどのネコには腎だけでなく肝にも嚢胞が多発する個体がある。遺伝子解析を含め、藁にもすがりたい気持ちで治療法を待っている患者と家族のためにこのようなネコが求められている。(1999年版)

動物実験代替法 alternative of animal experimentation

 日本は世界一の長寿国となったが、その陰で病因の解明、予防法や治療法の研究、新薬の有効性、安全性の確認、あるいは栄養の改善のために使われた貴重な実験動物の数は多い。

 にもかかわらず、動物実験の現状は問題を多く抱え、動物実験反対運動などの意見に対して十分対応していない。より良い実験手技で、より少ない動物を用いた、より正しい動物実験が進められるための配慮が求められている。動物の生体を用いずにコンピュータシミュレーションや培養細胞などで代用できる場合は可能な限り生きた動物を用いない(代替)、動物を使わなければならない場合も科学的・統計的に可能な限り少ない数で精度の高い実験を志す(減数)、動物に可能な限り痛みと苦痛を与えないように努め、また最も適切な動物を選んで実験に使用する(洗練)ことを総称して動物実験代替法といい、その方法検討のための学会もある。

 謙虚な気持ちで可能な限り動物を良い条件に置いて愛情を持って接し、実験技術を改良していくことが貴重な生命を提供してくれる動物に対する研究者のとるべき姿であり、そのために研究者の資格制度なども今後早急に検討されるべきである。(1999年版)


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