イギリスの動物保護と動物実験


The regulation of animal research and testing in the United Kingdom(EBRA)



 英国の動物実験に関する規制は、Animal (Scientific Procedures) Act1986によって定められている.この法律は研究者に対してパーソナルライセンスとプロジェクトライセンスを取得することを要求し、動物実験を行う施設に対して免許証を取得することを要求している.

 規則では全ての脊椎動物が対象となっており、最近は対象動物がタコにまで拡大された.これらの動物を実験に使用することを希望する者は、実験を開始する前に必要なライセンスを取得しなければならない.実験に用いられる以前に(規則によって定められた方法によって)人道的に殺処分された動物は一般に例外として取り扱われる.殆どの動物はこの法律による免許証を取得した繁殖・供給施設から入手することが義務づけられている.イヌとネコは免許証を取得した繁殖業者から直接入手することが求められている.

 パーソナルライセンスにはその研究者が動物に対して行うことを許された処置が記載されている.新しい処置を必要とするときは常に、研究者はそのライセンスを変更しなければならない.

 施設の免許証は内務省により指定された人物(施設責任者)に与えられる.施設責任者は施設において本法が適正に実施されるように努める法的責任が課せられる.施設責任者には普通その施設において最も地位の高い人物が選ばれる.施設責任者には動物の日常管理に対して責任を持つ1名の人物(普通は動物技術主任)を指定することが要求される.また、電話1本でいつでも対応可能な獣医外科医を指定しておくことも要求される.

 実験動物の繁殖・供給施設にも同様の免許証が要求される.研究・繁殖・供給施設に求められる動物の飼育管理の基準は内務省から出されているCode of Practiceに定められている.

 プロジェクトライセンスは各プロジェクト毎に研究責任者が保管している.このライセンスを申請するに当たっては、以下のことを記入しなければならない. プロジェクトライセンスの有効期限は5年である.プロジェクトライセンスに記載される処置は全て軽度、中度、重度として厳格に分類される.査察官によりライセンスの変更を認められない限り、プロジェクトライセンスに記されている分類を上回る処置を行ってはならない.

 プロジェクトライセンスの申請は約20人の査察官を擁する内務省に提出される(それらの査察官は、医師あるいは獣医師の資格を持ち、動物実験に関する経験を持ち、相当の訓練を受けている).これらの査察官はプロジェクトライセンスの申請書を審査し、必要なら許可する前に修正を要求する.内務省の査察官は事前通告なしに研究施設を訪問し、そこでの研究がライセンス通りに行なわれていることを確認するように努めている.彼らにはライセンスを停止したり、変更させたりする権限があり、必要な場合には、研究施設全体に対しての免許証を即座に停止し、全ての実験を停止させる権限もある.

 パーソナルライセンス取得希望者はライセンスを許可される前に、それぞれの免許ごとに決められた訓練をまる2〜3日間受けることが要求される.1995年4月からはプロジェクトライセンスであっても、最初の申請に当たっては同様の訓練が要求されている.

 内務省へ毎年報告するためにプロジェクトライセンスの保持者には使用された全動物の記録を保管するように求められる.これらの年間統計数値には動物の種類と数、使用目的、施設の種類が含まれる.

 研究者、獣医師、医師、法律家、哲学者および動物福祉家で構成される国家委員会(the Animal Procedure Committee)は、本法律が関る問題を政府に助言する.この委員会はどの問題を検討するかを決めることができる.この委員会はある種のカテゴリー(例えば、化粧品の試験やタバコの研究など)に申請されたプロジェクトライセンスの全申請書を審査することができ、そして他のプロジェクトライセンスの申請書を見る権限も持っている.

 英国のシステムは複雑でややもすれば官僚的すぎると思われるかもしれないが、英国の研究者には公正で、合理的なシステムとして受け入れられている.プロジェクトライセンスの申請において内務省は細々したことを記入させすぎるとの批判もあるが、基礎研究の計画を展開する方法を予見することは大変難しい.そのためできるだけ研究の進展を遅らせないためにも研究者は内務省に対して必要な情報を提供することが肝要である.
訳者 松田幸久

松田のコメント

 イギリスの都市部では社会の成熟と生活水準の向上に伴い、環境保全や動物愛護、食品の安全を求める市民団体が力を得ている。この都市部の支持を得て1997年5月に保守党から労働党に政権が代わったが、労働党の選挙公約一つに「野生動植物の保護や動物福祉の向上」があげられている。ブレア政権はその実現に努力している。しかし、農村部の人々はブレア政権の方針を必ずしも全面的に支持しているとは限らないようである。

 従来の英国システムでは、各施設が適正に動物実験を行っていることを確認する方法は、内務省の査察官による事前通告なしの施設訪問であった.しかし、内務省査察官は20名と少ないことから、英国全土の施設をカバーすることは困難であった.また、施設において適正な動物実験を推進する責任はCertificate Holderにあるが、実際には研究者が一度ライセンスを取得すれと、彼らがライセンス通りに実験を行っているか否かを追跡調査する方法は殆どなかった.さらに、動物実験計画の申請書が内務省に提出された場合、その申請書の内容を修正するために査察官が多くの時間を割かなければならなかった.

 そのため、内務省査察官の仕事をカバーし、よりきめ細かな倫理的動物実験の実施を促進するために1999年4月から研究所内に動物実験委員会(
The Ethical Review Process)を設置する法令が施行された.

 米国のIACUCには3R推進のための責任があり、また実験計画書を承認する自主的な権限があるのに対して、ERPは法的責任は問われず、特に権限もない.英国での3R推進のための責任はCertificate Holder にあり、ERPは3Rの推進のためにCertificate Holder らに助言をすることが役割である.しいて権限をあげればERPの審査を経なければHome Officeの許可がおりないといったところでである.