オランダの動物実験規制法

Animal experimentation legislations in The Netherland (EBRA)

 動物実験を行う研究機関の長はオランダの動物実験法(EAA 1977)に基づいて福祉・公衆衛生・文化省に免許の申請をする.免許申請時には,研究機関において行なわれている研究内容を詳述しなければならない.しかし,個々の動物実験の具体的処置内容を記述する必要はない.福祉・公衆衛生・文化省は申請された要求に対して普通2カ月以内に決定を下さなければならない.そして免許の取得状況や研究内容などについてオランダ政府が発行している官報に発表しなければならない.免許の期限に関する制限は特にない.

 各研究機関では実験動物の福祉を監督する責任者として獣医師あるいは動物福祉に関する資格をもった専門家を任命することが要求される.さらにこの人物は法律に規定されている事項が正しく守られていることを調査し,確認するための強い権限を持っている.彼らは免許取得者とChief Veterinary Inspectorに対して提出するための報告書を毎年作成することになる.

 動物実験の方法を決定する実験責任者は生物または医学,獣医学,歯学における博士号を取得している者で,実験動物学に関する特別コースを修了した者でなくてはならない.専門家に要求される特別な事項と動物実験者や動物の飼育者に要求される事項,ケージサイズや構造,飼育室の清掃と温度,餌などに対する要求事項が法律に記載されている.

 実験動物は免許を取得している動物生産業者や研究施設から購入しなければならない.それらの動物は飼育室で飼育され,できるだけ安全に,生理学的にも倫理的にも適切に管理され扱われなければならない.動物を使わなくてもできると専門家により判断された実験は行ってはならない.特別な理由がない限り,霊長類,イヌ,ネコ,ウマでの実験は行ってはならない.動物が苦痛を感じるような実験では,実験目的を阻害しないかぎり,麻酔薬を用いる.全ての動物実験に関する詳細な記録が保管されていなければならない.

 法律では動物実験の専門家や動物福祉の専門家から構成される動物実験諮問委員会を設置し,その委員会は動物の飼育法,記録の保管,教育訓練の行政命令について諮問することになっている.

 法律の実施機関はVeterinary Public Health Inspectorであり,Animal Experimentation Departmentに6人のスタッフがいる.彼らは研究施設に立入,サンプルの採取,動物の検査,研究者に対する事情聴取や記録のコピーを要求することができる.軽い違反でも検察に報告する.この法律は現在改正中である.改正されるであろう主な変更点は各研究機関において動物実験倫理委員会(local animal ethic committee)を作ることが要求され,その中には外部の一般人の代表も含まれる.これらの委員会の正確な役割と権限についてはまだ不明である.

オランダ新法

 1997年2月5日にオランダの改正動物実験法が施行された.この法律のもとになった1977年の法律については,1995年7月のEBURA Bulletinで紹介した.

 法律に基づき福祉・公衆衛生・文化省は研究機関の長から申請された動物実験の種類が記載された書類をもとにに施設長に許可を与える.しかしながら,個々の研究計画を外部から審査するシステムはなかった.各研究機関は動物の福祉を監督するためのanimal welfare officerを任命しなければならない.さらに,動物実験を行う方法を決める責任者は実験に関係する博士号を取得していなければならない.新しい法律にはEUのDirective 86/609に基づいた他の条文も含まれている.

 改正による変更箇所は,研究機関に新たに設置された動物実験倫理委員会により計画書が承認を受けなくてはならなくなった点である.動物実験倫理委員会は実験によってもたらされるであろう利点と動物が被る苦痛とを勘案して,その実験に正当性があるか否かを判断しなくてはならない.研究計画に対する有効期間は特に規定されていない.倫理委員会は申請された計画書に対して3か月以内に判断を下さなければならない.研究計画を承認しない場合には,以前の法律のもとに設置されたcenteral animal review committeeに申請書を提出し,判断を仰ぐことができる.

 改正された法律には記載されていないが,動物実験倫理委員会は大きな研究機関では設置が可能であるが,それより小規模の研究機関では大規模な研究機関の動物実験倫理委員会を利用することとなる.これらの委員会の構成は新法に規定されており,少なくとも7人の委員から構成される.その割合も以下の専門家が同数でなくてはならない.
  1. 動物実験の専門家
  2. 代替法研究の専門家
  3. 動物福祉の専門家
  4. 倫理の専門家
 少なくとも2人の委員は非実験者で,議長も含めて少なくとも3人は研究機関とは無関係な人でなければならない.

 動物実験倫理委員会は大臣による承認が必要である.大臣はcenteral animal review committeeの助言を受けることになる.このシステムは所内の動物実験倫理委員会の適正な運営を促進するもので、同じ目的で委員会に対して大臣に年次報告を提出することを要求している.守秘義務により彼らに与えられた情報は委員の中で守られなければならない.

 多くのオブザーバーが論議し,法律に追加した条項の1つに,動物が持つ固有の性質を損なわないとの要求がある.しかし,法律では単に「この法律による権利は動物が持つ固有の性質を認めることに努めなければならない」とあるだけである.動物実験倫理委員会は研究計画を審査するに当たり,このことを考慮する必要はないと述べられている.

 改正法ではLD50とLC50が禁止されているが,もしその実験が他の方法により行うことができないことが示された場合には,例外として認められる.化粧品やその原料を動物実験で試験することは完全に禁止された.動物生産業者や供給業者は免許が必要となり,動物を使用する施設と同様の規制が適用される.

 以前の法律では動物生産業者や供給業者の免許は不要であったが,これはオランダがDirective 86/609を適切に実施していなかったことを意味している.このことが今回の改正で大きな意味のあるところである.cost-benefitの原理に基づいた研究計画審査システムを導入したこともあり,イギリスやドイツで実施されているシステムにより近いものがオランダでも行えるようになった.しかしながら,LD50の禁止と化粧品試験の完全禁止を決めたことにより,オランダのシステムは,今では他の欧州諸外国よりもあきらかに先行していると思われる.勿論,全ては新法がどのように施行されるかにかかってはいるが・・・.しかし,法律の条文にもとづいた規則の施行はオランダの動物実験に関わる規制をさらに確固としたものにするであろう.
訳者 松田幸久