シンポジウムの概要:
「21世紀のバイオサイエンスと健康科学における実験動物の役割」と題して、下記に示す要領で5人の演者から説明がなされた。研究者にとって大変興味深い講演内容であったが、癌の克服やエイズの制圧と実験動物に関する講演は、本シンポジウムに参加していた一般市民にもわかりやすい説明であった。動物実験が人類の病気を克服するために大いに役立っていることを理解していただけたことと思う。動管法の改正が叫ばれている折りに、時宜を得たシンポジウムであった。
講演の中で特に私の注意をひいたのは江橋先生の南極犬タロとジロの話であった。今日の講演とは直接関係はないのだがとの断りのもとに、「当時の新聞記事ではイヌを南極に置き去りにするとは言語道断、イヌの代わりに人を置いてこいという極端な意見もあり、非難囂々であった。同じ時期に北極で仕事をしていたイギリス隊が使命を終えたイヌぞり用のイヌたちを射殺したが、その時にはマスコミは何の反応も示さず、その事実を知るわが国の国民も少なかった。文化の違いによって今後、このようなことは多くなるであろう。」とのことが述べられた。
「イヌの代わりに人を置いてこい」という意見は「イヌを実験に使う代わりに人間を実験に使え」という発想に等しいと私には思える。それはさておき、江橋先生の話の中には二つの問題が含まれているようだ。一つはマスコミの対応であり、もう一つには動物の取り扱いに対する国民感情の相違である。興味本位、判官贔屓で世間の注目を集めるマスコミの姿勢については今更述べるまでもない。問題は国あるいは文化の違いによる国民感情の相違である。英国隊は極寒の地にイヌを置き去りにすることは虐待であると考え、死にいたるまでに不必要な苦痛を与えることを懸念して射殺したのであろう。一方、日本隊は生き延びれるとまでは考えなかったろうが、できるだけ長く生きることがその動物にとって幸せであると無意識のうちに考えたに違いない。結果として、1年後に第3次南極観測隊は元気なタロとジロに再会したのである。イギリス隊の選択と日本隊の選択において果たして、どちらが正解かは誰も判らない。
「日本人としての私は使命を終えたイヌをその場で射殺するよりも、生きるチャンスをイヌに与える方を好む。また、動物の扱いに対するそのような違いは、キリスト教と仏教の影響の違いではないだろうか。」などと講演を聴いて考えさせられた。
21世紀のバイオサイエンスと健康科学における実験動物の役割
司会 玉置 憲一(日本学術会議実験動物研究会連絡委員会)
米田嘉重郎(S日本実験動物学会学術集会委員会)
挨拶 森脇 和郎(S日本実験動物学会・理事長)
- 特別講演
生命科学における実験動物の不可欠性
江橋 節郎(元岡崎国立共同研究機構長)
- シンポジウム
- 21世紀に向かっての実験動物とその施設
山村 研一(熊本大学医学部・教授)
- 癌克服と実験動物
樋野 興夫(R癌研究会癌研究所・部長)
- 脳・神経研究と実験動物
御子柴 克彦(東京大学医科学研究所・教授)
- エイズ制圧と実験動物
小柳 義夫(東京医科歯科大学・助教授)
- 安全性試験の国際協調と実験動物
臼居 敏仁(R実験動物中央研究所・センター長)
- 総合討論
- おわりに
玉置 憲一(日本学術会議実験動物研究会連絡委員会)
文責 秋田大学 松田