“「動物保護法」を考えるシンポジウム”を聞いて
- 開催日時:平成10年7月26日(日)午後1時一4時30分
- 場所:東条会舘大ホール(東京都千代田区麹町1−4)
- 参加費:500円
- シンポジウム会場入り口に諸団体発行の各種パンフレットが置いてあり、自由に収集.
- パネラー(出演順):第1部
- 基調講演:吉田真澄(法律学者、同志社大学教授、ペット法学会設立発起人の一人)
- 講演 石坂啓(漫画家)、小林カツ代(料理研究家)、ヒロコ・グレース(タレント)
- まとめ 小原秀雄(動物学者、女子栄養大学名誉教授)
- 第2部総合討論(総論、各論、全体)
- 追加発言:エリザベス・オリバー(動物保護団体アーク神戸市)
- 青木貢二(東京都開業獣医師、幼稚園・施設等への動物訪問の奉仕活動推進中)
- 山口千津子(社日本動物福祉協会専任獣医師動物の法律を考える連絡会構成員)
- シンポジウムの概要:
雨天の中、会場は定刻までにほぼ満席(約500名)となり,司会役の会田氏(日本動物愛護協会)の進行で定刻にやや遅れて会は開始された.
第1部の基調講演において、吉田氏より動管法(吉田氏は「動物の保護及び管理に関する法律」を動管法と略していた)制定の経緯および今回の改正を求める流れについての解説があった.ついで,連絡会議が作成した改正案文に触れ,改正したい中身をいろいろ盛り込んだために具沢山だか、改正の焦点がぼやけた闇鍋(やみなべ)的改正案となっている.動物の保護中心なのか管理中心なのかについてさらに整理する必要があるなど,改正に向けての戦略について法律家としての立場から意見が述べられた.
続いて女性パネラー3氏より愛猫家,愛犬家の立場から,世代を越えてペットと共存できる社会の醸成を求める意見が出された。3氏に共通していたことは生活体験の中から得た生命の尊さに関する話題であり,特に人は動物を含めた自然に対してもっと謙虚であるべきであるとする意見に対してはたびたび会場のあちこちから拍手があった.
小原氏より野生生物学者の立場から、先の3氏のパネラーが述べた生命の尊重に関する総括がなされ,さらに動物と人との今後の係わり方について述べられた.
第2部の総合討論に先立ち,エリザベス・オリバー女史より神戸での動物救済活動の現状の紹介がなされた.また,日本動物福祉協会の山口獣医師より、日常の活動の中では現行の動物保護法は法的根拠として違反を問えるようにはなっていないと言える。ほとんど機能していないので、ぜひ改正して例えば虐待の定義、罰則の強化、虐待の調査や改善勧告のために査察制度の導入等を実現したいと豊富な経験例をもとに具体的な提案があった。
吉田氏からは今回の法改正を成就?させる戦略には、オトシトコロをどの辺りに設定するか、どう文案にまとめるかをポイントにして、現状の問題点や文化等の差はあるものの諸外国との比較から内容を整理する必要がある.現行法に記載されている「理念」の部分は昭和48年制定当時の理想像として唱い上げたものと解釈すればこの程度の内容は現在では“当たり前”のことと受け止められていよう.したがって改正案では将来のことを見据えて、動物に閉鎖的な社会の打破を目指してさらに「新しい理念」を盛り込んではどうかとの発言があった。
話題の対象となった動物はほぼ愛玩動物(イヌ・ネコ)であり、第2部の最後でわずかに実験動物がとりあげられ,動物実験についても触れられた.
講演内容へのフロアからの質問あるいは発言も4〜5件あったが,時間的制約から,各愛護団体は十分な発言の機会を得ることができないようであった.
自民党環境部会鈴木恒夫会長はじめ2〜3の衆議院議員および市民の会からのメッセージおよび祝電が紹介された.
青木獣医師より法改正を推進する裏方の立場から、議員立法の法改正には議員を個別訪問して論理的に説明する必要があり、党派を越えて知り合いの議員さんを紹介して欲しいとの要望がのべられ,最後に、司会者か動物の法律の改正をゼロ(0)からのスタートと位置付けて本日のシンポジウムの開催にこぎつけたが、今日の会場の熱気から察するとイチ(1)のスタートになったと締めくくった。
個人的な見解ではあるが,参加した愛護団体にはそれぞれの活動方針および主張があるようで,動物保護法の改正の内容に関しても各団体の思惑が反映した結果,闇鍋(やみなべ)的改正案になったものと思われる.以下に吉田氏の基調講演その他を記述する.
吉田氏の基調講演の内容:
【現行法制定の経緯および今回の改正を求める流れ】
昭和48年当時は捕鯨問題で日本が世界からバッシングを受けていた頃であるが,その前後に英国首相やエリザベス女王の訪日,天皇の訪英があり,日本としても先進諸国に伍する動物福祉法が必要であった.そのため急遽議員立法で動管法が成立した.したがって,第1条(目的)および第2条(基本原則)を見る限りにおいては先進諸国からの評価にも十分耐えるものであるが,それはあくまでも努力目標であり,国民に是非とも守らせるという姿勢に乏しく実効性のない法律である.しかし,昨今は動物に対する国民の理解と愛情が深まり,動物の遺棄,虐待に対して厳しい批判があるため,現在の動管法では国民感情にあわなくなっている.また,日本は動物に関する法律が先進諸国に比べ少ないこともあり,動管法も含めて動物に関連する様々な法律を充実させていく必要がある.このところの動物虐待報道の増加、ボランティア活動の社会での根付き、官僚の社会への抵抗?の減弱(歩み寄り)等の追い風は,動管法改正の未曾有のチャンスである.
【改正案の内容および改正に対する戦略】
連絡会議が作成した動管法改正案は,改正したい中身をいろいろ盛り込んだために具沢山だか、改正の焦点がぼやけており闇鍋(やみなべ)的改正案となっている.現行法に全部盛り込みたい意欲はわかるが、この際はあまり欲張らず是非とも改正したいものを絞りこみ、その他のものに関しては関連する法律(基準?)において要求して行くべきである.特に,動物の保護中心なのか管理中心なのかについて内容を整理して,一般の人々さらには国会議員に理解してもらえる改正案ににすべきである.
【動物の位置づけ(動物は物か物でないか)】
日本の法律には「人」であるか「物」であるかの2分法の概念しかない.そのため,現行法では動物は「物」として取り扱われている.しかし,動物の目線で物事を考えるとき,現行法を3分法にし「人」,「動物」,「物」の3つに区分することが最も重要である.ドイツではすでに動物は「物」ではないとする法律の条文をもっている.もっともドイツにおいてもこの条文は何物かといった議論のあるところであるが,とにかく2分法を捨てて3分法をとっている.
【動物の目線から見た動管法】
動物の法律を考える場合,人の目線で考えるか,動物の目線で考えるかの2つがある.人の目線で考えるとは,人の利益を中心としたものであり,産業動物や実験動物に見られるように動物の多少の犠牲はやむを得ないとするものである.動物の目線で考えるとは,動物に関わる人の立場がどうあれ人に基本的人権があるように動物にも基本的な権利があるとするものである.これまでは人の利益を中心とし過ぎた法律でが作られていたが,先進諸国では人の目線を基本にしつつ,その範囲で可能な限り動物の目線で考える法律が作られているが,日本ではその点が先進諸国に比べて劣っているのではないか.
最後に,ペットに開かれた社会、ペットにやさしい社会を目指して社会の仕組みを変えて行こうとの訴がなされた。
小原氏の動物と人との係わり方についての内容:
動物の生命を尊重するに当たっては動物の習性を理解し、その固有の習性の違いを認めた上で、その動物の目線で接する必要性のある.また,人間は地球上の自然資源を消費しなければ生きていけない動物であるが,その消費に関してどこで線を引くかについての個々人の判断が今後必要になってこよう.例えば食肉の対象として魚まではOK、カエル以上は不可というような線引きであるが,この考えは食料としての選択にとどまらず,業を営む人間はそれぞれの立場で動物の利用に対して線を引く必要があろう.そう言った意味において,動物を管理するのではなく、ヒトの考え方を管埋する新しい文化/文明の創造が必要である。
エリザベス・オリバー女史の追加発言:
エリザベス・オリバー女史より神戸での動物救済活動の現状が紹介された.動物の引き取りを求める問い合わせが多いが、1団体の活動では収容能力に限界があって期待?に応えられない空しさを感じるとの所感が述べられ.また,日本と諸外国とでは家庭で飼育が困難になった動物に対して取り組みに違いのあることが指摘された。これらの動物について公的機関での対応を要望する発言には会場から拍手があった.
パネラーの小原氏より会場の聴衆に向けての質問:
上記事項に対するイエス・ノーを挙手による意思表示でQ:「あなたの動物を避妊した上で飼育しますか?」との問いかけに、A:中年女性を中心にほぼ大多数が挙手し、続いて「避妊しないで飼育する」の問いに男性2人ほどが挙手したところ「ど一お一してえ一」との怒号(罵声か)が会場内を飛び交った。
児童作家の井上女史が発言:
最近「星空のシロjを刊行したが、子供達に夢を育んでもらうことと現実の社会での(残忍な)出来事を知らせることの落差・矛盾を感じる悩みが披瀝された。
講演内容へのフロアからの質問:
- 他人の飼育動物(ネコ)の出す排泄物による迷惑にはどう対処すべきか?
- 鳥獣保護法も改正されることを突然知らされたが,その改正に対する反対運動を起こすにあたり大変苦戦している.どう対処すべきか?<とにかく理性ある対応がよいと思っている、との質問者の意見表明には会場から拍手あった>
文責 千葉大学 伊藤、秋田大学 松田