1. 1 | 通常の動物に施される実験処置による重症度を判断する前に,観察者は,実験に使用する動物種の行動様式,解剖学,生理学そして飼育環境,たとえば成長率,飼料摂取量,微生物学的 環境などについて知る必要がある。 |
1. 2 | 実験処置による影響をもっとも受けやすい動物の体組織について,特別の配慮をしなければならない固型腫瘍には,潰瘍形成,それを覆う組織の伸展そして悪液質を伴う。腹水腫瘍 の場合,腹部膨満,貧血および悪液質が重要となる。リンパ腫からのリンパ系への影響ならびに脳腫瘍による神経障害は,ある特定の状況における特別の合併症が起きる例である。 |
1. 3 | 正常の状態から起こるある障害を観察 することが困難な場合もある。たとえば,貧血の出現,移転の発生などである。そのため,それらを検出する特別な検査が必要となる。 |
1. 4 | 腫瘍とそれら治療の各々の影響を区別 できるように,つねに適当な対照動物をおくべきである。 |
2. 1 | 既知の腫瘍生物学に対する考慮がなされるべきである。自然発生および移植腫瘍に関して重要な点は,成長率,侵入性,伸展,潰瘍形成,移転,部位および悪液質要因の産生などである。 |
2. 2 | 発癌物質,ウイルスあるいは遺伝子操 作によって誘導される腫瘍の場合,誘発方法といった要因は,生じる腫瘍の性質,位置に影響を与える。 |
2. 3 | 腫瘍細胞の継代細胞へのウイルスや細 菌の混入は,実験治療中の動物のあいだに病気を発生させ,成績を混乱させる。継代細胞へのげっ 歯類ウイルスの汚染を検索することは,強く推奨される。たとえば,センダイウイルスはしばしば 試験管内で細胞融合に使用されるが,マウス,ラットに病原性をもつ。ヒトの病原体で汚染してい る可能性があるヒト由来の腫瘍組織片を接種された免疫不全動物から,研究者が感染する可能性もある。このような場合,継代細胞の準備と動物の汚染対策の両方に関し,特別な設備が考慮されるべきである(ビニールアイソレータなど;ヒト腫瘍の移植に関する UKCCCR ガイドライン, 1980 を見よ)。 |
3. 1 | 腫瘍実験においてend pointを決めるにあたっては十分な配慮が必要である。それには,痛み,苦痛あるいは正常動物の行動とは大きく異なる反応を注意深く観察すべきである。そして 研究計画ライセンスに特別な記載がないかぎり,以下に示す状態になる 前に,動物を安楽死させるべきである。
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3. 2 | 限局性の固型腫瘍の場合,治療効果の情報は,一定期間の腫瘍重量測定によるよりも,腫瘍の再発の遅れあるいは病理組織学的検査 (clonogenic assay) によって得られる。この後者の方法は,困難であるかも知れない。なぜなら,対照とする腫瘍が極端に大きくなる前,あるいは宿主動物を苦しめる前には,処置 された腫瘍の至適縮小が得られないかもしれないからである。このような実験系を使用しなければ ならない場合,腫瘍重量は,3. 1節に示されたように規制されるべきである。 | ||||||
3. 3 | 固型腫瘍を接種する場所の選択にも配慮する必要があり,特別な感覚部位を避け,また腫瘍が増殖するための空間が限られるような場所には,とくに注意が払われるべきである。そういった意味で、背あるいは脇腹の皮下,皮内で腫瘍が増殖しても苦痛はより少ない(容認できる)と考えられる。しかし、足蹠内,尾,脳および目へ腫瘍を移植する場合には,動物に苦痛を与えることについての正当性を特に主張する必要がある。筋肉組織の伸展は一般に苦痛を伴い,腫瘍の筋肉内接種は熟考されるべきである。体の複数の場所を移植に使用するときは,特別の注意を払わなければならない。 | ||||||
3. 4 | 特別に正当な理由がないかぎり動物の死をもってend pointとすることはできるだけ避けるべきである。そのようなend pointを腹水症あるいはびまん性腫瘍をもった動物に適用しなければならない場合,特別の配慮をとるべきである。一般に,死を待つばかりの動物を放置しておくことは受け入れられない。もし,研究計画ライセンスに特別の記載がないなら,瀕死の動物は安楽死されるべきである。 | ||||||
3. 5 | 腫瘍増殖を抑える抗癌剤の効果を評価する実験においては,それが困難な場合がままある。これら毒性の高い薬は腫瘍の悪影響と複合することがある。そのような場合ヒトでみられる治療による寛解傾向を予測することによって評価することができる。このような実験の成績は不確実となり,十分検討がなされないうちに動物を処分することによって実験目的を曖昧にしてしまうかもしれないが,結果がかなり予測できる場合,瀕死になりはじめた動物は処分されるべきでる。 | ||||||
3. 6 | 宿主における腫瘍の副作用は,腫瘍生物学,増殖の場そして型,使用した処置の性質によるから,宿主が受け入れられる腫瘍重量の上限に関しては正確な定量的指標を明示できない。し かし,腫瘍重量は,通常,宿主動物の正常な体重の10%を越えるべきではない。けれども,より小さな腫瘍重量で問題点が生じるかもしれないことを強調しておく。 | ||||||
3. 7 | ハイブリードマなど腹水腫瘍をもった動物では,腹水の量が過度にならないように,腹部の著しい膨満そして充実性組織の蓄積,悪液質か臨床上問題にならぬよう注意が払われなければならない。マウス,ラットでは,腹水量は,通 常,正常体重の20%を越えてはならない。退役動物は,腹部筋組織の不快感なしに多量の腹水の貯留に耐えるので,モノクローナル抗体の産生には有利である。腹水腫瘍は,通常,一度の吸引にすべきである。これは,感染の危険を減少させると同時に,充実性腫瘍の蓄積が多くなること,腹腔 への出血,悪液質になる危険性を減らす。全身麻酔は,つねに使用すべきである。 | ||||||
3. 8 | 成熟したげっ歯類を用いた腫瘍の治療実験は,治療開始時の体重減少が通常の宿主体重の20%を越えないことが望ましい。より若い動物では,無処置対照動物で見られる体重増加を維持することができないことを,毒物が投与されて毒性が発現した状態と考えるべきである。 | ||||||
3. 9 | 腫瘍をもった動物にも,既知の適切な一般飼育条件,あるいは適当な床敷,ケージの構 造,飼料そして水の摂取しやすさなどを配慮し,注意が払われるべきである。 | ||||||
3. 10 | 人道的end pointおよびその他の実験処置は,経験に照らして改善すべきである。 |
4. 1 | 動物の痛みあるいは苦痛の徴候を観察 しなければならない回数や各検査の範囲は 以下によって規定される。
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4. 2 | 急速に増殖したり侵入する腫瘍は,より多くの注意が必要であり,腫瘍重量が増加した場合は一層多くの配慮が必要となる。 | ||||||
4. 3 | 最少限度,腫瘍をもったすべての動物 は毎日観察すべきで,さらに,より詳しい検査が適宜とり入れられるべきである。動物が苦しむ可能性が予測できるその危険期間では,詳しい検査 の実施回数を増やすべきである。職員不在時にそれらが起こらないよう,実験計画は確実なものにすべきである。健康状態のよくない動物には,とくに注意が払われるべきである。 | ||||||
4. 4 | 動物の検査の適切な評価手技は,以下のようなものである。外見,姿勢,体温,行動, 生理学的反応などを含む全般的臨床症状の検査;飼料および水の摂取の評価;体重の変化を検査す る体重測定(対照と比較した正および負両方の変動とも腫瘍重量の増加に関連している);腫瘍の堆積あるいは重量の決定のためのニギス測定;腫瘍の拡大,潰瘍形成,可動度検査ならびに腫瘍増殖の位置を定めるための視診および触診 | ||||||
4. 5 | 他の特別の試験手技は,特定の場所の腫瘍に対してより価値がある。たとえば肺腫瘍に対する呼吸数,脳腫瘍に対する神経障害,そして白血球に対する血液細胞の算定などである。開腹術あるいは内視鏡検査は,ある場合には適切である。血流中の腫瘍マーカー物質の定量もまた価値がある。動物の解剖は,外部からの検査によって検出できない副作用を明らかにする。 |
5. 1 | 研究者は,実験室で使用する各腫瘍の型,および治療などの多様の実験条件下での予期される宿主動物および腫瘍動物の行動について,実験計画文書に明白に記載することが求められている。研究者は,また腫瘍の急性,慢性毒性そして腫瘍最大重量に関する重症度の限界および人道的臨終についても記載すべきで,実験に使用した各腫瘍のモデルを用いることにより起こる問題についても記述すべきである。このような問題に対する適切な対処法を記載すべきで,また問題が起こった場合に指導を受けるための連絡網および責任の所在を明白にすべきである。意志決定を容易にするため,たとえば中堅職員と連絡するとき,動物を処分するときなどのため,数値を記録するシステムの導入を考慮すべきである。特別な腫瘍のモデルに関するガイドラインは,それら腫瘍モデルに関するすべての研究者および動物飼育職員の間で合意され,ただちに閲覧できるようにすべきである。すべての実験方法は,下級職員や臨時職員にも理解できるようとくに配慮すべきである。研究者は,また腫瘍細胞株を分与するときなどにおいては,同じ系を使用する他の研究グループに自己の知識を与えることがのぞましい。 |
5. 2 | 研究者は,適当な雑誌に実験動物の人 道的臨場の改善点について,その知識を広めるため発表することが奨励される。 |
5. 3 | 実験調書の動物福祉の声明を組み込む ことを勧める。そして,さらにそれら実験成績を 発表することが結果的に決まった場合,ここに示 したこれらのもの,および他の適当なガイドライ ン(どんなに小さなものも含む)に同意している ことを報告することが望まれる。ある雑誌は, これを要求している(例: British Journal of Rediology. Cancer Research, Journal of the National Cancer Institute). |