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First Edition (1988)
Second Edition (1997)

この文書は日動協海外技術情報を基に作成しました。

腫瘍実験における動物の福祉に関する英国癌研究調整委員会(UKCCCR)指針

UKCCCR Guidelines for the Welfare of Animals in Experimental Neoplasia

−無署名記事−


このガイドラインは,以下のメンバーからなる臨時委員会によって英国癌研究調整委員会のため に作られた。

背景と展望

 限局性あるいはびまん性腫瘍をもった動物は, 痛みや苦痛を感じていると思われる。そこで,それらの動物の福祉を考慮したライセンスならびにその他諸々のことがらから,特別な看護および配慮がなされることになる。外科的処置,放射線照射および薬剤投与等に関連した種々の手技は,実験処置の苦痛を増加させる可能性がある。これらのことを認識して,主な癌研究基金や医学研究評議会(MRC)を代表する英国癌研究調整委員会(UKCCCR) は,実験腫瘍研究で動物を使用する研究者のために以下のガイドラインを策定した。とくに強調されるのは,実験によって生じるであろう副作用の予知と認識,そしてその動物の人道的end pointの設定である。この分野の研究では,主に小動物,とくにげっ歯類が実験に利用されている。そのため結果的に大部分はこれらげっ歯類に対するガイドラインとなった。しかし,一般原則は,すべての動物種に当てはまるものである。

 われわれは,動物を使用しない研究の展開を是認し,奨励するものであるが,一方で,in vivoで成長する腫瘍の研究によってのみ答えることのできる多くの問題が存在していることも認識している。実験動物の一般的な福祉と使用の規制には,両方とも,(科学的使用)動物法(1986) が適用される。この法律は,1987年1月1日より施行されている。この法律下では,痛み,苦痛,苦悩あるいは障害を知覚できる可能性のある脊椎動物に対するすべての科学実験は内務省によって管理されており,個人(personal)ライセンスおよび研究計画(project) ライセンスによる特別の許可が必要である。実験動物の飼育管理についての勧告は,英国学士院/UFAWガイドライン (Part 1, 1987) に詳しい。
 さらに次ぎの文献は,一般の動物の飼育および実験技術に対してのアドバイスとして推奨される。 Gay (1965); Fowler(1978); Tuffery (1987); Institute of Animal Technology (印刷中) 。

 われわれは,新しい動物の法律および英国学士院/UFAW のガイドラインを歓迎し,より多くのガイドラインが各分野の専門家から公表されることを期待している。現行のガイドラインは,動物に腫瘍を増殖させる実験を行っている研究者に普遍的 な価値があると思われる。たとえその腫瘍が自然発生であっても,移植によって生産されたものであっても(継代,ハイブリドーマを含む) ,あるいは発癌物質,遺伝操作によったものであっても,それらは,研究計画ライセンスを申請する際の助けになるであろう。とくに研究計画ライセンス申請の19b(v と vi)で要求されているような,申請者が考えつく副作用の列挙とその発生頻度,さらに苦痛をやわらげる方法,たとえば鎮痛薬,全身あるいは局所麻酔薬および鎮静薬の使用,人道的end pointの実行について記述する際に役立つ。

 現行ガイドラインの重要な点は,癌研究における動物実験の実施方法,とくに人道的end pointについては,絶えまなく洗練された方法を講ずることを条件としていることである。そのため,このガイドラインは,その時代に応じて適当なものに修正され,そして更新されていくと思われる。このガイドラインは,絶対的なものではない。“すべき” (should)という語は,望ましい基準を達成させる意味で使用し,“しなければならない”(must) という語は,法的な義務が適用される場合のみに使用している。

  勧告は,2部より構成されている。法的に規制されているすべての処置に適用される一般的な勧告と,実験腫瘍に特徴的な問題により直接的に目的を絞った特殊勧告である。とくに人道的end pointに関して,技術的ガイドラインが,個々の実験腫瘍モデルの正確な性質に合わせて変更しなければならないと力説されていることは重要である。これを説明するために,付記において,特定の腫瘍の系に関していくつかの基準の例をあげている。

勧  告
一般勧告
  1. 以下の勧告は,つぎの前提を基準にしている。すなわち,各研究で使われる実験手段によっ て起きる動物の副作用とその研究で得られる利益を比較している。将来,癌研究が利益をもたらす であろうことは明白である。それでもやはり,実験動物を使用しない代替法使用の可能性を考慮すべきである。in vitroの細胞継代株は,多くの癌研究に適用できる可能性がある。

  2. 動物を使用せねばならない場合は,麻酔薬および鎮痛薬の慎重な投与と洗練された実験手技を用い,人道的end pointを早期に行うことによって,動物が感じる痛みおよび苦痛の程度を最少としなければならない。ライセンスを所持している者は,各規制された手技に対する重症度分類 (すなわち軽度,中間,重度あるいは区分不能)を知らなければならない。その重症度分類は,申請者と内務省の間での合意によって決められており,その実験方法そのものは,その実験によって起こりやすい副作用の性質および発生頻度を考慮し,いかなる実験方法も実験動物に与える苦痛を最少にすることをつねとする。個人ライセンスおよび研究計画ライセンスにおける重症度の要件としては,もし複数の重症度分類に抵触するかあるいはそれが条件を越えてしまいそうな場合,個人ライセンス所持者は,研究計画ライセンス所有者に届け出ることが要求されている。そして,研究計画ライセンス所有者は,できるだけ早い時期に内務省査察官に届けなければならない。さらに,すべての個人ライセンスでは,臨終の条件に適合しており,かつ個人ライセンス保持者が動物の呈する厳しい痛み,激しい苦悩を緩和することができない場合,容認されている痛みのない方法でその動物を直ちに安楽死させることが要求されている。

  3. ある実験方法が特定の事例の原因となる場合,研究計画ライセンスの申請諸には,これらのことをとくに記さなければならない。この場合,実験動物の苦痛の限界のより詳細な正当性およびその定義が必要となる。また,このような実験方法の場合,実験に使用する動物の数,あるいは与える苦痛を規制するため,条件を個人ライセンスにさらに付加させることがある。さらに内務省は,それらについて特別の報告を要求する場合がある。

  4. 新しい実験方法が大規模に実行される前に,少ない動物数で予備実験を行うべきである。 予備実験では,特定の問題を見つけ,動物の危険な状態の時間的基準を明確にし,また適切な臨終 を迎えさせる助けとすべきである。すべての実験において,使用する動物数は,実験の計画および 目的に合った最少の数に限定すべきである。

  5. 実験に関与するすべての職員は,自分たちの個々の責任を理解すべきであり,また実験に関 して相談する場合のため,明白な連絡網を確立すべきである。想定されるすべての環境下でいかな る問題が起きようとも,たとえば腫瘍をもった動物の臨床症状の予期せぬ悪化があった場合,あるいは腫瘍と治療処置の動物への影響が区別困難な場合など,適切な処置がすばやく実施されるよう な意志決定方法を計画すべきである(3,5節を 参照)。

  6. 実験に関与するすべての職員は,適切な訓練と指導を受けるべきである。研究者は,不慣れな手技を使用して実験を行う場合,科学文献からと同様,経験豊富な同僚からも知識と指導を受けるべきである。
特殊勧告
  1. 重症度の判断
    1. 1通常の動物に施される実験処置による重症度を判断する前に,観察者は,実験に使用する動物種の行動様式,解剖学,生理学そして飼育環境,たとえば成長率,飼料摂取量,微生物学的 環境などについて知る必要がある。
    1. 2実験処置による影響をもっとも受けやすい動物の体組織について,特別の配慮をしなければならない固型腫瘍には,潰瘍形成,それを覆う組織の伸展そして悪液質を伴う。腹水腫瘍 の場合,腹部膨満,貧血および悪液質が重要となる。リンパ腫からのリンパ系への影響ならびに脳腫瘍による神経障害は,ある特定の状況における特別の合併症が起きる例である。
    1. 3正常の状態から起こるある障害を観察 することが困難な場合もある。たとえば,貧血の出現,移転の発生などである。そのため,それらを検出する特別な検査が必要となる。
    1. 4腫瘍とそれら治療の各々の影響を区別 できるように,つねに適当な対照動物をおくべきである。


  2. 腫瘍の生物学
    2. 1既知の腫瘍生物学に対する考慮がなされるべきである。自然発生および移植腫瘍に関して重要な点は,成長率,侵入性,伸展,潰瘍形成,移転,部位および悪液質要因の産生などである。
    2. 2発癌物質,ウイルスあるいは遺伝子操 作によって誘導される腫瘍の場合,誘発方法といった要因は,生じる腫瘍の性質,位置に影響を与える。
    2. 3腫瘍細胞の継代細胞へのウイルスや細 菌の混入は,実験治療中の動物のあいだに病気を発生させ,成績を混乱させる。継代細胞へのげっ 歯類ウイルスの汚染を検索することは,強く推奨される。たとえば,センダイウイルスはしばしば 試験管内で細胞融合に使用されるが,マウス,ラットに病原性をもつ。ヒトの病原体で汚染してい る可能性があるヒト由来の腫瘍組織片を接種された免疫不全動物から,研究者が感染する可能性もある。このような場合,継代細胞の準備と動物の汚染対策の両方に関し,特別な設備が考慮されるべきである(ビニールアイソレータなど;ヒト腫瘍の移植に関する UKCCCR ガイドライン, 1980 を見よ)。


  3. 人道的 end point
    3. 1腫瘍実験においてend pointを決めるにあたっては十分な配慮が必要である。それには,痛み,苦痛あるいは正常動物の行動とは大きく異なる反応を注意深く観察すべきである。そして 研究計画ライセンスに特別な記載がないかぎり,以下に示す状態になる 前に,動物を安楽死させるべきである。
    (i)確実な死が予測されるとき
    (ii) 動物が非常に悪い状態に陥っているとき
    (iii) 腫瘍塊が極端に大きくなり,潰瘍が形成 されやすくなったり,あるいは正常な行動が著しく制限されている場合
    3. 2限局性の固型腫瘍の場合,治療効果の情報は,一定期間の腫瘍重量測定によるよりも,腫瘍の再発の遅れあるいは病理組織学的検査 (clonogenic assay) によって得られる。この後者の方法は,困難であるかも知れない。なぜなら,対照とする腫瘍が極端に大きくなる前,あるいは宿主動物を苦しめる前には,処置 された腫瘍の至適縮小が得られないかもしれないからである。このような実験系を使用しなければ ならない場合,腫瘍重量は,3. 1節に示されたように規制されるべきである。
    3. 3固型腫瘍を接種する場所の選択にも配慮する必要があり,特別な感覚部位を避け,また腫瘍が増殖するための空間が限られるような場所には,とくに注意が払われるべきである。そういった意味で、背あるいは脇腹の皮下,皮内で腫瘍が増殖しても苦痛はより少ない(容認できる)と考えられる。しかし、足蹠内,尾,脳および目へ腫瘍を移植する場合には,動物に苦痛を与えることについての正当性を特に主張する必要がある。筋肉組織の伸展は一般に苦痛を伴い,腫瘍の筋肉内接種は熟考されるべきである。体の複数の場所を移植に使用するときは,特別の注意を払わなければならない。
    3. 4特別に正当な理由がないかぎり動物の死をもってend pointとすることはできるだけ避けるべきである。そのようなend pointを腹水症あるいはびまん性腫瘍をもった動物に適用しなければならない場合,特別の配慮をとるべきである。一般に,死を待つばかりの動物を放置しておくことは受け入れられない。もし,研究計画ライセンスに特別の記載がないなら,瀕死の動物は安楽死されるべきである。
    3. 5腫瘍増殖を抑える抗癌剤の効果を評価する実験においては,それが困難な場合がままある。これら毒性の高い薬は腫瘍の悪影響と複合することがある。そのような場合ヒトでみられる治療による寛解傾向を予測することによって評価することができる。このような実験の成績は不確実となり,十分検討がなされないうちに動物を処分することによって実験目的を曖昧にしてしまうかもしれないが,結果がかなり予測できる場合,瀕死になりはじめた動物は処分されるべきでる。
    3. 6宿主における腫瘍の副作用は,腫瘍生物学,増殖の場そして型,使用した処置の性質によるから,宿主が受け入れられる腫瘍重量の上限に関しては正確な定量的指標を明示できない。し かし,腫瘍重量は,通常,宿主動物の正常な体重の10%を越えるべきではない。けれども,より小さな腫瘍重量で問題点が生じるかもしれないことを強調しておく。
    3. 7ハイブリードマなど腹水腫瘍をもった動物では,腹水の量が過度にならないように,腹部の著しい膨満そして充実性組織の蓄積,悪液質か臨床上問題にならぬよう注意が払われなければならない。マウス,ラットでは,腹水量は,通 常,正常体重の20%を越えてはならない。退役動物は,腹部筋組織の不快感なしに多量の腹水の貯留に耐えるので,モノクローナル抗体の産生には有利である。腹水腫瘍は,通常,一度の吸引にすべきである。これは,感染の危険を減少させると同時に,充実性腫瘍の蓄積が多くなること,腹腔 への出血,悪液質になる危険性を減らす。全身麻酔は,つねに使用すべきである。
    3. 8成熟したげっ歯類を用いた腫瘍の治療実験は,治療開始時の体重減少が通常の宿主体重の20%を越えないことが望ましい。より若い動物では,無処置対照動物で見られる体重増加を維持することができないことを,毒物が投与されて毒性が発現した状態と考えるべきである。
    3. 9腫瘍をもった動物にも,既知の適切な一般飼育条件,あるいは適当な床敷,ケージの構 造,飼料そして水の摂取しやすさなどを配慮し,注意が払われるべきである。
    3. 10人道的end pointおよびその他の実験処置は,経験に照らして改善すべきである。


  4. 動物の検査
    4. 1動物の痛みあるいは苦痛の徴候を観察 しなければならない回数や各検査の範囲は 以下によって規定される。
    (i) 既知の腫瘍生物学および(あるいは)発癌誘導因子の影響
    (ii)使用した手技の影響
    (iii) 動物の臨床状態の変化
    4. 2急速に増殖したり侵入する腫瘍は,より多くの注意が必要であり,腫瘍重量が増加した場合は一層多くの配慮が必要となる。
    4. 3最少限度,腫瘍をもったすべての動物 は毎日観察すべきで,さらに,より詳しい検査が適宜とり入れられるべきである。動物が苦しむ可能性が予測できるその危険期間では,詳しい検査 の実施回数を増やすべきである。職員不在時にそれらが起こらないよう,実験計画は確実なものにすべきである。健康状態のよくない動物には,とくに注意が払われるべきである。
    4. 4動物の検査の適切な評価手技は,以下のようなものである。外見,姿勢,体温,行動, 生理学的反応などを含む全般的臨床症状の検査;飼料および水の摂取の評価;体重の変化を検査す る体重測定(対照と比較した正および負両方の変動とも腫瘍重量の増加に関連している);腫瘍の堆積あるいは重量の決定のためのニギス測定;腫瘍の拡大,潰瘍形成,可動度検査ならびに腫瘍増殖の位置を定めるための視診および触診
    4. 5他の特別の試験手技は,特定の場所の腫瘍に対してより価値がある。たとえば肺腫瘍に対する呼吸数,脳腫瘍に対する神経障害,そして白血球に対する血液細胞の算定などである。開腹術あるいは内視鏡検査は,ある場合には適切である。血流中の腫瘍マーカー物質の定量もまた価値がある。動物の解剖は,外部からの検査によって検出できない副作用を明らかにする。


  5. 実験計画文書そして論文発表
    5. 1研究者は,実験室で使用する各腫瘍の型,および治療などの多様の実験条件下での予期される宿主動物および腫瘍動物の行動について,実験計画文書に明白に記載することが求められている。研究者は,また腫瘍の急性,慢性毒性そして腫瘍最大重量に関する重症度の限界および人道的臨終についても記載すべきで,実験に使用した各腫瘍のモデルを用いることにより起こる問題についても記述すべきである。このような問題に対する適切な対処法を記載すべきで,また問題が起こった場合に指導を受けるための連絡網および責任の所在を明白にすべきである。意志決定を容易にするため,たとえば中堅職員と連絡するとき,動物を処分するときなどのため,数値を記録するシステムの導入を考慮すべきである。特別な腫瘍のモデルに関するガイドラインは,それら腫瘍モデルに関するすべての研究者および動物飼育職員の間で合意され,ただちに閲覧できるようにすべきである。すべての実験方法は,下級職員や臨時職員にも理解できるようとくに配慮すべきである。研究者は,また腫瘍細胞株を分与するときなどにおいては,同じ系を使用する他の研究グループに自己の知識を与えることがのぞましい。
    5. 2研究者は,適当な雑誌に実験動物の人 道的臨場の改善点について,その知識を広めるため発表することが奨励される。
    5. 3実験調書の動物福祉の声明を組み込む ことを勧める。そして,さらにそれら実験成績を 発表することが結果的に決まった場合,ここに示 したこれらのもの,および他の適当なガイドライ ン(どんなに小さなものも含む)に同意している ことを報告することが望まれる。ある雑誌は, これを要求している(例: British Journal of Rediology. Cancer Research, Journal of the National Cancer Institute).
要約および結論


このガイドラインの将来版への照会と要望は,下記へ願いたい。 The Secretariat, UKCCCR, The Medical Research Council, 20 Park Crescent, London W 1 N 4 AL, UK.

付 記

以下の腫瘍の系の例を説明のために示す。
  1. RIF-L のマウス肉腫。これは C 3 H/Km マウスに移植可能な肉腫で,放射線および化学療 法研究に広く使用されている (P. R. Twentyman et al.J.Nat.Camcer Inst.64, 595, 1980)。細胞培養でも維持可能で, in vivo では,脇腹の皮膚の移植組織片を皮内あるいは後肢の筋肉内に接種することによって固型腫瘍として増殖する。固型腫瘍の治療効果決定に使用するend pointは,クローン的生存(clonogenic survival),再発遅延および腫瘍の治療である。通常,肢の直径が約16mmに達したとき,肢の腫瘍を使用した再発遅延実験を終了させる。この時点で腫瘍重量は約3gあるいは体重の約10%,そして宿主動物は他の面では正常である。増殖遅延は,処置した大きさが4倍に達する時間から決定される。移転は,遅れて発現するか稀れである。

  2. DMBA誘導ラット乳腺腫瘍 (C. Huggins et al.J.Exp. Med.109, 25, 1959) 。この腫瘍の人道的end pointの設定は非常に困難である。腫瘍の数量的増加と相対的な増殖率ともに異型性が強く,そのために個々の動物の腫瘍重量の差異が大きい。連日の詳細な腫瘍の観察が必要で,集積した腫瘍塊,より大きな腫瘍のサイズと状態,また動物の一般的健康状態を基礎に総合的な判定がなされなければならない。多くの小さな腫瘍では, それらを集めた腫瘍重量が体重の10%を超えても動物は耐えるが,単一の大きな腫瘍では急速な悪化を招き,人道的な安楽死を必要とする。

  3. MAC16マウス大腸腺癌。これは,NMR 1マウスの脇腹の皮下で普通に増殖する移植可能な腫瘍である(M.C. Biby et al. J. Nat. CancerInst. 78, 539, 1987)。30g のマウスでは,最初の腫瘍重量が約100mg で接種後7〜14日間増殖し続けている場合,悪液質が進行し,体重が減少するので非常に興味深い。宿主マウスは,この期間 を過ぎても正常に摂食し続ける。MAC16腫瘍を使用した実験の主な困難さは,同じような重量の腫瘍をもつ動物の間で悪液質の反応性が異なることである。このため,移植時およびその後個別に毎日体重を測定する。マウスの体重減少が20〜40% (最大) になったとき,安楽死させる。この注意深い観察方法は,悪液質による死を防ぐ。

  4. L 1210マウス白血球。これは腹水腫瘍として普通の増殖を示し,抗癌剤の評価に使用される(R. I. Geran et al. Cancer Chemother. Rep.3, 1, 1972) 。この実験腫瘍に伴う困難さは,過去に広くsurvival end point(動物が死ぬまで実験を継続)を採用していた他の腹水腫瘍モデルと同じである。L1210性細胞接種数あるいは薬物処置後の生存細胞数とその後の動物の生存との間には,一般に相関関係がある。細胞 (通常105 − 106個) を,C57 BL×DBA/2F1 (BD2F1) マウスの腹腔に接種する。移植された105個のL1210細胞は,指数的に増殖し,約12時間で2倍になり,移植後8日以内に生命の危険を示す。徴候は,腹水による明らかな腹部膨満,呼吸困難,うずくまり,被毛の質の低下(とくに立毛)および 軽い緊張病である。動物が腫瘍増殖のこの状態に近づいた場合,腫瘍をもった動物を1日に2回検査し,その罹患程度について検討する必要がある。治療物質は,普通は観察下で腫瘍の移植24時 間後に投与され,またその後も投与される。しかし,実験計画は,その投与物質の毒性と腫瘍による罹患の徴候とが一時的に重なる可能性を避けるため,修正される可能性がある。

  5. げっ歯類腫瘍転移モデル。転移は,腫瘍を静脈内に人工的に接種するか,または,着床させた固型腫瘍の増殖したものを外科的にとり除くことで自然発生させて生じさせてもよい。これらのモデルにはB16 および他のメラノーマ,およびマウスにUV照射によって誘発させた線維肉腫などがある(M.L. Kripke et al. Cancer Res.38,2962, 1987) ,マウスが切迫した罹患状態になるまで待つ必要はない,早い直に安楽死させても必要な情報は得られるであろう。たとえば,肺腫瘍による呼吸困難など,転移がとくにおきやすい場所での臨床的に重要な病気による症状を発見するように,特別な注意が向けられるべきである。

  6. 化学的に誘導したラットの結腸癌。ある内 部器官の腫瘍は,外部検査によって検出するのは困難である。特別な診断技術を使用した例をあげると,ラットの大腸癌は内視鏡検査によって発見することができる(Mertz et al. Hepato-Gastroenterol. 28, 53, 1981; P. J. Hermanek & J. Giedl. Path. Res. Pract. 178, 548, 1984)。

  7. トランスジェニック動物の腫瘍。腫瘍遺伝子を導入または活性化させるとき,あるいはトラ ンスジェニック動物の受け入れ側に真に他の遺伝的変化をもたらすとき,問題が起こる可能性がある。とくに,このような遺伝的変化の結果を予測することは困難で,それらはとくに対象とする器官とは別の場で起っているかもしれない。この例,癌遺伝子 SV40T抗原をコードしている配列 呼びだすマウスの αA-クリスタリンプロモータ ーを含むハイブリッド遺伝子をもつトランスジェニックマウスで起きている。レンズ腫瘍が予測されるのみならず,さらにいくつかの動物からは,中のいろいろな場から非レンズ系腫瘍が増殖する (K. A. Mahon et al. Sci.235, 1622. 1987) 。それゆえに,このような関連する続発症を確認 し,また適当な方法をとるような特別な配置をしなければならない。
[Laboratory Animal. 22(3), 195-201, 1988] *キーワード イギリス,総説,福祉
訳 松田幸久

倫理的動物実験