平成25年度実験動物慰霊式


 平成25年度秋田大学動物実験慰霊式が10月2日(水)午後4時から動物実験部門玄関脇にある実験動物慰霊碑前において開催されました。 朝から天候が気になりましたが、雨にもあわず 113名の参加者が集まり、動物実験に使われた動物たちの御霊に感謝の意が捧げられました。

  1. 開式の辞
  2. 挨  拶
    • バイオサイエンス教育・研究センター長 尾野 恭一 教授 
    • 医学研究科副研究科長 清水 徹男 教授 
  3. 黙  祷
  4. 慰霊のことば
    • 生体防御学講座 赤星 軌征 助教
  5. 献  花
  6. 挨  拶
    • 動物実験部門長 佐々木雄彦 教授
  7. 閉式の辞
          

バイオサイエンス教育・研究センター長挨拶

  お忙しい中を今日は実験動物慰霊式にご参集いただき本当に有り難うございます。毎年この時期にこうやって皆様にお集まりいただきますのは、日頃私どもが実験に使っている実験動物の御霊を弔いつつ、改めて動物実験を行う医学研究者としての心構えというか倫理観といったものを確認させていただくことだと理解しています。

  さて「動物愛護及び管理に関する法律」というのを皆さんはご存じでしょうか。この法律は5年ごとに見直されておりまして、平成18年に施行された法律が昨年改正され、今年の9月から施行されております。実はこの改正をめぐっては私たちには非常に大きな危惧がございました。動物愛護に関する社会の関心の高まりから、動物実験そのものがかなり制限を受けるのではないかということが心配されたわけです。幸いにも、各科学研究者の組織いわゆる学会であるとか、全国の医学部長あるいは病院長会議であるとか、多くの皆様方のご努力がございまして、今回の改正においては動物実験については殆ど以前と変わらないままでございました。非常に安堵しているところであります。ただ、だからといって動物実験がそのまま簡単に行えるかというとそうではございませんで、規程等の遵守について定期的な点検を行い、また可能な限り外部機関による検証を行うこと。そして検証結果をできるだけ社会に公表することが強く求められています。
  秋田大学におきましては2年程前に既に外部機関による検証を受けました。その結果、適正な動物実験がなされているという評価を受けておりますので、今のところは安心しております。動物実験を行っている皆様方には引き続き秋田大学動物実験規程を遵守していただきますように宜しくお願いいたしたいと思います。

  こうしたソフト面だけではなくてハード面におきましても今年は復興関連事業によりまして耐震用の飼育装置ならびに自家発電装置が整備されることになりました。皆様2年前の3.11を覚えていらっしゃいますでしょうか。この動物実験部門も停電にあいまして、実はその際には患者様のいる病院から断続的に電気を分けていただきながら、危機を乗り切ったという経緯がございます。今回は自家発電装置を自分たちで備えることができましたので、もしもの時には、適切に対応することができます。

  ただ、動物実験部門は常に24時間1年中空調機を始め設備機器が稼働しておりますので、機器の消耗やそれによる故障も多々ありますけれども、このような故障によって飼育に支障が出ないように佐々木部門長を中心と致しまして部門職員一同注意深く監視しているところであります。今後も設備の充実に関しては各関係方面に諮って行きたいと思いますのでどうぞ宜しくお願いいたします。

  先生方におかれましては医学・生物学の研究にとって動物実験は必要不可欠なものでありますので、本学におきましても引き続き秋田大学動物実験規程に基づいて適正な動物実験の実施に努めていただきますよう宜しくお願いいたします。本日はどうも有り難うございます。

平成25年10月2日         
バイオサイエンス教育研究センター長 尾野 恭一


医学研究科副研究科長挨拶

 本日はご多忙中のところ皆様にお集まりいただきまして有り難うございます。澤田研究科長が本日はサイエンスカフェに出席しておられますので、研究科長に代わりまして私からご挨拶させていただきます。

 精神科が実験動物といかなる関わりがあるのかと思われる方もいらっしゃるでしょう。先日TVで「居眠り先生」というドラマを見た方もいらっしゃるかもしれません。妻である夏目雅子を新婚1年足らずで亡くした伊集院静氏が精神的に不安定になっているとき、同じ直木賞作家である色川武大またのペンネームを浅田哲也氏との付き合いから精神的に救われたという話でした。

 浅田哲也さんはナルコレプシーを患っており、それでいつも居眠りをしている状況がTVでも映し出されていました。麻雀放浪記を書いた浅田氏ですが、麻雀でも自分の番が回ってくるまで居眠りをし、その都度起こされていたそうでございます。居眠りだけでなくナルコレプシーの患者さんには、喜んだり怒ったりすると身体の力が急に抜けるという不思議な症状カタプレキシーがあります。
 我々の教室では代々ナルコレプシーの研究を続けております。そのご縁で教室の神林准教授はスタンフォード大学のナルコレプシーセンターに留学されました。同センターでは常染色体性劣性遺伝するナルコレプシー犬のコロニーを維持しております。犬の種類はドーベルマンです。このコロニーを維持するには莫大な資金がいります。そこで戦力外通知を受けたナルコレプシー犬6匹を譲り受けまして、本学動物実験部門で飼育していただいておりました。

 といいましても実験に使ったわけではなく講義や実習でナルコレプシーの症状を学生に見ていただいておったわけでございます。そしてその講義は学生からも大変好評でした。普段の固形飼料ではなく上等のドッグフードを与えますと喜びのあまり腰の力が抜けて、そこにヘタッてしまう。その状況を学生さんに見ていただきまして、この不思議な病気について理解を深めていただいたわけです。しかし、それらの犬たちにも寿命があり、最後の1匹が昨年の1月に亡くなりました。そういうわけで当講座も実験動物にまったく無縁というわけではないのであります。

 本日の慰霊式に際し、亡くなったそれらの犬たちをはじめ実験動物の御霊に感謝の意をささげまして、私の挨拶とさせていただきます。

平成25年10月2日       
医学研究科副研究科長     
精神科学講座 清水 徹男   

慰霊のことば

 平成25年度秋田大学実験動物慰霊式に当たり、利用者を代表し、医学医療の発展ために尊い命を捧げていただいた多くの実験動物に対し、謹んで慰霊の言葉を述べさせていただきます。 平成24年度における本学動物実験部門において実験に使用された動物は、マウス62,281匹、ラット1,700匹、ウサギ132匹、モルモット153匹、ブタ2匹と合計64,628匹を数えました。 これらの実験動物により得られた成果は基礎医学、臨床医学、獣医学の分野の多岐にわたり、多くの論文や学会発表がなされました。また、9名の方が動物を用いた研究により本学で学位を取得しております。

 近年のめざましい医療の進歩は私たちがより健康に生活できるよう多くの恩恵を与えて参りました。具体的には、様々な疾患における新たな治療法、診断法、新薬の開発などが挙げられますが、これらは数多くの実験動物の犠牲の上に成し遂げられてきたことは言うまでもありません。私たちは、医療の発展のために犠牲となった多くの実験動物に対して、常に哀悼と敬意の念を忘れることがあってはなりません。
 マウスの行動解析を行いますと、彼らが優れた学習能力を持ち、合理的に行動する知性を持っていることが分かります。しかし時に不安や恐怖に囚われることもあれば、好奇心がそれにまさることもあるなど豊かな精神の働きを持つ存在であり、そのさまは観察者としての立場を越えて実に愛らしい存在であると感じます。

 
 動物愛護の立場から見れば、現代は動物と良い関係を保って共生していく社会を目指しており、 “医学の進歩には実験動物が不可欠である”という考え方は国際的にも厳しく見直される情勢にあります。このような背景の下、我々は分子生物学や培養細胞などを駆使した、実験動物に替わる新しい方法を積極的に取り入 れなければなりません。

 しかしながら、疾患の統合的な理解や医学研究に問われる治療における安全性を確保することは単純な系だけでは難しく、動物実験に頼らざるを得ない局面があることもまた事実です。実験動物を利用するにあたっては、我々研究者は無駄のない適正な研究計画を練り、実験手技の向上を目指し、動物たちの健康管理・苦痛低減を徹底していかなければなりません。その上で我々には、実験動物の命により得た研究成果を社会に還元する使命と、こうした医学の進歩の多くの部分を実験動物に依存しなければいけないことを 広く社会に周知し、理解を求めていく責務があり、そのことによって初めて動物への供養が果たされるものと考えます。

 最後に、本学における医学研究のために尊い命を捧げ犠牲となられた多くの実験動物に対し、謹んで感謝と敬意の念を表し、我々の健康や福祉が動物たちの命のうえに成り立っている事実を再認識して研究に従事していくことを誓い、慰霊の言葉といたします。

平成25年10月2日       
医学部生体防御学講座 赤星軌征

秋田大学医学部実験動物慰霊式