動物の保護及び管理に関する法律改正の動向と
それに対する対応


秋田大学医学部附属動物実験施設
松 田 幸 久   

 このところ動物の福祉について社会的な関心が高まっている.自民党環境部会では自然と人間の共生、大気環境、 水環境の改善をめぐる問題に取り組んでいるが,その環境部会の中に「動物保護法(動物の保護及び管理に関する法律[昭和48年10月1日法 律第105号])」の改正を検討するための「小委員会(動物愛護と管理に関する小委員会)」(小委員長 衆議院法務委員長 杉浦正健議員) が昨年末に組織された.動物保護法の目的には“国民の間に動物を愛護する気風を招来し,生命尊重,友愛及び平和の情操の涵養に資する” とあるが,相次ぐ少年犯罪への対処も絡めこの法律を実効性のあるものとするために各政党とも関心を示しているものと思われる.

 また,わが国の動物福祉は欧米に比べて遅れているとして欧米並の動物福祉を実現することを目的にこれまで幾つかの動物愛護団体が 動物保護法の改正を求めてきた経緯があるが,その諸団体が提携し,昨年の10月に「動物の法律を考える連絡会(連絡会)」を結成した. 小委員会はこの連絡会をはじめ関係者からのヒアリングを行っており,これから本格的な改正作業に入るとのことである.

 去る7月26日に連絡会が東京において「動物保護法を考えるシンポジウム」を開催したが,そのシンポジュウムに関して多くの新聞社 が報道しており,一般市民に対し動物保護法改正への関心を示すよう呼びかけている.

 以下は連絡会が要求している動物保護法の改正(案)の骨子である.

  1. 動物及び動物虐待・遺棄の定義を明確にする.
  2. 罰則を強化する.
  3. 動物虐待等の調査、監視及び適切な指導のための査察制度を設ける.
  4. 動物取扱業を許可制にする.
  5. 動物実験を許可制にし、民間人を含めた動物実験倫理委員会及び査察制度を設ける.

 上述の骨子にもあるように連絡会(案)は動物実験にも厳しい規制を加えようとしているため,今回の動物保護法の改正の動きは動物実験 を行っている研究者にとっても,また我々動物実験施設に働く職員にとっても極めて重大な問題である.そのため連絡会が真に何を求めているのか を知るために,そのシンポジュウムに参加してきた.

 また,私は平成元年と2年の2度にわたり文部省科学研究補助金「国際学術研究」の交付を受けアメリカ合衆国とカナダの動物実験関係機関を 訪問し,動物福祉の状況を調べてきた.さらに,平成8年には文部省補助金「海外研究開発動向調査」の交付を受けシカゴ大学医学部に滞在し、利用 者の立場から動物実験施設を眺めてきた.

 そのような関係で,今回の講演では動物保護法改正に関するわが国のこれまでの動きとアメリカ合衆国およびカナダで見聞した動物福祉の実際に ついて報告し,今後わが国の実験動物に関する法律がどうあるべきかについて参加している皆さんからご意見をうかがいながらともに考えてみたい.



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