動物実験施設における動物福祉の推進とセキュリティー対策

松田幸久(秋田大学医学部附属動物実験施設)

抄録

1999年に改正された「動物の愛護及び管理に関する法律」では、動物実験に関しては「現行の基準に基づく自主管理を基本とすべき」として、今回の改正から除外された。ここでいう自主管理とは、大学を例にあげると、1987年に文部省学術国際局長から出された「大学等における動物実験について(通知)」に基づいて、各大学が自主的に動物実験指針を制定し、動物実験委員会を設置して「科学的にはもとより動物福祉の立場からも適切に配慮された動物実験の実施を図る」というものである。この行政指導に基づき各大学では動物実験委員会による実験計画書の審査を実施するなど、実験動物の福祉を推進している。また、インターネットの普及した情報社会において動物実験関係者への動物福祉の推進、さらには動物実験に対する一般社会の人々の理解を得ることを目的として自主的にホームページ(HP)を開設している動物実験施設も増えている。当施設でも数年前からHPを開設しているが、最近、HPを見た動物実験反対者から施設職員に対する悪質な脅迫メールが送られてきた。このため、HPから施設職員の名前を削除するとともに警察(ハイテク犯罪対策室)に届け出るなどの対策を講じた。

ところで2000年に「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」が施行されたが、動物福祉の推進にあたり各大学の自主管理では不十分であるとして、愛護団体の関係者を含む個人から幾つかの大学が動物実験計画書の開示請求を受けた。某大学では国立大学医学部長会議の見解をもとにプライオリティーと個人の識別情報を除いて実験計画書を開示したところ、開示請求者から全面開示を求めて不服申請が出された。大学側と請求者の意見を調整するために内閣府に諮問した結果、動物実験の責任者、従事者の個人名(講師以上)および動物実験が行われる場所等を開示するようにとの答申が出された。

開示情報は請求者以外の者が見ることも可能であるため、先のHPに対する脅迫状への対処と同様に実験計画書の開示にあたっては個人名は出すべきではないと考える。諸外国においても動物実験計画書を全面開示しているところはほとんどなく、わが国と同様に国立大学の多いニュージーランドでは「研究機関や組織で働いている職員の安全をまもる必要がある場合には、実験計画書に含まれる個人名および実験操作が行われる場所を非開示とすることは受け入れられる」としている。

特に、最近では英米においてSHACと称する過激な動物実験反対団体が動物実験関係者に肉体的、精神的苦痛を与えており、これらの団体がわが国の動物実験施設にも不法侵入したとの報道がある。このような状況からわが国でも実験関係者および動物実験施設のセキュリティーに配慮する必要がある。今回は当施設に送られてきた脅迫メールへの対応、さらには基準の改正も含め、ソフト面でのセキュリテー対策にについて述べてみたい。

松田助教授の講義・講演・学会発表
松田助教授のプロフィールへ