第4回国際代替法会議で見られた使用動物数と動物種の最近の動向

松田幸久 秋田大学医学部
はじめに

 8月11日から15日までニューオリンズで開催された第4回国際代替法会議に参加した。「実験に使用される動物の種類と数ならびにその動向」というセッションにおいて,わが国の状況を報告してきた。同セッションの演題と発表者を以下に示す。
 今回のフォーラムでは,同セッションにおいて発表した資料を含め,英国,カナダ,ニュージランドおよび米国の使用動物数と動物種の最近の動向について紹介する。

実験動物の使用数調査

 英国,米国,カナダおよびニュージーランドでは,教育,研究,安全性試験等において実験に使われた動物の数を調査し,公開することが法律等で定められている。 ただし,マウス,ラットが動物福祉法の規制対象外である米国では実験に使用された動物の総数を把握することは難しい。そのためNABR(National Association for Biomedical Research ) の資料1)を もとに米国において実験に使われた動物の使用総数を推定した。また,わが国には実験動物の使用数を調査し報告するための法律はない。 そのため,今回示した使用数は日本実験動物学会が3年に一度行っている調査結果2)にもとづいた。 学会が行った調査の対象は動物実験を行っている大学、研究機関そして企業である。回答はあくまでも自主的なものであるため, ここに示す数値がわが国で使用された全ての実験動物数を示しているものではない。特に,マウス,ラットを多く使用している企業からの回答が少なかったため, それらの値には多少の誤差がある。しかし,それ以外の動物種については比較的正確な数値であると思われる。
 各国の調査年度は,日本が1998年度,英国が2000年度,カナダが1999年度,ニュージーランドが2000年度,そして米国が 1997年度と統一性がない。これは発表者の資料に依拠したため等であるが,各国の使用動物数を比較するのに不都合はないと考える。 ただし,各国の詳細な使用数についてはセッション内だけでは十分に把握することができなかったため,他の資料を参考とした3,4,5,6)


各国の実験動物総使用数の比較

 表には日本,英国,カナダ,ニュージーランドおよび米国において使われた動物の数を示している。使用総数は日本では5,626,116匹,英国では2,714,726匹, カナダでは1,746,606匹,ニュージーランドでは324,395匹と報告された。米国の動物福祉法ではマウス,ラットが規制対象外の動物であることから実験に使われた動物使用総数の正確な資料を得るこ とはできないが,マウス,ラットを除いた1997年の米国の動物使用数は1,267,828匹となっていた。本セッションにCCAC(Canadian Council on Animal Care)から参加したClementは1980年にカナダで 使用された動物は1,342,431匹であるのに対して,その年に米国では12,000,000〜32,000,000匹の動物が使われたと見積もっている。ちなみに1980年におけるマウス,ラットを除いた動物の使用数は 1,661,904匹とUSDAから報告されている。また, NABRの資料には米国で実験に使われる動物の85~90%がマウス,ラットであると記載されている。

表 各国における実験動物の使用数

動物種

日本

(1998)

英国

(2000)

カナダ

(1999)

ニュージーランド

(2000)

米国

(1997)

マウス

3,153,272

1,606,962

648,550

93,805

動物福祉法の

規制対象外

ラット

1,529,676

534,973

268,583

10,776

イヌ

21,571

7,635

7,444

985

75,429

ネコ

4,847

1,813

2,576

332

26,091

サル

9,037

1,494

1,131

記載なし

56,381

その他

907,713

561,849

818,322

218,497

1,109,927

合 計

5,626,116

2,714,726

1,746,606

324,395

1,267,828



 これらのことから1998年に米国では約12,000,000匹の動物が使われたと推定した。したがって, 日本の動物使用総数は少なくともニュージーランドの17倍以上,英国の2倍以上,カナダの3倍以上,米国の1/2以下ということになる。

各国で使用される主な動物種と全体に占める割合

 各国で実験に使用された動物種は表に示した通りである。その他の項目には,ウサギ,モルモット,ハムスター,家畜, 鳥類,両生類,は虫類,魚類などが含まれる。ほとんどの国において同様の動物種が実験に用いていられている。
 マウス,ラットの使用数は日本では約4,682,948匹,英国では2,141,935匹,カナダでは917,133匹,ニュージーランド では104,581匹と報告された。米国で実験に使われる動物の85~90%がマウス,ラットであると前述したが,それに基づけば米国で1997年に使用されたマウス, ラットは約 10,000,000匹と推測される。したがって,日本でのマウス,ラットの使用数は少なくともニュージーランドの45倍,英国の2倍,カナダの5倍, 米国の1/2ということになる。日本と英国においてもマウス,ラットが全体の約80%,を占めていた。これに対してカナダとニュージーランドでは,それぞれ 53%と32%を占めるに過ぎなかった。表には示さなかったが,マウス,ラットに代わりカナダでは魚類(23%)が,ニュージーランドではヒツジ(約20%) と魚類(22%)が多く使われているのが特徴的であった。
 イヌ,ネコ,サルの使用総数は,日本では35,455匹,英国では10,942匹,カナダでは11,151匹,ニュージーランドでは 1,317匹,米国では157,901匹と報告された。したがって,日本のイヌ,ネコ,サルの使用数はニュージーランドの25倍,英国およびカナダの約3倍,米国の1/ 4ということになる。使用動物総数に占めるイヌ,ネコ,サルの割合は各国とも1%以下であった。ところでニュージーランドでは特別な場合を除いて,サルの使用 が法律で禁止されている。そのためか,サルの使用数は記載されていなかった。また,日本でも野生捕獲ザルの実験使用が問題となってきている。

実験に使われる主な動物の使用動向

 1990年以後,英国においては動物の使用総数が着実に減少していたが,ここ数年その減少が停止している。それは遺伝子改変マウス の使用増加によるものである。この傾向は米国,カナダ,日本においても同様であるが,ニュージーランドでは遺伝子改変マウスはそれほど使用されていなかった(動物総使用数の1.5%)。 今後は遺伝子改変マウスに対しても3Rを適用していくことが本セッションで話し合われた。
 米国とカナダでは州によってパウンド動物(いわゆる自治体由来のイヌおよびネコ)の使用が認められている。カナダでは1999年に使用されたイヌ とネコの50%近くがパウンド由来であった。米国では1989年にイヌとネコを合わせて207,255匹が使われた。しかし,イヌとネコを実験に使用することに関して反対する意見も多く 1997年に使用されたイヌ,ネコの合計は1989年の1/2にあたる101,520匹であった。日本では1990年にイヌとネコを合わせて86,578匹が実験に使われたが、1998年は26,418匹と 1/3に激減している。これは動物管理センター由来のイヌ,ネコが実験に使用できなくなったためである。1991年に東京都が動物愛護団体の要請を受け入れ,研究機関へのイヌ,ネコの 譲渡を中止したことを契機に、多くの自治体が研究用の譲渡を中止している。2005年までにほとんどの自治体が譲渡を中止する予定であることを報告した。ところで他のセッションにお いてであるが,殺虫剤や除草剤の安全性試験にはイヌが必要であるとの強い主張があった。前回のボローニャ大会ではイヌの実験使用に関してはどちらかというと研究者側は動物愛護側に 押され気味であったが,今回は研究者の姿勢が積極的な方向に変わったように受け取れた。

おわりに

 このようにわが国でも動物実験に対して反対の立場をとる人々が増えている。1999年に「動物の愛護及び管理に関する法律」が改正されたが, 動物実験については既存の「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」に基づき,引き続き自主管理するように求められた。しかし,動物実験に対する社会的な合意を得ることおよび 国際的なハーモナイゼーションを考慮すると,わが国でも3Rに基づいた基準に改正する時期にきている。基準の改正にあたっては,実験に使用された動物の数を調査し,公開することを 規定に盛り込むべきである。そうすることが3Rの一つであるReductionを推進させることにつながると考える。

参考資料
  1. NABR (National Association for Biomedical Research)
  2. 1998年度実験動物使用数調査の結果について,実験動物ニュース Vol. 50 No.5 57-63
  3. Home Office, Animals in Scientific Procedures, Annual statistics
  4. CCAC(Canadian Council on Animal Care) Facts & FiguresCCAC Animal Use Survey - 1999
  5. National Animal Ethics Advisory Committee - MAF Biosecurity
  6. USDA (United State Department of Agriculture) Animal Welfare Report(1997)


ANIMAL NUMBERS AND TRENDS, FROM THE 4TH WORLD CONGRESS ON ALTERNATIVES AND ANIMAL USE IN THE LIFE SCIENCES

Yukihisa Matsuda

Akita University School of Medicine

This is the report about the 4th World Congress on Alternatives and Animal Use in the Life Sciences held on New Orleans from August 11 to 15, 2002. I introduced the animal numbers and trends used for experiments in Japan. In this congress, I could get the information about the animal numbers and trends in UK, Canada, New Zealand, and US. Therefore I compared these statistics with that of Japan in this report.

The total numbers of animals used in each country were completely different. For instance, 5,626,116 animals were used in Japan, 2,714,726 in UK, 1,746,606 in Canada, 324,395 in New Zealand and about 12,000,000 in US. Almost over 80% of the animals used in experiments were rodents including mice and rats in Japan and UK as well as US. On the other hand, in Canada and New Zealand, rodents were 53% and 32%, respectively. The sum total of dogs, cats, and apes were less than 1% in every country.

Although the total numbers of animals used in UK was decreasing steadily after 1990, the reduction has stopped for few years. It is based on the increase in use of genetically-modified mice. This tendency was the same also in US, Canada, and Japan. In this session, we discussed about the application of 3R to those mice.

In UK, Canada, US, and New Zealand their governments are required by law to survey and report the number of animals used in research, education and testing. However, in Japan no law obliges us to survey and report the number of animals used in experiments.

In order to get the social agreement and the international harmonization to animal experiments, our law or standard should be revised to survey and report the number of animals used in research, education and testing. By such revision, Reduction will be promoted effectively in Japan.