Sections A The IACUC (Background and History)

背景と歴史

 20世紀半ばまでは、米国で研究に使われる動物に対する責任は直接研究者の手に委ねられていた。そのため動物に対する管理や福祉の状況は研究機関によって大きく異なり、同じ学校や研究機関、研究室の中でさえ動物の管理方針や管理基準は一定していなかった。

 1961年にシカゴの研究機関で働いていた獣医師のグループがAnimal Care Panel(ACP)を作った。ACPは研究機関における動物の管理と使用に関する指針を確立するための委員会を設けた。その委員会の役割はGuide for Care and Use of Laboratory Animals(以下Guideと略す)の第1巻(1963年)の発行であった。このGuideは、その後NIHによって支持され、ILAR(Institutional of Laboratory Animal Resources)の援助のもとに何回かの改訂を加えた。ILARはその後、Institutional for Laboratory Animal Researchと名前を変えた。NRCの援助のもとにNational Academy Pressより1996年に最新の改訂版(第7巻)が出された。この冊子は実験動物の管理と使用の基準に関して最も基本となる参考資料であり、米国における指針である。1996年版は6カ国語に翻訳出版され、40万部を越える部数が世界中で使われている。

 ACPは研究機関で行われている動物の管理と使用状況をGuideに基づいて評価する必要性を感じ,1963年にAnimal Accreditation Committeeを設立した。この委員会は程なくACPから独立して運営すべきであると決定され、1965年にイリノイ州にAAALAC(American Association for the Accreditation of Laboratory Animal Care)ができあがった。この独立した認定機関は1996年に名前を変更しAAALAC(Association for the Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International)となっている。

 1966年以前には実験動物の福祉に関する米国の連邦法は存在しなかった。地域の動物福祉を求める人々がペットや産業動物の責任ある取り扱いを積極的に押し進めた。同じ頃科学団体も実験動物の管理や福祉の質を改善する必要性を感じていた。
 この当時、研究機関で使用するイヌとネコの需要が高まり、一部では種々の手段で動物を入手し研究室に売りさばく動物業者が横行した。動物業者による動物の放置やいじめ、ペットの盗難といった一連の新聞記事やニュースレポートがあり、1966年にライフ誌が記事と写真を掲載したことからこれらの報道は最高潮に達した。その記事では特に研究に使われるイヌとネコに対して規制を設け、法的に取り締まる体制を確立する必要性が述べられた。
 ある部分では、この記事に触発されてLaboratory Animal Welfare Actが1966年に国会を通過し(Public Law 89-544)、実験動物の管理と使用に関する米国の法的規則が確立した。このLAWAは何度か改正され現在知られているAWAとなった。
 この新法を実施し、取り締まりの責任を負う機関として指定されたのがUSDAである。USDAはすぐに施行規則を公布し,研究施設と業者には登録あるいは免許の取得が義務づけられた。USDAの職員はそれらを査察し,規則を遵守していない場合には召喚状を発行する権限が与えられた。しかし、当初の査察は研究者が動物を飼育・使用している研究室にまでは及んでいなかった。
 AWAが何回か改訂され、現在のような実験のための動物の輸送や海生ほ乳類、そして実験動物へと広げられていった。しかし、USDAの現行の施行規則では一般に実験に用いられているマウス、ラットおよび鳥類、そして農業研究のために使われる家畜は除外されている。

 この問題に関してはPHSの全ての方針で取り扱わており,それは1971年にNIHから出されたPolicy即ち Care and Treatment of Labratory Animal(NIHのPolicy)まで遡ることができる。このNIHのPolicyは実験動物の適正な管理と人道的な取り扱いに関して述べているNIHとPHSの各種の資料を参照している。それらの資料にはGuideも含まれている。そしてこれらの動物の適正な管理と使用を確かなものとするために研究機関に動物委員会を導入している。

 1971年のNIHのPolicyでは、NIHの補助金等を受けて温血動物を用いて研究や教育を行っている研究機関は、それらの動物の管理と使用、取り扱いに際してGuideを遵守して適正に行っていることを、研究機関自身が評価し、NIHに保証することを要求している。研究機関は専門家を有する動物実験施設認定組織のAAALACによって認定されるか、動物実験委員会を設置することによりGuideを遵守して適正な動物実験の管理と使用を行っていることを保証することができる。
 委員会の委員の最小数については特に述べられていないが、少なくとも1人は獣医師でなければならない。各委員会(IACUC)のガイドラインにはGuideは勿論のことAWAの全内容、Principles for the Use of Laboratory Animalとして知られているガイドラインの付録も含まれる。IAACUCは少なくとも年に1回は研究機関の動物施設を査察し、研究機関の担当責任者に対して報告し、改善すべき箇所があれば、それを改善するように勧告することが求められている。活動記録と勧告はNIHの代表者が査察する際にいつでも入手できるようにしておくことが要求されている。
 動物の管理と使用に関する最初のPHSのpolcyは1973年7月1日にNIHのpolicyに置き換わった。そして研究機関の委員会に代わりAAALACの認定を受け入れることを継承した。1979年1月1日に修正されたPHSのpolicyでは動物を用いた研究で資金援助を受けている研究機関は動物の管理計画の監督をする委員会を持つことを要求し,そして動物の定義を全ての脊椎動物まで拡大した。修正されたpolicyでは資金援助を受けて動物あるいは動物実験施設を利用して行う研究においては,それを行う前にGuide, PrinciplesそしてPHSのpolicyに従うことを約束する保証書をOPRR(現在のOLAW)に提出することが求められている。

 研究機関では委員会の委員の身分と資格を記したリストを提出すること,委員会は少なくとも1人の獣医師を含む5人以上の委員で構成されなければならないことを要求している。委員は研究に使われる動物の管理と使用についての知識を持っていなければならない。

 1979年のPHSのpolicyではGuideを遵守していることを証明する手段としてAAALACの認定を受け入れることを継承した。しかし,その代わりとしてIACUCが機関内の施設および動物実験を1年に1度は調査することとなった。研究機関はGuideを遵守していない部分あるいはPHSのpolicyを実施するに当たって遭遇する問題点などをNIH(OPPR)に報告することが要求された。そして全面的にGuideを遵守するために努力していることを示すannual reportを提出することを要求された。個々の実験計画をIACUCが審査することを奨励はしているが,要求はしてはいない。

 PHSのpolicy(正式にはPHS Policy on Humane Care and Use of Laboratory Animals)の最新修正版は,1986年に公布され,1996年と2000年に増刷された。それは動物の管理と使用計画に関する要求事項をさらに詳しく定義し,概説している。この改正されたPHSのpolicyの中にはPublic Law 99-158として1985年11月20日に施行されたHealth Research Extension Act(1985)の条文も含まれている。1986年のPHSのpolicyはPHS内の研究機関だけでなくPHS以外の研究機関にも適用され,研究機関長によって任命されたIACUCの委員を置くことを要求している

 動物を用いた研究活動がPHSの資金援助を受けて行われている場合には、IACUCは研究機関内でのその活動計画や施設の全て(施設外の動物実験が行われる場所を含む)を少なくとも1年に2回は調査し,報告書を準備しなければならない。IACUCには研究機関の担当責任者を介してGuideの要求事項を遵守していることを報告する責任がある。IACUCの委員から出された意見は少数意見であっても報告書に含まれていなければならない。PHSのPolicyでは研究者,動物技術者,そして動物の管理,取り扱い,使用に関わる人に対して教育訓練を行うことも要求している。この教育訓練では人道的な動物の管理と使用だけでなく,試験・研究において再現性のある結果を得るために必要な最小限の動物数を決める方法や動物の苦痛を最小限とする方法を教えている。

 実験動物を使用する連邦機関の代表からなるInteragency Research Animal Committee(国内政府機関動物委員会)は1985年に“U.S. Government Principles for the Utilization and Care of Vertebrate Animals Used in Testing, Research and Training”を布告した。これらの原則はその後1986年のPHSのPolicyに取り入れられ,今日まで動物を用いる連邦機関のモデルとなっている。

 1986年のPHSpolicy修正版の公布に伴い,OPRR(現在のOLAW)は国内において広範な教育計画を開始した。その計画とはOPRRが協賛して,異なった地域にあるGuideを遵守している優れた研究機関の協力を得て,1〜2日のワークショップを開催することであった。当初のワークショップの多くは1986年にPHSのpolicyで述べられている基本的な条項,例えば,実験計画書の審査,年2回の研究計画の評価)に焦点が当てられた。今日では年に4〜5回のワークショップが開催されており,最近の話題は一般により具体的となり,performance standardや野外研究,実験動物の管理技術などの分野にも広がっている。1995年以降はOLAWは教育の役割をインターネットを中心とした教育に変えてきている。その中には各種のWeb siteがあり,研究機関がPHSのpolicyを実施する上で助けとなる書類のサンプルもある。また,ARENA IACUC 101 programや本書である改訂されたARENA/OLAW Guidebookもある。

 研究に使用される動物の入手や福祉に特別に関心があるグループは実験に使われる動物の管理と使用に影響し続けている。これらのグループには動物の福祉と安寧に関心のある地域の人道協会と全国規模の人道協会が含まれる。そして研究に動物を用いることに反対している動物実験反対グループも含まれる。幾つかの動物権利グループの活動は1980年初頭にはよりエスカレートし,声高になった。この活動は不法侵入や破壊活動を繰り返し,その後間もなく,動物虐待,無慈悲な行為などの容疑がかけられた2つの事件(1981年のシルバースプリングサル虐待実験と1984年のペンシルバニアサル頭部損傷実験)を一般市民の前に持ち出した。この2つの事件には一般市民も関心を示し,動物福祉のためのguidelineや規則を改善する起爆剤となった。

 AWAの1985年の修正をもとにした新たなUSDAの規則は,1989年の10月と1991年の8月の間に施行された。これらの規則は各登録施設はIACUCを設立し,IACUCは1人の獣医師を含む少なくとも3人以上の構成であること。IACUCは研究施設が法律を完全に遵守していることを保証する施設の代理人として機能することを求めている。規則は動物の適正な管理と取り扱いについて関心のある一般社会を代表する人で,施設とは無関係な人を委員にすることも要求している。これらのUSDA動物福祉規則とPHSのpolicyには多くの共通した要求項目が含まれている。

 SCAWは地域の協議会やワークショップを通して,IACUCの機能や構成について早い時期から研究機関にアドバイスを与えるために役立ってきた。その結果は,1987年のAALASの出版物“Effective Animal Care and Use Committee”に結実した。1983年以後,この種のガイダンスと訓練はPublic Responsibility in Medicine and Research (PRIM&R)やApplied Research Ethics National Association (ARENA),OLAWの協賛による地域のワークショップそして同じような多くの活動によって行われている。初版のInstitutional Animal care and Use Committee GuidebookはARENAの後援のもとに専門家の委員会で執筆され,1992年にNIHによって出版された。現在の版は最初の改訂版であり,2002年に出版された。

 1990年代にはIACUCが責務を全うするための方法に改革があった。それは一部にはPHSのpolicyと動物福祉規則が行き渡ったことにもよるが,しかし,方法試行的基準(engineering standards)とは反対の結果試行的基準(performance standards)を強調したGuide(1996年)の改正と,職業上の健康計画に焦点をあてたILARの報告書Occupational Health and Safety in the Care and Use of Research Animals(1997年)の出版によるところが大きい。この改革に貢献した他の要因としては,遺伝子改変動物の開発,in vitroにおけるモノクローナル抗体の作成など学会からのものであった。IACUCとしては研究機関とは無関係なそして科学とは無関係な委員から多くのことを学ぶことができ,そのような人たちの役割は大きかったと理解している。1990年代に洗練された他の分野の進展があり,それにより研究における人道的なエンドポイントとサルの環境エンリッチメントの改善があった。IACUC委員および動物使用者の教育訓練には多大な努力が払われ,数多くの教育訓練プログラムが実施されたが,その中でOLAW, USDAそしてAAALACのすべてがIACUCの機能を増強するように努めため。

 IACUCのコンセプトははじめHuman institutinal Review Boardをまねて作られたが,動物福祉を評価しその実現に努力するIACUCの姿勢は今や動物実験を行っている学会ならどこでも実施されるようになっている。各IACUCの目指すところは研究機関それぞれの要求に見合うように柔軟に指針や規則を運用しつつも研究に使われる動物の人道的な管理と使用に努めることである。IACUCへの科学者の積極的な参加は研究者の科学的な要求に応えるために重要であり,また,研究機関と無関係な委員の参加は一般市民の考えを取り入れるのに役立っている。そして獣医師の関与は適切な医学的な治療や動物の安寧にとって重要である。動物の管理と使用基準そして倫理原則が常に最高のレベルで応用できるように絶えず教育計画を見直すことが必要である。

訳 松田幸久


倫理的動物実験