ブリタニカ国際大百科事典(1974年版)から


動物実験 Animal experimentation

 健康状態および病的状態の生活現象を、実験的に動物を用いて研究することである。動物実験は広義の医学、すなわち医学、歯科学、薬学、獣医学、基礎生物学などの分野での研究のために行われる。外科学では手術の実習に用いられる。予防ワクチン、免疫血清、抗毒素血清、抗蛇毒血清の製造にも利用され、また薬品、生物学的製剤および食品添加物の試験や検定、さらに病気の診断にも役立っている。

 広義の医学研究において最も有効な手引きとなってきたのは、比較観察の方法である。すなわち、多様な生活現象の比較研究によって、基礎知識を組立てることである。このような観察は、超顕微鏡的ウイルスからゴリラにいたるまでの生活現象の研究を包括している。最もよく用いられる実験動物はカエル、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ニワトリ、ハト、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、サルである。研究計画の性質によって、特別な生物が用いられる。たとえば酵素の研究には単細胞生物が用いられ、遺伝の研究にはショウジョウバエが好適である。ほ乳類で最も多く使われるのはマウスである。

生体実験反対運動

 動物を研究の用に供することに反対する生体実験反対主義の組織的運動は、19世紀の中頃に始まった。それはちょうど、フランスの天才で生理学の始祖と仰がれるベルナール Claude Bernardの実験的研究によって広義の医学の研究が着々と進められていた時代であった。しかし、皮肉なことに、ベルナールの妻と娘は、生体実験反対主義の指導者となった。

 イギリスでは闘争的な組織が1875年に設立され、「生体実験に供される動物を守る会」と名づけられた。1897年、これを国立生体実験防止協会 the Nationak Antivivisection Societyと改め、今日にいたっている。同様の協会は、動物虐待防止法制定以来、ほかにも設立されたが、これらはすべて、動物実験の全面廃止を提案している。イギリスでは動物実験反対運動のための寄付金は免税になっていない。

 アメリカ合衆国では1883年に生体実験反対協会が設立された。1955年には5つの国立協会を含めて、200以上の協会が設立されている。

動物実験の法律

 世界の多くの国で、動物実験は慣習法で是認された行為として受け入れられている。また国によっては制定法で規制されている。

 イギリスにおける動物実験に関する法律は前述の動物虐待防止法で、1876年に制定された。この法律はほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類を対象としており、無脊椎動物は除外されている。この法律では、動物実験を「生理学的知識の進歩に貢献するものであり、広い分野の生物学的研究、あるいは人および動物の生命の維持と延長、病気の苦痛の軽減に役立つものでなければならない」としている。またやむをえず必要な外科手術の術式の研究以外の、単に腕を磨く目的での動物実験を禁じており、これを見せ物にすることを禁じている。1963年、動物実験に関する委員会が設立され、1965年に83項目の勧告を行ったが、そのうちの49項目は新しい立法を要する内容のものである。この法律は厳重かつ順当に適用されているので、実験動物が動物虐待と呼ばれるようなことのないように十分保護の役割を果たしている。それと同時に科学がその成果を追求することの妨害にもなっていない。同様の法律が北アイルランドとマン島にも制定されている。

 アメリカ合衆国では、大学病院およびインターン教育などのできる指定された大学病院の外科学研究室がイヌを教育や研究に用いているが、1966年、議会は研究室に動物を納入する業者によるイヌやネコの売買を規制する法案を可決した。ウサギ、モルモット、ハムスター、サルの売買もまた、イヌやネコを取扱う業者によって売買される場合に限って規制を受けることになった。この規制は農務省から出され、これにより動物の調達、保存、輸送、格づけ、記録などが行われている。1945年に設立された連邦医学協会National Society for Medical Researchは医科大学、歯科大学、獣医大学および各研究機関などの支持を受け、動物実験に関する広報活動を積極的に行った。続いてある州や市では、引き取り手のない放浪動物を官設の檻から認可された研究所に移し、実験に役立てる法案を通過させた。

Nathan Brewer; William Lane-Petter(山本脩太郎訳)


 なおフランス、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、ギリシャ、ユーゴスラビア、ソ連では実験動物の使用に関する法的制限は設けられていない。デンマーク、フィンランド、西ドイツ、イタリア、スエーデンの各国は法律上、イギリスの状態に近い。スペイン、スイスでは法案が1960年代後半になって検討されることになった。なお、デンマークでは1953年に法案が通過し、脊椎動物を実験に使用することを規制している。オーストリア、ノルウェー、ポーランドでは、動物実験を行う者には免許が必要とされている。ベルギー、チェコスロバキアでは、法律で使用する動物の数を最小限とすることが要求されている。リヒテンシュタインでは、実験動物の使用は禁止されている。

Frances Jean Vinter(山本脩太郎訳)



動物実験と福祉