“「動物保護法」を考えるシンポジウム”を聞いて



 個人的な見解ではあるが,参加した愛護団体にはそれぞれの活動方針および主張があるようで,動物保護法の改正の内容に関しても各団体の思惑が反映した結果,闇鍋(やみなべ)的改正案になったものと思われる.以下に吉田氏の基調講演その他を記述する.



吉田氏の基調講演の内容:

【現行法制定の経緯および今回の改正を求める流れ】

 昭和48年当時は捕鯨問題で日本が世界からバッシングを受けていた頃であるが,その前後に英国首相やエリザベス女王の訪日,天皇の訪英があり,日本としても先進諸国に伍する動物福祉法が必要であった.そのため急遽議員立法で動管法が成立した.したがって,第1条(目的)および第2条(基本原則)を見る限りにおいては先進諸国からの評価にも十分耐えるものであるが,それはあくまでも努力目標であり,国民に是非とも守らせるという姿勢に乏しく実効性のない法律である.しかし,昨今は動物に対する国民の理解と愛情が深まり,動物の遺棄,虐待に対して厳しい批判があるため,現在の動管法では国民感情にあわなくなっている.また,日本は動物に関する法律が先進諸国に比べ少ないこともあり,動管法も含めて動物に関連する様々な法律を充実させていく必要がある.このところの動物虐待報道の増加、ボランティア活動の社会での根付き、官僚の社会への抵抗?の減弱(歩み寄り)等の追い風は,動管法改正の未曾有のチャンスである.



【改正案の内容および改正に対する戦略】

 連絡会議が作成した動管法改正案は,改正したい中身をいろいろ盛り込んだために具沢山だか、改正の焦点がぼやけており闇鍋(やみなべ)的改正案となっている.現行法に全部盛り込みたい意欲はわかるが、この際はあまり欲張らず是非とも改正したいものを絞りこみ、その他のものに関しては関連する法律(基準?)において要求して行くべきである.特に,動物の保護中心なのか管理中心なのかについて内容を整理して,一般の人々さらには国会議員に理解してもらえる改正案ににすべきである.



【動物の位置づけ(動物は物か物でないか)】

 日本の法律には「人」であるか「物」であるかの2分法の概念しかない.そのため,現行法では動物は「物」として取り扱われている.しかし,動物の目線で物事を考えるとき,現行法を3分法にし「人」,「動物」,「物」の3つに区分することが最も重要である.ドイツではすでに動物は「物」ではないとする法律の条文をもっている.もっともドイツにおいてもこの条文は何物かといった議論のあるところであるが,とにかく2分法を捨てて3分法をとっている.



【動物の目線から見た動管法】

 動物の法律を考える場合,人の目線で考えるか,動物の目線で考えるかの2つがある.人の目線で考えるとは,人の利益を中心としたものであり,産業動物や実験動物に見られるように動物の多少の犠牲はやむを得ないとするものである.動物の目線で考えるとは,動物に関わる人の立場がどうあれ人に基本的人権があるように動物にも基本的な権利があるとするものである.これまでは人の利益を中心とし過ぎた法律でが作られていたが,先進諸国では人の目線を基本にしつつ,その範囲で可能な限り動物の目線で考える法律が作られているが,日本ではその点が先進諸国に比べて劣っているのではないか. 最後に,ペットに開かれた社会、ペットにやさしい社会を目指して社会の仕組みを変えて行こうとの訴がなされた。



小原氏の動物と人との係わり方についての内容:

 動物の生命を尊重するに当たっては動物の習性を理解し、その固有の習性の違いを認めた上で、その動物の目線で接する必要性のある.また,人間は地球上の自然資源を消費しなければ生きていけない動物であるが,その消費に関してどこで線を引くかについての個々人の判断が今後必要になってこよう.例えば食肉の対象として魚まではOK、カエル以上は不可というような線引きであるが,この考えは食料としての選択にとどまらず,業を営む人間はそれぞれの立場で動物の利用に対して線を引く必要があろう.そう言った意味において,動物を管理するのではなく、ヒトの考え方を管埋する新しい文化/文明の創造が必要である。



エリザベス・オリバー女史の追加発言:

 エリザベス・オリバー女史より神戸での動物救済活動の現状が紹介された.動物の引き取りを求める問い合わせが多いが、1団体の活動では収容能力に限界があって期待?に応えられない空しさを感じるとの所感が述べられ.また,日本と諸外国とでは家庭で飼育が困難になった動物に対して取り組みに違いのあることが指摘された。これらの動物について公的機関での対応を要望する発言には会場から拍手があった.



パネラーの小原氏より会場の聴衆に向けての質問:

 上記事項に対するイエス・ノーを挙手による意思表示でQ:「あなたの動物を避妊した上で飼育しますか?」との問いかけに、A:中年女性を中心にほぼ大多数が挙手し、続いて「避妊しないで飼育する」の問いに男性2人ほどが挙手したところ「ど一お一してえ一」との怒号(罵声か)が会場内を飛び交った。



児童作家の井上女史が発言:

 最近「星空のシロjを刊行したが、子供達に夢を育んでもらうことと現実の社会での(残忍な)出来事を知らせることの落差・矛盾を感じる悩みが披瀝された。



講演内容へのフロアからの質問:
  1. 他人の飼育動物(ネコ)の出す排泄物による迷惑にはどう対処すべきか?
  2. 鳥獣保護法も改正されることを突然知らされたが,その改正に対する反対運動を起こすにあたり大変苦戦している.どう対処すべきか?<とにかく理性ある対応がよいと思っている、との質問者の意見表明には会場から拍手あった>


文責 千葉大学 伊藤、秋田大学 松田